チャラ男とのキス

男女平等、怖いもの知らず。


ある意味無謀と言えるのが、アタシという存在。


…そう、それを一番後悔しているのも、アタシ自身。


「ね~ねぇ、付き合おうよぉ」


ぶちっ★


「い・や」


笑顔で否定。自分でも眼が笑っていない自覚がある。


目の前にはチャラ男のにやけた顔。


コイツ…ホントにしつこい。


元々アタシは人を差別しない。


周りに流されたりしないタイプだ。


だからいろいろとぶつかってきたけれど、負けん気と武道で鍛えた体で乗り越えてきた。


高校に入ってからは、みんな大人になって安心して過ごしていたのに…。


元は別のクラスにいたコイツに、何故か懐かれてしまった。


見た目だけは良いコイツの周りには、たくさんの女生徒がいた。


まあいろいろあったけど、いつものようにやり過ごしてきた。


だから周囲は大人しくなったのに、コイツときたら…!


何度断ってもしつこく誘ってくる!


「アンタもいい加減にしたら? アタシ、別にチャラ男はキライじゃないけど、恋愛対象にはならないの」


「はっきり言うところ、オレ、好きだよ」


…軽い。

へらっと笑う顔はキライじゃない。


大型犬にでも懐かれた気分だ。


犬はキライじゃないし…どっちかと言えば好き。


でも人間では別っ!


「他を当たって」


「ヤダ。オレはキミが良いんだもん」


ぴきぴきっ。


顔が引きつっていく。


…いっそのこと、警察に相談するか。


このしつこさは絶対に犯罪的だ。


「そもそもアタシの何が気に入ったの? アタシ、アンタに好かれるようなこと、した覚えないんだけど」


元々接点が無かったアタシ達、なのにいきなり告白なんてワケが分かんない。


「え~。だってキミ、オレのことちゃんと見てくれるし」


「視力は良いわよ?」


「そうじゃなくてさ」


伸びをして、改めて真面目な顔をされると…ちょっと胸にくる。


「外見で人を判断しないっしょ? まともに話を聞いてくれるし、真面目に返事もしてくれる。真っ直ぐにオレを見てくれるキミが好き」


「…って、それってフツーのことじゃない?」


「今じゃ逆に難しいよ。だからこそ、キミが良いんだ」


まあ確かに。


全く接点が無かったワケじゃない。少しぐらいは面識があった。


その間に、アタシの良い点を見つけてくれたのは嬉しいケド…。


「…どーも軽く聞こえてしまうのよね」


悪いけど、どうしてもそこは変えられない。


「じゃっ、とりあえずお試しってのはどお? それでダメだったら、オレも諦める」


…どーしても、このまま引き下がるっていう選択はないらしい。


「…まっ、今ヒマだし、しばらくなら良いわよ」


「マジで? やりぃ!」


本気で嬉しそうな顔をされると、まあ別に悪い気はしない。


…この後のコイツの取り巻き達との戦いの日々は、とりあえず置いておこう。


「じゃさじゃさ! キスしよ~よ」


いきなりコレか…。


このテンションは、はっきり言ってウザイ。


けれどまあイヤではないし…。


「まあ…良いけど」


そう答えると、わずかに顔を赤くして近付けてきた。


だから眼を閉じて、応えた。


柔らかな唇は、何故かとても甘く感じられた。


「ふふっ…」


大切なモノにでも触れるように頭を撫でられた。


「これからもいっぱいイチャイチャしよ~ね!」


そのままハグされる。


………やっぱり犬に懐かれた気分。


でもまあ、やっぱり悪い気はしない。

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