イケメンとのキス

「何かキミって、エロいね」


「………はい?」


何を言われたか、一瞬理解できなかった。


と言うより、頭が真っ白になった。


生まれて十七年。


何事にも平凡で無難に生きてきた私に対し、目の前のオトコは一体何を言い出すのか。


目の前のオトコは、学校で1番イケメンだと言われている。


言わばカリスマ性のある、美青年だ。


いつも誰かに囲まれていて(主に女の子)、何事にも率先してまとめ役をしている。


流行を取り入れた格好をしているが、学生としての態度は真面目で優秀。


だから彼は多くの人に好かれる。


そんな人と私が二人っきりで一緒にいる理由は、たまたまだ。


放課後、食堂近くの休憩場でバッタリ会った。


そして紙パックのオレンジジュースを奢ってくれた。


一口飲んで、一息ついた途端のセリフ。


思わずノーリアクション。


「ジュースの飲み方もそうだけど、存在自体が何となく」


「………地味、ではなくて?」


「うん。エロい」


…何かの聞き間違いかと思ったけれど、違ったみたいだ。


彼はにっこりと微笑み、缶コーヒーを飲んだ。


「自覚なかった?」


「全然」

と言うか、今まで誰にも言われたことなかった。


「俺はずっと思ってたけどな。伏し目がちの時とか、考えている口元に手をやる仕種とか。すっごい色気感じてた」


今まであんまりしゃべったことがなかったが…人の性格って見た目じゃないと思った。


軽い会話が得意なハズの彼から飛び出る言葉は、ありえないぐらいセクハラだ。


「あっそう」


彼にどう思われようと、私にはどうでも良いことだ。


そう思い、ストローに口を付けようとした時。


ぐいっとアゴを捕まれ、そのまま―。


「…んっ?!」


―唇が重なった。


唇はすぐに離れたが、頭の中が真っ白になった。


「…言ったろ? 色気を感じるって」


「だからって…なんでキス?」


「欲情したから」


「………」


絶句。という行動を、私は生まれてはじめてした。


いや、これはもしかしなくても…。


「………私のことが好きなの?」


「ようやく気付いたの?」


間近で笑いながら言われても…。


「うん。多分コレが好きって感情なんだろうね。はじめて持った感情だったから、何だかよく分からなかったけど、キスして気付けた」


私の顔を両手で大事そうに包み込み、彼はとろけそうなほど甘い笑みを浮かべる。


「はじめてキミを見た時から、気になっていたんだ。そしてそのうち、色気を感じてた。コレが恋愛感情なんだろうね」


…告白の割には、甘くはないが…。


「そっ…」


「うん。だから俺と付き合って」


「………まっ、良いわ」


彼の両手に触れ、顔を埋めるようにして言った。


きっと気付かれている。


私の顔が真っ赤になっていることを。


『はじめて』の経験をいっぱいさせてくれる彼に、私は心奪われていた。


―そう、きっとコレが恋愛感情。

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