VS魔王(2)

~前書き~


 短いですけど、かなり頑張って書いた大事な話です。次話から、大きく進みます。



――――――――





 静かに、問うた声は響き渡った。奇しくも、それは魔王の魔法が鳴り止んだと同時だった。


「……」


 静寂が舞い降りる。沈黙が続いた。やがて、動いたのは魔王だった。

 

「【拡散双延バースト・レ】」


 魔王を中心に光の球体が円を描いて回る。回り、廻り、やがて小さく収縮した。


 途端、


(【絶離結界】!)


 球体が超高速で周囲へと放射された。その様はまさに拡散されたようで、意地が悪い。

 寸前で魔法を完全に打ち消す結界を魔王の周りに張り、球体を防いだ。お陰で、魔力の2割ほどが消し飛んだ。


 だが、これでハッキリとした。


(あれは、魔王なんかじゃない)


 確信を以て、魔王を見つめる。そこには、相も変わらず無機質な瞳で佇む魔王がいた。

 その感情を見えない瞳はきょろきょろと結界を見渡しながら、恐らく破壊を計画している。魔法を打ち消す結界であろうと、それが魔力で出来ている限り対抗手段はある。


(あの枷が破られるのも時間の問題だな……)


 そう考えて、次の行動に移る。現状、《勝っているのは俺》だ。だが、《絶体絶命なのも俺》だ。

 この状況を打破する行動を打ち出さない限り、ジリ貧になるだけだ。


――なら、あれが良い。


「【冥府の武器庫ヘルス・ヘルマス】」


 そう唱えて、俺は巨大な魔方陣を生み出す。

 赤紅色をした魔方陣は、禍々しい雰囲気を出し、その隅からは瘴気が漏れ出していた。


 少し待つと、やがて魔方陣に大量の”歪み”が現れる。次元を超えて具現化されていくのは、地獄の武器、強力な状態異常攻撃を持つ武器たちだ。

 それらは、やがて一斉に魔王を狙い――


「【】!」


 放たれた。その軌道は真っ直ぐに魔王の心臓たるコアへと向かい――


「【酸化板】」


 空中に不透明の板が現れた。そこ目掛けて、武器全てが突撃する。が、しかしその全てが溶かされていく。

 金属の多い武器に、酸の能力が高い魔法は有効的だ。しかも、恐らくほとんど魔力を使っていない。


 上手い対処方法、冷静な判断力、何よりも底の知れない未知の魔法。

 その全てが、魔王という存在の絶大感を醸し出している。


――が、しかし。


 魔王が対処している間に、俺は”詠唱”を終わらせていた。


「――、【炎竜王の息吹イグニス・ブレス】」


 燃え盛る業火、炎を制する竜の王、その最大とも言える威力を誇る息吹だ。

 洞窟の床を溶かし、大気を震撼させながら襲い掛かる。流石にその威力を即席の魔法で対処するのは厳しいと判断したのか、魔王は大きく後方へと跳躍した。


 息吹が迫る中、中規模の詠唱を行う。

 《俺は何もしない》。


「【地転劉壁アースヘクト】」


 不可視の障壁が、業火の炎を中心から割いていく。その様は、まさに無敵の盾。

 長い詠唱と大量の魔力を注ぎ込んだ魔法が何の効果も無しに、全て割けていく。これで、折角のチャンスをも逃してしまった。


 炎の先にチラリと見えた魔王が、蔑んでいるように見えた。その瞳が、確かに俺を見下していた。




――おい、なぁ《バカ野郎》。


 燃え盛る炎に遮られて、聞こえないはずの声が魔王に届いた。それは幻聴のようで、しかし実際に《証明された》。


 ポン、ポンポンポンポンボンボンボンボボボボボボボボ……!!




――鉄を酸で溶かした時に発生する気体に、火を近づけると、巨大な爆発を起こす。


 レナの言っていたことだ。


「【水素爆発ジ・ネオ】」


 轟音と、巨大な風圧が全てを飲み込んだ。同時に――。















「アア、アアアアァァァァアッ!」

「かはっ!? ……な、にが……?」


 俺の心臓に、何かが突き刺さった。

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