決闘(4)
彼女は強い。俺の想像よりも遥かに強く、そして未知なる能力で俺へと攻撃してくる。
対処は難しい。
だったら正面衝突は避けるべきだ。何よりもそれは、俺の《本領》とはかけ離れている。
『さあ、戦おうじゃないか』
「!」
今、彼女には俺の姿が幾重にも重なって見えているはずだ。
俺の【
どんな幻覚を見せようと、どんな幻聴を聞かせようと、全ては俺の自由だ。
「ふっ!」
それでも、彼女は果敢に飛び掛かってきた。俺も把握したことがある。
彼女の移動系たる能力は、認識ができないような能力だということ。つまりは、探すだけ無駄。それに使うエネルギーは全て、予想に注ぐだけで対応は楽になる。
彼女の行動、彼女の性格、事前の目線、それから勘。
視界から彼女の姿がかすむようにして消えた。それと同時に、幻影の1人が切り裂かれる。時を同じくして、もう1人も。
けれどわかってきた。見えてきた。
(あれは、直線状を移動している。しかも、必ず回転からの切込みに特化しているな……)
つまりは、速度の制御ができていないということ。最後に倒された幻影から、次に自分に攻撃が来るとわかっていれば、対処はできる。
試しとばかりに、幻影の2人がそれを行った。
視界の中に居た幻影が倒される……時には、剣を振りかざしていた。
「!」
キン!
(捉えた!)
砂埃が巻き上がる。しかし、それを気にする余裕も無いままに、俺は次の一手を置く。
「【
彼女を中心に、後方を重点的に炎の壁を形成していく。灼熱の中、常に体力を消費させられる。そんな環境の中でも、彼女は力強く戦っていた。
今生み出している幻影の数は15、倒された6体を計算すると、9体でレナを囲んでいることになる。
(往く、ぞッ!)
重心を前へと傾けて、地面すれすれを疾走する。空気抵抗を限りなく少なくしたことで、その速度は速い。
瞬時に彼女の足元へと移動し、でたらめに木刀を振り払う。
「うっ!」
咄嗟にとった防御が功を期したのか、彼女は後方へと吹き飛んだ。
背後にあったエメラルド色の鍾乳洞の壁へと衝突し、落下する。
――瞬間、彼女の姿がブれた。
(まさか……!?)
振り向けば、そこには今まさに、俺へと切込み始める剣の切っ先が見えた。
(違う!)
――爪だ!
「【龍瑛双斬】!」「【
魔法の発動と同時に、強靭にして鋭い爪が、俺の肌を一瞬にして抉っていく。
龍人の奥義にして最強の力、【龍化】を使った攻撃は、回復が不可能。龍の特殊な魔力が、自然回復力と魔力を弾くのだ。
爪が体を2つに裂くのと同時に、巨大な暴力が俺を襲う。
彼女の技は、龍化によって進化した爪をさらに鋭利にし、横薙ぎする技だ。そして、追随効果がある。
「カハッ?!」
龍の力が実体を持ち、再び爪の軌道上をさらなる威力で薙ぎ払うのだ。
それにより、俺はさらに切り裂かれ、吹き飛ぶ。
既に息は無い。
洞窟の壁へと知覚出来ない速度で衝突し、そのまま滑るように落下した。物言わぬ残骸となった体。
――けれど。彼女はその体を睨み続けた。
「良くわかったな」
「!?」
《背後から声をかける》と、彼女はすぐさま腕を振るった。
振り向けば、そこに俺は――
「いない!」
「流石に危なかったさ」
その通り。あの時、一歩でも魔法の発動が遅れていたら、確実に《重傷》は免れなかっただろう。
(え? 死なないのか、って……まあ、耐えるな)
あの一撃は強力だ。しかし、俺に言わせれば強力なだけ。まだまだ彼女の力は未発展なのだ。
発動した魔法、【瞬不死】は古代の魔法だ。俺の前世よりも、さらにずっと昔に使われた魔法。とある遺跡で偶然発見した時には、随分と驚き、それから喜んだのが印象的だった。
能力は単純にして強力。
「一瞬、正確には体内魔力量の1%の10,000分の1である時間分、何があろうと死ななくなる魔法だ。ちなみに、発動しても成功する確率は発動時間の1%だけどな」
まあ、いうなればほぼ発動しない、発動しても効果はあってないような魔法。
しかしそれでも、俺の莫大過ぎる魔力量と、《奥の手》のおかげで今のような芸当ができる。
「【龍化】」
既に龍化を発動させている彼女を見据えながら、俺もその言葉を告げる。
体中の血が活性化し、視界が一瞬にしてクリアになる。腕から先、足が異常に発達し、全体的に進化していく。
体の要所には鱗が纏われ、額に丸い窪みが現れた。しかし、その中は空洞だ。
遥か昔の龍には、宝珠が埋め込まれていたらしいが、その宝珠は不明。なぜ窪みがあるのかもわかっていない。
しかしそれでも、窪みには恐ろしいほどの魔力伝達能力があり、龍人の少なすぎる魔力でも魔法を扱えるほどの恩恵をもたらしている。
俺の《本領》は着々と準備が進んでいる。
既に彼女は、俺の魔法の中なのだから。
「さあ、次のステージへようこそ」
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