純愛のキス・3
わたしの好きな人は、とても残酷。
わたしの気持ちを知って知らずか、いつも恋愛相談をしてくる。
「オレ、好きなコできたんだ」
「うん」
「でもさ、どうやったら近付けるんだろう?」
「そういう時はね…」
わたしは笑顔で恋愛相談に乗る。
そうして上手くいけば、心から喜んであげる。
…それが、彼がわたしに求めることだから。
それがわたしの役目だから。
そうすることで彼の側に居続けられるなら、わたしはいくらでも努力を惜しまないから。
辛くないのかと聞かれれば、心が引き裂かれるほど辛い。
でも同時に彼の為になれることが、とても嬉しかった。
「なぁ、今度彼女の誕生日なんだ。プレゼント選ぶの、付き合ってくれよ」
「良いわよ。どこで買う予定?」
彼女へのプレゼントを買いに行く時、彼はいつもわたしを頼ってくれる。
わたしの選ぶプレゼントは、彼女達がスゴク喜ぶらしい。
だから学校が終わった放課後や休日に、彼と二人っきりで出掛けられるのが嬉しかった。
別にやましいことをしているワケじゃない。
こんなのどこにでもありそうなことだ。
今回は休日に、駅前のデパートで買うことにした。
そこのデパートに入っている雑貨店が、彼女のお気に入りらしいから。
「彼女、髪が長かったわよね?」
「うん、腰まで伸びてる。サラッサラのストレート!」
彼は嬉しそうに説明してくれる。
「じゃあヘアピンなんか良いんじゃないかしら? 流行のシュシュとかも喜ばれそうだから、いくつか買ってあげたら喜ぶわよ?」
女の子達の群れの中に入って、いくつか選ぶ。
彼は嬉しそうに、選んでいる。
「あっ、そうだ。お礼として、何か一つぐらい買ってやるよ」
「良いわよ。その代わり、彼女に良いもの買ってあげなさいよ」
「そんなワケにはいかない! ホラ、どれが良いんだよ。選べ!」
何てエラソーなんだろう。
…でもそういう子供っぽいところも、愛おしいと思える。
真っ直ぐで純粋。
わたしの汚い心なんて、何も分かっていない。
そこが憎らしくて、とても嬉しい。
わたしは棚を見上げ、少し高い所に飾ってあるヘアピンを指さした。
「アレなんてどうかな?」
ピンク色のラインストーンで作られている2つセットのヘアピン。
「ああ、アレだな?」
彼は背後からわたしに覆いかぶさるようにして、背伸びをして、ヘアピンを取った。
…その時背中に感じた彼の体温と匂いに、心臓が痛いぐらいに高鳴った。
「…ああ、良いんじゃないか? コレにする?」
「うっうん。それにする」
彼は嬉しそうに笑った。
わたしの赤くなる顔に、気付かぬまま。
彼女へのプレゼントと一緒に、ラッピングまで頼んでくれた。
「ほらよ」
「ありがと。嬉しいわ」
…そして、彼女とは上手くいっていたと思っていたのに。
一ヵ月後。
「えっ? 別れた? どうして?」
「ん~。何か付き合ってみて、理想と違ったっていうかさ。まっ、冷めたってカンジかな? 相手もすぐに納得してくれたし」
…彼女とは何度か会っていたけど、幸せそうだった。
なのに二人して、合意して別れた?
にわかには信じられないけど…。
「そう…。まあ元気出してね? また何かあったら、相談に乗るから」
「うん! もちろん! 頼りにしてっから」
…その時のわたしは、上手く笑えていただろうか?
少しでも彼を騙せているのなら、女優モノだ。
しかしそれからというもの、彼は彼女を作ったり、別れたりを繰り返していた。
そのせいか、あまり周囲の評判が良くなかった。
わたしは見兼ねて、注意を何度かしたけれど…。
「だって上手くいかねーもんは、しょーがないだろう? 口で言ったって、分からないもんなんだよ。こういうのは」
確かに恋人経験の無いわたしには、分からないことかもしれないけど…。
そういう言い方、無いと思った。
わたしがこんなに傷付いていること、分からないのだろうか?
こんなに側にいるのに…。
わたしは彼の心が分からない。
彼はわたしの心に気付かない。
…苦しい。
息も出来ないぐらい、苦しい。
やがて彼には遊び人・軽い人という名前が付き始めた。
ハデな遊び方で、近くにいる人も離れて行った。
彼等はわたしにも、早く付き合いをやめるように言ってきた。
彼は変わってしまった―と。
…確かに彼は変わってしまった。
だけど、わたしへの接し方は変わらない。
そういうところが、離れられない原因かもしれない。
だからわたしは、彼のことを好きなままなんだ。
悔しいな。
そして悲しい…。
いつまで彼に縛られ続けるんだろう?
こんなこと、もうお終いにした方がいいんだろうか?
わたしの彼を思う心が、彼をダメにさせているんじゃないのか?
…そう思うと、離れようと思う心は大きくなる。
わたしは決めた。
もうコレ以上彼の側にいることは、彼自身のためにもならないし、わたしもこのままじゃ、ダメになる。
だから…。
「なぁなぁ。最近、可愛いコ見つけたんだ! 相談に乗ってくれよ」
「あっあのね…」
わたしはオズオズと彼と距離を取った。
「もう…わたし、あなたの相談に乗るの、やめることにするわ」
「えっ…。何で…」
明るかった彼の表情が、一気に暗くなる。
「だって、あなた変わってしまったんだもの。コレ以上一緒にいても、お互いのためにはならない」
…ヘンなの。
まるで別れ話みたい。
付き合ってもいないのに…。
「変わったって…。どうして今頃…。ずっとオレの近くにいてくれたじゃんか」
「でももう限界なの! 周りの人からも、離れた方が良いって言われ続けて…わたしも辛いのよ!」
彼女とのノロケ話を聞かされ続けることも!
彼女とのことを相談され続けることも!
そんな話じゃなきゃ、あなたはわたしに話しかけてくれないことも!
「もういい加減、うんざりなの! だから別れて!」
…言った後に気付いた。
こんなセリフ、本当は別の意味で言いたかった。
「…別れるって、誰と?」
いきなり両腕を捕まれて、驚いて顔を上げた。
彼は…今まで見たことがないくらい、真剣な顔をしていた。
「誰と、別れるって? 言ってみなよ」
「いっ痛いっ!」
悲鳴を上げても、逃がしてくれない。
わたしは涙を浮かべながら、彼から視線をそらした。
「…彼女と別れて。わたしをっ…選んでよ」
情けない告白に、涙が溢れる。
けれど彼はいきなりわたしの腰を引き寄せ、
「んっ…!」
キスを、してきた。
「…最初から、そう言えよ。ずっとその言葉、待ってたんだからさ」
「ふっ…! …ばかぁ」
「ああ。大バカなんだよ。知ってるだろう?」
そう言って優しく抱き締めてくれる。
…うん、知ってる。
わたしもバカだってこと。
だって大バカなあなたのことを、好きなんだもの。
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