混沌



※三人称視点




――ッ!!


 幾つもの騒めきが波紋となって周囲に広がっていった。[上位森人ハイエルフ族]における死とは寿命によるもので、故事的に死者が出たことなど数百年単位で無かった。

 その上で、彼らの目に映るのは同胞の亡骸だった。


「おい……何がどうなってんだ? ケイク? おい、どうしたんだよ……」


 1人の青年と思しき《兵士》がそう呟いた。唐突なる出来事に、周囲が驚愕と困惑に囚われた静寂の中、彼の声は静かに木霊していた。

 やがて、青年の瞳は友の亡骸から移り、その傍らで立つ人物へと動いた。


「な、なあ……何したんだ? ケイクはどうなったんだよ……?」


 青年の言葉を聞き、やがてソレは動いた。


「……くっ…くくっ、くははハハハッ!」


 嘲笑が響き渡った。未だに、彼らはその”事実”を受け止め切れずにいた。


「バカだバカだとは思ってたけど、揃いも揃って大バカものだなぁ……」


――その瞳は赤く、その魔力は黒く、その皮膚は総じて濃い紫色をしている。


「…ぁあ。このクズのことが知りたいんだったか? 教えてやるよ。バカ共の中にも勘の鋭いクズが居たんだなぁ?」


 数々の暴言を受けて尚、戸惑いの表情を見せる彼らに、ソレは小さく溜息を溢す。

 「所詮、長生きなだけの脳筋か」と。それと同時に、深い呆れが沸いてくる。


 興味など無く、ただ一言だけを告げた。


「死んだよ、このクズは」


 再びの、沈黙が舞い降りた。


(はぁ……ホンットに使えねぇ愚図の塊だな森の住人ってのは)


 いや、それ以下か。などとソレが考えた時、事態は動いた。


「貴様は、我らの敵だ」

「へぇ?」


(驚いた)


 ココまでバカだったとは。ソレの視界に映るは、先ほどの兵士とは違う青年の姿。

 

 この[上位森人族]を従える皇、セルレト皇子の姿だった。そのすぐ傍には、後方に控える太古よりの住人たる[銀狼フェンリル族]。

 今、2種族の代表たる2人の姿が表へと出たのだった。


――そして、事態はさらに動く。


「私たち[龍人ドラゴニュート族]は、遥か古代よりこの地に住まい、他種族への干渉を拒絶してきた。それは情などという朧気なものでなく、〝龍〟という種族が強過ぎるがためだ。それを畏怖した他種族との盟約によって、この地で生活してきた」


 これだけの騒ぎと時間を、”戦士”が甘受するはずもない。

 初めの戸惑いも、時が経つにつれて激情へと変わり、そして冷たくなる。


「だが!」


 踏み抜いた足が、大きなクレーターを形成した。一瞬で地形が変わると同時に、『龍力』が可視化される程に集まっていく。


「その盟約が破られたのであれば、私たちは種として、族として《歓迎》しよう」


 今、この場に全ての事件の終着点が訪れようとしていた。

 4つの種族が集い、そして分たれようとしている。


 [龍人族]の代表たるレイドレア・トワレイスがその場に訪れた。






「来い、侵入者ども」


 殺気と怒気が辺り一帯に龍の如く撒き散らされた――。




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