甘々なキス・1
アタシの得意なことは、料理だ。
お菓子作りも好きで、親や友達には大好評!
だから何かイベントがあった時とか、差し入れを作ったりする。
それが評判良くて、部活の大会とかのお弁当を作ってきてほしいとまで頼まれるようになった。
まあ代金は貰うし、大量に作るのは好きなので、引き受けていた。
だから大会のある季節は大忙し!
親や友達、果ては先生達の協力も得て、作ったりしていた。
そんな忙しい日々の中、サッカー部が大会で準決勝までいった。
アタシと同級生の男の子が、何でもスゴイらしい。
今時珍しく熱血サッカー少年で、彼のおかげで準決勝まで進めたみたい。
サッカー部には同じクラスの男の子が入っていて、ぜひ差し入れを作って来てほしいと頼まれた。
友達と先生達と頑張って、たくさんのおにぎりとおかずを作って、準決勝を行っている会場へ行った。
会場の熱気は最高潮!
この感覚はキライじゃない。
お昼にサッカー部に顔を出すと、大歓迎された。
この時は給仕に回る。笑顔で選手達を励ましながら、お弁当を回す。
「他におにぎり欲しい人いるー? 中身は昆布だよ」
「あっ、オレ、食いたい!」
勢い良く手を上げたのは、例の活躍している彼だった。
片手におにぎりを持っているクセに…。
でも笑顔でサービスしなきゃ。
試合に響いたら、シャレにならないし。
「はい、どうぞ」
笑顔でおにぎりの入ったお弁当箱を差し出す。
するとむんずっと掴み、がぶっと大口で食べる。
…豪快だなぁ。
「ん~! うめぇ! コレ全部、アンタが作ったの?」
「まさか。手伝ってもらいながら、作ったのよ。まあレシピは全部アタシが作ったのだけど」
「へぇ」
頷きつつも、おかずにも手を伸ばす。
…にしても、本当によく食べるなぁ。
次から次へと手は伸び、そして口の中へ消えていく。
男子高校生の食べっぷりはよく見てたけど、彼はそれより上を行くな。
活躍する為に、力を溜めているんだろう。
「あっ、それじゃあアタシ、他の所も回るから…」
「え~! ダメっ! オレまだ食う!」
そう言ってアタシの持つお弁当箱に手を伸ばす。
…そしてお弁当箱は、空になった。
そして彼は、他の部員達からブーイングを受けた。
昆布はアタシの手作りで、食べたかったという意見が多く飛び交った。
なのでアタシは早々彼から離れた。
……これが高校一年の時の、彼とのはじめての出会いだった。
月日は流れ、アタシ達は高校三年生になった。
アタシは料理の腕を学校全体に認められ、料理部を設立して、部長を務めていた。
彼はサッカー部の部長として、全国大会に部員達を引っ張っている。
彼のおかげで、サッカー部は毎年全国大会に出られるようになった。
なので自然とアタシはサッカー部への差し入れが増えていき…。
「いつの間にやら、アンタと付き合うようになったと…」
「何1人でブツブツ言ってんだ?」
「過去を振り返っていたのよ。アンタとアタシが出会った頃のこととかね」
鍋に入っているカレーをオタマでかき回しながら、アタシは深くため息をはいた。
彼の両親は共働きで、彼と付き合うようになってからは、彼の家で料理を作ることが多くなった。
今日は学校がお休み。
昼間は街でデートをして、その後彼の家で夕食を作っていた。
「あっ、サラダ何で食べる? ドレッシング? マヨネーズ?」
「タマネギ入りのドレッシング!」
「はいはい」
まるでお母さんと息子の会話だ。
「手伝おっか?」
「結構です! 破壊的料理センスを持っている方に手伝ってもらうと、惨劇が起きますので!」
「うっ…」
彼は料理の才能が無かった。
無かったどころかマイナス。ヒドイという次元じゃない!
一度手伝ってもらった過去があるけど、抹消したい。本気で。
そう思いながら、タマネギをみじん切りにする。
ドレッシングもマヨネーズも、手作りでできる。
彼の食生活は、かなり荒れていた。
だから彼の為に、メチャクチャ料理を勉強した。
おかげで今では有名レストランから、お声がかかるほどだ。
バイト先のファミレスからは、支店長をしてくれないかとまで言われているし…。
「なあなあ。進路、どうするか決めた?」
そう言って包丁を使っているのに、後ろから抱き着いてくる。
「当たり前でしょう? 今がどんな時期か、鈍いアンタでも分かるでしょう?」
「えっ、オレって鈍い?」
「ワリと天然な方向に」
淡々と語りながらも、料理をする手は止まらない。
「ん~。お前、どうするんだ?」
「…料理専門学校に進もうかと思ってる。そしていずれは有名レストランで働こうかと」
「お前らしいな」
後ろで微笑むのが、気配で笑った。
そして頬に唇の感触…。
アタシはゆっくりと振り返る。
彼の優しい笑顔が、間近にあった。
そのまま重なる唇。
…何だかアタシ達のキスって、いっつもこう。
料理をしている時、彼がこうやって絡んでくるから…。
「…なあ」
「何?」
「将来はオレ専門の料理人って、どうだ?」
「……それってプロポーズ?」
「まあ、そんなもんだ」
にかっと天真爛漫な笑顔になられると、こっちが困るんですけど…。
「いやさ、正直。お前の作る料理に惚れててさ」
「…料理を作っている、アタシではなく?」
「今はお前だけど、昔は料理の方だったなぁ」
ドコッ!
「うごっ!」
彼の腹に肘鉄をくらわせ、アタシは料理を再開させた。
「いっいや、だからさっ。お前の料理を食って、惚れて。また食べる為にサッカー頑張ったんだよ」
…コイツにとって、サッカーよりも食欲の方が重要なのか。
「でもそのうち、お前に会うことが楽しみになって…。だから告白したんだ」
「とんでもない下心を隠していたのね」
「え~でもさ、お前の料理を一生食べたいってのは、お前のことを愛しているからだろう?」
何でコイツはこういう恥ずかしいことを、サラッと言えるんだ?
まあ…嬉しいケド。
「だから、ずっと一緒にいたいワケ!」
そう言うとまた後ろからぎゅっと抱き締めてくる。
「でっでもアンタの進路はどうすんのよ?」
それによっては、離れ離れになる可能性だってある。
「もっちろん、サッカー選手! その方がカッコ良いだろう?」
「アンタ、サッカー選手、なめてるでしょう!」
「なめてなんかいないって。頑張れば、ワールドカップだって行けるんだからな! それにお前だって、サッカーやってるオレのこと、カッコ良いと思ってんだろう?」
「それはっ…そうだけど」
「だから、いつまでもお前にカッコ良いって惚れさせているオレでいたいワケ! それだけで十分だろ?」
「…まあね」
「サッカー選手の旦那さまと、料理人の奥さま! 理想の夫婦になろうぜ!」
あんまりに彼が幸せそうな顔をするから…とりあえず、一言。
「あのね。一つだけ言わせて」
「ん?」
トマトをドレッシングに付けて、彼の口に運んだ。
「アタシがアンタに惚れたのは、アタシの料理を誰よりも美味しそうに食べるからよ!」
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