甘々なキス・3

「『可愛い』なんて、あてにならないわ!」


「…急に何を言い出すんだ?」


「だって! そう思わない?」


わたしは憤慨しながら、シャープペンを握り締めた。


「人はいろんなところで『可愛い』を使うじゃない? 社交辞令でもしょっちゅう言うしさ!」


「一理あるが…。お前、勉強飽きたのか?」


「うっ…★」


「せっかく現役の塾講師の俺が来ているのに、飽きるとはひどいヤツだな」


「だっだてぇ。…少しは休みましょうよ。いい加減、疲れたわ」


「最初っからそう言えばいいのに。いきなり何を言い出すのかと思った」


「…でもそう思っているのは事実よ」


「お前は『可愛い』から。いろんな人から言われ過ぎて、疑心暗鬼になっているだけだよ」


そう言って優しく笑う従兄を、わたしは上目づかいで軽く睨む。


「…言い方が、安っぽい」


「どう言えば良いんだよ? 『可愛い』もんは『可愛い』んだから。しょうがないだろう?」


「嬉しくない言い回しね…」


わたしは肩を竦め、伸びをした。


「けど『可愛い』も大事だろ? お前、あの高校を目指しているのだって、制服が『可愛い』からだろ?」


「ぐっ!」


「『可愛い』を目指して、頑張るコだっている。案外バカにできるもんでもないだろう?」


わたしの頭をぽんぽんっと叩く仕種は昔から変わらない。


小さい駄々っ子を、落ち着かせる為の行動だ。


「でも、こういう行動はバカにしていると思う」


わたしは従兄の腕を掴んだ。


「どこが? 可愛がっているじゃないか」


「生まれて十五年間、ずっと続けられている行動だと、『お前は成長していない』って言われているように感じるんだけど?」


「そんなことないさ。十五年間、俺はずっとお前のことを『可愛い』と思っている」


「それはっ…!」


「うん?」


あくまでも穏やかに笑う従兄に、何も言えなくなってしまうわたし…。


「子供扱い、しないでよ…」


いつまで経っても、従兄はわたしを年下の女の子扱いしかしない。


あの名門校を選んだのだって、制服が『可愛い』からだけじゃない。


偏差値がとても高い。


だからそこを選べば、現役塾講師である従兄が勉強を教えに来てくれると、思っていたから…なのに。


「わたしだって、いつまでも子供じゃないんだから!」


こう言っている時点で、わたしは子供だな。


…だからいつまで経っても、従兄は従妹としか見てくれないって、分かっているのに。


「うむ。そうだなぁ…。そう言われて見れば、ちょっと甘やかし過ぎたかもな」


「いや、そういうんじゃなくてね」


「それじゃあもうちょっと、厳しく指導しよう」


そう言った従兄の目が、キラッ★と光った!


「うっ!」


「実はもうちょっと厳しくしようと思っていたところだったんだ。このままじゃ、本気でマズイしな。ヤル気を出してくれて、嬉しいよ」


んがっ!? 通じていないうえに、逆効果っ!


…あっありえない。


この鈍感さ…。いや、だからこそ、今まで彼女の1人もいなかったワケで…。


「あの高校、俺の塾から近いからな。受かれば会える機会も増えるだろ?」


「そっそうね…。その時はお茶でもご馳走してちょうだい」


「もちろん。デートはしっかりやるよ」


「でっデート!?」


いっいや、従兄に深い意味はないだろう。


「当たり前だろう? ちゃんと1人の女性として、扱うよ。でも今は教え子、な?」


「わっ分かってるわよ!」


「なら今は、コレでガマンしろよ?」


従兄の顔が間近に迫ってきた。


「っ!?」


そのままそっと軽く重なる唇。


甘さが…口の中に広がった。


「おっ教え子に何するのよ!?」


「ははっ。だからコレで受験日までガマンしろって。この続きは、お前が高校生になってからな?」


頬を染めて嬉しそうに言う従兄に、わたしは参考書をぶつけた。


「ならっ! 合格できるように、ちゃんと教えて!」


「ああ、ちゃんと勉強しろよ?」


「当然でしょ? 恋がかかっているんだから!」

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