子供とのキス

最近、ふと考える。





恋愛の歳の差、どこまでが許されるものなのかしら?





…ということを考えるようになったのは、あのコを好きになってしまったからだ。





わたしの実家はケーキ屋と喫茶店を一緒にしたようなお店。





結構人気で、毎日商品は売り切っている。





一人娘であるわたしは、将来店を継ぐ為に、毎日遅くまでお菓子作りを頑張っていた。





そんなある日の夜。





季節メニューを親から任せられ、わたしは必死になっていた。





日付けが変わるぐらいまで、店に残っていた。





…店の裏が実家で良かったと、その時ほど思ったことは無い。





そしてその日も、日付けが変わるギリギリまで店に残ってしまった。





親からいい加減にしろとの電話で、我に返った。





ちょうどハロウィンの季節だったので、カボチャを使ったクッキーを作っていたところだった。





試作品が焼きあがったので、親に試食してもらう為に袋に入れて、慌てて店を飛び出した。





そこで、





どかんっ!





と、誰かに激突してしまった。





「ごっゴメンなさい! 急いでて…」





しりもちをついたわたしだったけど、顔を上げて、思わず呆気に取られた。





ぶつかったのは…幼い男の子。





小学校高学年あたりだろうか。





…にしても、キレイな顔をしている。





「いたた…。ううん、僕もちょっと気を抜いていたから」





変声期前の声が、やたらに良く聞こえてしまった。





って、ぼ~としてる場合じゃない!





「本当にゴメンなさい。大丈夫?」





わたしは立ち上がって、男の子に手を差し出した。





「うん、ありがとう」





男の子はわたしの手を握って、立ち上がった。





…スベスベしてるなぁ、最近の子供の手って。





……それともわたしの手が、お菓子作りで荒れてるだけ?





ちょっと落ち込み気味になりそうだった時、男の子は屈んで何かを拾い上げた。





「コレ、おねーさんの?」





「へっ? あっ!」





男の子が持っていたのは、パンプキンクッキーだった。





どうやらぶつかったショックで、落としてしまったらしい。





「うん、そうなの」





「へぇ。手作り?」





「うっうん」





男の子はクッキーをじっと見たまま、動かない。





こっこれはもしかしなくても…!





「たっ食べたいの? クッキー」





「うん!」





男の子は眩しい笑顔を浮かばせた。





「でもそれ、わたしが作ったのだし…」





「でもおねーさん、裏口から出て来たってことは、このお店の人なんでしょう?」





「まあね。でもまだ半人前だし…」





「でも美味しそうだよ」





…さっきから、『でも』の繰り返しが激しいなぁ。





お互いに譲らないものだから。





「わっ分かったわ。わたしの負けよ」





わたしは降参した。





年下のコと言い合っていても、負けた気分になるだけ。





「ホント! ありがと、おねーさん!」





そう言って男の子はクッキーを持って、走り去った。





でも…何でこんな遅い時間に、子供が?





わたしは首を傾げつつも、家に帰った。





それからというもの、男の子は毎日のように、お店に来た。





何となくわたしが男の子の相手をした。





そして話すようになって、何度か一緒に遊んで…気付いてしまった。





男の子に、心惹かれてしまった自分に。





しかし…歳の差が問題。


男の子は出会った時、何と小学5年生!





1年経った今では、6年生になった。





そしてわたしはと言うと…当時、高校2年生。





現在、高校3年生…。





『犯罪』の二文字が、頭の中を駆け巡る。





「う~」





うなりながらも、ケーキを作る手は止まらない。





よりにもよって、今日は男の子の誕生日。





プレゼントはわたしの手作りのお菓子が良いというので、男の子の好きなチョコレートケーキを作っていた。





こういう特別な日にこそ、告白する絶好のチャンスだけど…。





断られるのならまだしも、気味悪がられたら立ち直れない。





…そのぐらい、大好きだから。





嫌われたくはない。





「はぁ…」





ため息をつきながらも、ケーキは完成。





うん! 立派な出来だ。





…男の子と出会ってから、わたしには変化が起きた。





恋をしているせいか、作るお菓子の評判がとても良い。





人気商品になっているものもあるぐらい。





でも…さすがに失恋したら、落ちるかな?





まっ、それでもわたしは…。





「って、いけない!」





ぼ~としているうちに、待ち合わせの時間が近くなっていた。





慌ててラッピングして、店を飛び出した。





今日は男の子の誕生日だから、わたしの家に招待していた。


家に帰って準備をしていると、インターホンが鳴った。





「あっ、はいはい!」





わたしは玄関に向かった。





扉を開けると、





「こんにちは、おねーさん。お招きありがと」





ニコッと天使の笑顔で、男の子が立っていた。





「あっ、うん。いらっしゃい。どうぞ、あがって」





赤くなる顔を手で押さえながら、わたしは平常心を心掛けた。





テーブルにセットされたお菓子を見て、男の子は目を輝かせた。





「すっごいね! コレ、全部おねーさんが?」





「もちろん! 特にご注文のケーキは、頑張りました」





テーブルの上には、立派にデコレーションされたチョコレートケーキがある。





男の子は甘い物が好きみたいで、常々ホールでケーキを食べたいと言っていた。





だから1番小さなホールサイズで、ケーキを焼いた。





「コレはキミが一人で食べて良いんだよ?」





「やった! おねーさん、お茶ちょうだい」





「はいはい」





紅茶を淹れると、男の子はとっとと食べ始めていた。





嬉しそうに食べているし、今日は誕生日だから、細かいところで怒るのはやめておこう。





…にしても、可愛いなぁ。





甘い物を本当に幸せそうな顔で食べる。





でも普段はお澄まし顔で、子供らしくない。





……きっとこの二面性に惹かれたんだろうな。





どうしようもないほど、このコが好き。





あっ、目の前に『犯罪』の二文字がチラつく…。





「…ねぇ、おねーさん」





「んっ? なぁに?」





「そろそろ僕に言わなきゃいけないことがあるんじゃない?」





「えっ!?」





男の子はケーキを食べながら、ニヤニヤしてる。





「僕から先に言うとね。1年前のあの日、おねーさんを待ち伏せしてたんだ」





「えっええっ!? 何で、どうして!」





「だっておねーさん、いつまでも出てこないんだもん。僕心配で、外で待ってたんだ。そしたらさ…。まっ、結果オーライだよね」





「うぐぐっ…!」





うっ上手いように誘導されてる!?





でも…。





わたしは心を決めて、小さな唇に…キスをした。





チョコクリームが甘い…いつもよりも。





「好き、よ」





「…うん!」





でもこのコの甘い笑顔に比べたら…。




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