閑話 とある店主の――


 

 [龍人ドラゴニュート族]は、非常に戦闘狂の多い種族だ。

 俺たち龍に仕えし種族がなぜこうも戦うのが好きかと言えば、それくらいしか娯楽が無いからだな。


「よっ、苔屋のおっちゃん」

「おぅ坊主、今日も買ってくか?」


 だから、俺にとっちゃあ《アイツ》が気になって堪らねぇ。

 そう、近くの家に産まれた覇王と名乗る少年、リアスのことだ。


「おっちゃん、なに偏差値低いような顔を唸らせてんだよ? キモイぞ?」

「うっせぇぶち殺すぞテメェ」

「へっ、こちとら客だぜ? それとも何か? ただでさえ売れねぇ苔なんかを趣味で売って赤字続きのおっちゃんの常連たる俺を怒らせて良いのかなァ?」


 うぜぇ。目の前の青年、もとい少年はリアスという小僧の同期だ。

 いわば、近くの年に生まれた子ども。コイツも戦闘に関しちゃあ子供のクセして強いが、時期が悪い。


(まっ、同時期にあんな〝規格外〟が《2人》も産まれりゃあな……)


 リアスと”同じ”日に産まれた少女――確かレナだっけか。あの有名なトワレイス家の娘さんもまた、大そう強いらしい。

 既にトワレイス家当主ですら皆伝したと言っているのだからおったまけたもんだ。


(だが……)


 そんな化け物に、リアスは〝教えてる〟らしいんだからもっと化け物だ。ったく、目の前の坊主――カカズが不憫でしょうがねぇ。


「おいおっちゃん、その可哀そうなモンでも見るような目ぇ止めてくれないか?」

「ふっ、いやなに、坊主ももっと早くに産まれてればよかったなと思ってな」

「お、やっと俺が常連である恩恵に気付いたか」

「バカ言え。テメェなんぞ居なくともやっていけるわ」


 なんて言いつつ、俺ぁこのガキが居ねぇとこの場所に立ってらんねぇ。

 だからこそ、この場所を維持していく必要がある。


「あ、そ。じゃあ俺もぅ来ねぇわ」

「あァー! ちょっと待てちょっと待て。何か勘違いしてないか? 俺は今なぁ――」

「へいへいおっちゃん……見苦しいぜ?」

「殺ス!」


 ま、まあ大丈夫だ。何が大丈夫なのか自分でもわからんが大丈夫だ。


「それじゃ、今日もせんきゅーなー」

「……ああ。また来いよ」


 若干不貞腐れたように返せば、ガキはニヤリと笑って――


「何言ってんだ? ったりめぇだろ」

「くっくっくくっ……ああ、宜しく」


 去っていくガキの背中見ながら、そう呟いた。

 なんやかんやあるが、あのガキは今期産まれてきた子供の中で、唯一普通とも言えるような少年だ。


 何よりも、俺の店の常連であり、客であること以外に意味は無い。

 

 その時、遠くでガキの声が小さく聞こえた。


「お、リアスとレナじゃねぇか。また2人でイチャついてんのか?」

「カカズか。また店主に迷惑掛けてないだろうな?」

「べ、別にイチャついてなんか……」


 二者二様の反応と、その姿がしっかり脳内に浮かぶ。こりゃあ、俺もあのチビ共3人に相当侵食されているらしい。

 その中心に居るリアスの性格が、なんとも言えない対応し易さがあるからかもしれねぇ。


 兎にも角にも、この種族の子供らは全員が生き生きと、そして仲良く生活している。

 そこに化け物みたいな力があろうと、その仲良しな姿があればそれは、俺たちの仲間だ。


「かー! しゃあねぇ……」


 俺はこの村が好きだ。仲間たちが大好きだ。闘い競い合うのも、バカにし合って笑い合うのも。

 

 本当に、良い村だ。






「……よぉーしガキども! 俺が好きな果実奢ってやる!」


「何! ならおっちゃん急ぐぞ!」

「おいカカズ。お前失礼だからもっと礼儀をだな……」

「あ、ありがとうございます……」


 三者三様の返答が、洞窟内で木霊していた――。

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