クールなキス

付き合って三ヶ月。


その期間はきっと、恋人同士ならば一番楽しい時期。


なのに…。


ちらっと横を見る。


あたしの方からの告白でOKしてくれた彼は、とても無口で無表情。


全然ふざけなくて、真面目なところに惹かれた。


OKしてくれた時はとても嬉しかったんだけど…。


付き合って三ヶ月。


…付き合う前と、ほぼ変わらない毎日。


今日もデートの後、彼の家で一緒に過ごしているのに、お互いバラバラのことをしている。


彼は買ってきた雑誌を読み、あたしは見てきた映画のパンプを見ている。


…ある意味、同じか。


「はぁ…」


「疲れた?」


「うっううん! めっ眼が疲れただけ」


そう言って慌ててパンプを閉じた。


彼は何も無反応なワケじゃない。


素っ気無いけど、必要最低限の言葉は交わしてくれる。


「今日もいろんなとこ回ったね~」


「ああ」


「どこが一番楽しかった?」


「本屋」


「…そっそう。欲しい本、売ってたもんね」


「うん」


…てなカンジの会話が日常。


でも別れたくない!


好きだし…。


…でも彼の場合、別れを切り出してもあっさり受け入れそうで怖い…。


本気であたしのこと、好きなのかなぁ?


「ねっねぇ」


「なに?」


「あっあたしのこと、好き?」


真っ赤な顔になって聞くと、彼はあたしを見た。


「好きだけど?」


…返ってきたのは、予想以上にはっきりした答え。


がくっと、力が抜けた。


いや、予想は出来てたけどね。


「そっそう。あたしも好きよ」


「うん」

そう言った彼の顔は少し赤くなっていた。


…こういう彼の顔を知っているからこそ、余計に好きになる。


でも毎日不安は募っていく。


好きだけど…好きなのにこんなに不安になるなんて…。


これじゃ片思いをしていた頃の方がマシだったような気が…。


どんどん気分も体も沈んでいく。


こういう人だって分かってて好きになったはずなのに…。


贅沢になってしまったのかな?


「ふぅ…」


「…お茶、淹れてくる」


「えっ、あっうん」

どんよりしているあたしを見かねたのか、彼が立ち上がった。


「紅茶で良い?」


「うん、紅茶好き」


彼の淹れてくれる紅茶は美味しいので好きだった。


少し顔を上げて、眼を閉じると―。


―唇にあたたかな感触。


「…えっ?」


眼を開けると、真っ赤な彼の顔。


「…好きだから、お前のこと」


熱っぽい声と眼に、あたしの心は強く揺すぶられた。


そのまま彼は部屋を出て行ってしまう。


けれど、あたしはぼ~としていた。


ああ、だから…あたしは彼から離れられないんだ。


あんな彼を知っているのが、あたしだけだから。


きっと一生離れられない。

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