同級生とのキス

何の因果か、アタシはアイツの隣の席になってしまった…。


「いよっ! よろしくな!」


教室中には、男女共々ブーイングが響き渡る。


原因は担任の一言だ。


進学校として名高いウチの高校は、男女共学と言えどもお互いライバル心が強く、カップルなど珍しいぐらいだ。


つまり、男女共々仲が悪い。


担任は妥協策として席をくっ付け、男女を並べるという強攻策に出てしまった。


くしくもウチのクラスは男女共、同じ人数で18人ずついる。


だから人数、性別余ることなく、キレイに並んで座ることができる…んだけど。


何故クラス委員長のアタシが、このクラスで1番成績の悪いコイツと隣同士になる!?

…いや、ただ単に、クジ運が悪かっただけだろう。


せめてもの救いは、窓際で後ろの席ってことだろう。


教卓の目の前だけは、さすがのアタシもカンベンだ。


「なぁなぁ、オレ、教科書忘れたんだ。見せてくれよ」


朗らかな笑顔で言ってくるアイツに、殺意少々。


…高校生にもなって、教科書忘れるか? フツー。


「…はい、どうぞ」


机の真ん中に教科書を置いて、見せる。


ここで断ったら、アタシ自身の評判が悪くなる。


「さんきゅー!」


悪い人ではない。


明るくて素直で、純粋。


…アタシには無いものを持っている男の子。


だからイラつくのかな?


…それからと言うもの。


アタシの人生は変わった。


隣の席だからって、先生達はアイツの勉強を見てやるようにと言ってきた。


不満に思いながらも、クラスの成績向上の為と思って、渋々教えた。


これが物覚えの悪いこと!


よくウチの高校に入れたなぁと、疑問に思ってしまうほどに。


でも根気良く教えていけば、何とか平均点まで取れるようになった。


…でもその頃には、アイツの担当はアタシになっていた…。


アイツに何かあるごとに、周囲の人間はアタシに頼む。


問題児というワケじゃない。


ただ何かしら、巻き込まれやすいタイプみたいだ。


まあアタシが手を貸せる範囲であれば良いかなんて考えてしまったのが…間違いだったのかもしれない。


気付いた時には、すっかり世話を焼くようになっていた。


だけどアイツが凄く喜んでくれるから、それも良いかなと思ってしまった。


やがて季節は巡り、席替えの時期になった。


アイツと離れ離れになることを、少し寂しく思っている自分に気付いた。


けれどコレだけはどうしようもないと思っていたのに…。


「またよろしくな!」


何故また隣!?


…いっいや、良いんだけどサ。


……などと思っていたら、次の席替えも。


「またまたよろしくな!」


うっそーんっ!?


何この偶然! それとも運命!?


素直に喜べないのは、何故なの!?


「…何か仕組まれている気がするわ」


「へっ? 何が?」


放課後。もうすぐ期末テストで、アタシはいつものようにアイツの勉強を見てやっていた。


教室にはアタシとアイツしかいない。


「席替えよ。何でこうもアンタと同じ席にばかりなるワケ? 担任、押し付けようとしているのかしら?」


「押し付けって…ひっでーなぁ。オレのことかよ」


「他に誰がいるのよっ! てーか間違いばっかりじゃない! 本当に勉強してんの?」


「ん~。家に帰ると、ゲームしたくなる」


「目と頭を覚ませ! 期末は一週間後なのよ!」


頭を掴み、グラグラと揺らす。


手荒く見えるかもしれないけど、こうでもしなきゃ起きないんだ、コイツは。


「ぐわわっ! わっ分かったから、止まってくれ!」


…にしても、コイツの髪って触り心地良いなぁ。


少しふわっとしたカンジで、手櫛をするとスルッと通る。


…アタシは毎日苦労してんのに。


頭を振るのは止めたけど、掴む手は放さなかった。


「ん? どうかした?」


アタシの心中を知らず、アイツは顔を上げた。


お互いの顔の近さに、思わず心臓が高鳴った。


誰もいない、誰も見ていない。


そのことがアタシをおかしくさせたのかもしれない。


ゆっくりと顔を下ろして、アイツにキスしていた。


「んっ…」


アイツは抵抗しなかった。


だから、長くキスは続いた。


唇を離した後、何となく気まずかったけれど、お互いに見詰め合っていた。


「…ゴメン。悪かったわ」


そう言ってゆっくりとアイツを解放した。


「何で謝るの? 抵抗しなかったのは、オレだよ?」


「アンタに好きな人がいたら、悪いことでしょう?」


「確かに好きな人はいるよ。…キミだよ」


「…えっ?」


驚いて目を丸くするアタシを、アイツは優しい表情で見ている。


「席替えの時、実はズルしてたの、気付かなかった?」


「はっ? ズル?」


クジは担任がお手製で作ってきたものだった。


それを出席番号順に引いていただけで、ズルなんてしている暇…。


「あっ、もしかして、担任と組んでたの?」


「大当たり~! キミと一緒じゃなきゃ、絶対に勉強しないって、脅してた」


「んなっ!?」


クジを作ってきた担任ならば、いくらでも仕掛けられる。


だけどそんなの、教師がすることかぁ!


「実際キミと同じ席になって、オレの成績は上がったしね。さすがに三度続けば怪しまれるかなっと思ってたんだけど…」


「~~~っ! 不思議だとは思ってたわよ!」


あり得ないハズの偶然だと思っていたわ!


…まさか仕組まれていたなんて…。


「…つーかそんなところで頭回さないで、勉強のところでフル活動しなさいよ」


「でもそれじゃ、キミはかまってくれないだろう?」


「かっー!」

そこでふと思いつく。


「ねっねえ、そのイカサマっていつからしてたの?」


「言っただろ? 三度って」


「最初っから!? じっじゃあ男女混合の席順になったのも!」


「うん、オレの入れ知恵。でも男女の仲が悪いことに、担任が頭を痛めていたのは事実だよ?」


「それって利用したって、言わない?」


「否定はしない」


こっコイツ…! 腹黒い!


今までのコイツは演じていただけ!?


「あっ、でも言っとくけど、今までのオレが全部演じていたってワケじゃないから」


…心読めるのか、コイツ。


「適度に抜けるんだよね、オレ。だからキミみたいにしっかりした人が必要なんだ」


そう言って、にっこり笑う。

「…それって、この学校にいる間だけ?」


「まさか」


立ち上がり、アタシの頬を大事そうに両手で包んだ。


「もちろん、ずっと、だよ?」


甘い笑顔とセリフの次には、顔中にキスの雨。


そして、唇に深くキスされる。


「ずっとオレの隣にいてくれなきゃ、イヤだよ?」


「…どういう告白よ? それ」


「まあプロポーズってとこかな?」


「軽いわね」


「オレらしくていいだろう? それとも、オレ達らしくて、かな?」


「まあ…それもアリよね」


アタシはアイツの胸に抱きついた。


強制的だけど…これも一つの縁よね?

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