真面目なキス

「結婚しないか?」


「…はい?」


突然真面目な顔で言い出した彼に、思わず聞き返してしまった。


そう、『彼』。


中学時代からの付き合いで、高校で恋人になったあたしの『彼』。


が、高校三年の夏、いきなり言ってきた。


「結婚って…良いケド、何でまた突然…」


「いっ良いのか?」


「良いわよ。もう六年の付き合いだけど、アンタがどういう人か、大体は理解出来たから」


そう言うと、何故かムッツリされた。


「…そんなに簡単な人間じゃないぞ、オレは」


「じゃあアンタはあたしのこと、全然理解していないの?」


「そっそんなことはないっ!」


「なら、ちょーど良いぐらいで」


ニッコリ笑うと、再びムッツリされた。


「結婚は良いんだけどさぁ、とりあえず、あたしの大学受験が上手くいってからね」


今日も彼の部屋で勉強会。


色気の無いったら…。


でもこういう付き合い、キライじゃない。


「そっそうだな。とりあえず、お前が大学を合格してからの話にしよう」


そう言って参考書に目を通す彼。


学年で5番以内に必ず入る彼は、すでに推薦で入ることを決めた。


けれどいつも真ん中の順位のあたしは、彼と同じ大学に進むにはこの夏を犠牲にしなければいけない。


「あ~あ。海行きたいなぁ、お祭り行きたいなぁ」


「そういうことは順位を上げてから言え」


すっかり家庭教師モードに入っている彼。


…今思い出しても、不思議。


何でいきなりプロポーズ?


「…ねぇ」


「何だ? どこが分からない?」


「プロポーズされたこと」


あっさり言うと、彼はキョトンとした。


「学生結婚なんてアンタらしくないじゃん? いつものアンタなら、絶対就職して安定してから言うもんだと思ってた」

「…お前、やっぱりオレのこと、理解してないな」


「えっ? そう?」


「ああ」


彼はメガネを外し、いきなりあたしの腕を引っ張った。


「んんっ…」


そしてキス。


あたしも彼の背に腕を回して、体を密着させる。


少しすると離れて、優しく頭を撫でられる。


彼があたしを甘やかしてくれる仕種。大好き。


「オレはお前のこと好きなんだ」


「うん」


「愛してる」


「うん」

「だから離れたくないんだ」


切なく言って、抱き締めてくる。


…ってちょっと待って。コレってもしかして…。


「…アンタさぁ、あたしが大学落ちるって思ってる?」


ぎくっ、と彼の体が固まった。


「……それで離れ離れになるって?」


「いっいや、それは…」


気まずそうに顔を上げる彼。


あたしはニッコリ笑顔を見せる。


「大丈夫よ」


「えっ?」


「だってあたしもアンタのこと、愛してるんだもん。一緒にいられる為なら、どんなことだって頑張ってやるわよ」


そしてあたしの方からキスをした。


「結婚なら、なおさら、ね?」


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