決闘まで(3)



「【魔法】を発動させるのに必要なのは魔力であって、必ず発動者の魔力が必要な訳では無いんだ」


 だから、3頭の龍もそれを選択した。


「そして、この世界には自然魔力という魔力で溢れている。自ら以外を海へと変えることで、必要な魔力を補ったんだ」


 海は地脈と繋がっているという伝承もあり、魔力量と魔力の変換し易さは桁違いに多い。そこから魔力を抽出すれば、必要な魔力量程度はいとも簡単に溜まるのだ。

 

「そして、あと一つ。魔方陣に必要なものが何か、知っているだろ?」

「発動者だよね?」

「その通り」


 「よくわかったな」と褒めながら、続きを話す。


「龍は、誰もが【龍力】という等しい能力を持っていたが、それにも属性のようなものは存在する。白い龍の属性に最も効果的な属性は、相対する色となる黒い龍だった」


 そこで、他の2頭は大地へと変わり、黒い龍へと魔力を捧げた。

 

「黒い龍は、それから自分も最後の魔方陣の一部となるように、魔法を発動させてから眠ったんだ。それこそが……」

此処獣大陸ってこと?」

「その通り」


 それも、中央たるこの場所で、だ。今となっては、俺たち龍人族すら失われた歴史になっているのだから、他の種族ではわからない。

 それこそ、下手なおとぎ話にでもなっているかもしれない。


「さて、答えは出せたか?」

「答えって……あー!」


 すっかり忘れていたようで、驚いた顔とともに立ち上がった。

 幸い、洞窟の中の開けた静かな空間だったので、人が居ることも無く、騒ぎにはならなかった。


 俺が出したのは、「なぜ、莫大な魔力炉があるのに、【龍化】が使えるのか」というものだ。

 

 ちらりと時刻を確認する。…………………お昼時だ。


「まあ、いつもどおり、解けるまで答えは秘密だ。さあ、お昼にしようか」

「んー!……はぁ。やっぱわかんないなぁ‥‥……よし!食べよー!」


 母さんから、弁当は貰っている。レナと遊んでくると言うと、最近は上機嫌で渡してくる。

 包んでいる布を外せば、バスケットのようなかごの中に、おにぎりがぎっしり詰まっていた。


「わー!やっぱりリアさんの料理は凄い美味しそうだね」


 身を乗り出して中を除いたレナが、目を輝かせながら言った。

 ちなみに、”リアさん”というのは俺の母さんだ。俺の名前がリアスなので、想像のとおり、母さんの名前と父さんの名前の一部を貰っている。



 

…………そして、そう。この弁当、レナと共有する。


 それもこれも、レナと母さんの希望なのだけれど、正直喜んでもらえると俺も嬉しい。

 母さんの事を褒めてくれると、やっぱり嬉しい気持ちなのは子供のままだ。精神は爺だろうけど、反応は年相応で良かった。


 和やかな雰囲気の中、レナと一緒におにぎりを頬張る。


「お、中はレタの実ってことはツイてるな」


 レタの実というのは、洞窟の中の僅かな光と水でも成長する木の実で、水分は少ないけれど糖分が多い。

 別に特別な意味は無いのだが、隣に《レナ》が居ると《レタ》の実は何だか面白い。


「私のは……やたっ、お肉入ってた!」


 レナは、どうやら肉入りのおにぎりだったらしい。美味しそうにおにぎりを咥える姿は、何だか愛らしい小動物に見える。

 レナとは産まれた時から一緒に育ってきたので、いわゆる幼馴染だ。だからこそ、彼女の事は少しばかり知っている。


 それは――


「お前は、本当に肉が好きだよな」

「え?……うん!」


 ということだ。




 コミュ能力なんてある訳ないだろ。王とか言ってるけどぼっちの集まりだったんだから……。

 

「そういうリアスは、レタの実大好きだよね?」

「そう、だな……うん、そうだ。あの甘さと食感は良い」


 そういえば、好みなんて考えたことも無かったが、確かにレタの実は好きだ。

 初めはレナをからかうつもりでよく食べていたのだが、今気付けば愛着もある。やはりレナは人の事をよく見てる。


 チラリと視線を向ければ、おにぎりを持ったまま。俺の視線に気づいて、こてりと首を傾げた。


「なんでもない」


 そう答えてから、俺はこの幼馴染の姿を眺めながら、おにぎりを食べた。



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