ワル男とのキス

「邪魔するぜ」


「ホッントに邪魔だっ! キサマっ!」


ビュッ!


「おっと。アブね」


私の投げたシャープペンが、ヤツの顔面に直撃する前に、キャッチされてしまった。


「ちぃっ!」


「…お前、本気だっただろ?」


「当たり前。本気で邪魔だと思っているからな」


私は深く息を吐いて、イスに座りなおした。


そして目の前のソファーを指さした。


「とりあえずそこに座れ。言いたいことがある」


「分かったよ。生徒会長」


異国との血が半分入ったヤツは、顔立ちも体も良くて、女子生徒に大変人気だ。


いつも女子生徒に囲まれている。


男子生徒達は悔しそうにしているが、ケンカも成績でも顔でも勝てないので、影で泣いている。


先生達もヤツの父親の権力が怖くて、小さくなってしまっている。


そんなヤツに唯一意見できるのは、何故か私だけ!


…ということになってしまっているので、先生達や生徒達(主に男子生徒)は、ヤツに何か言いたいことがある時は、私にそのことを伝え、私がヤツに伝えるという方法になってしまっている。


何てこった…。


いくら生徒会長でも、コレはないだろ?


「んで、今度は何だよ?」


「…お前、ナイトクラブでケンカしただろう?」


「ナイトクラブ? …う~ん。アレか?」


「思い当たるのか!」


「まあな」


そう言って肩を竦める。

「何でよりにもよって、ナイトクラブでケンカするんだ?」


「あっちからふっかけてきたんだよ。女のことでな」


…ヤツは顔立ちのせいで、よく男からケンカをふっかけられているのは知っていた。


理由はツレの女が、ヤツに夢中になってしまうから。


確かにヤツが悪いとは一言で言えないが…。


「それでもケンカせずに済む方法だってあるだろう?」


「メンドクせーんだよ。そういうの」


「私はお前のそういうところが、めんどくさい。こうやっていちいち呼び出す方の身にもなってくれ」


手元の書類には、ヤツがナイトクラブに出入りする写真と報告書がある。


1回だけならば、目もつぶろう。


しかし…合計15回はさすがに…。


「はぁ…」

「苦労するな。生徒会長」


楽しそうに私を見つめるヤツを、思いっきり睨み付けた。


「誰が苦労させてるんだ? コレでぶっ倒れでもしたら、キサマに責任取らせるからな」


「わぁお! それって結婚しろってこと?」


「はあ!? キサマの面倒を一生見てられるか!」


フイッと顔をそらした。


ヤツの周囲にいる女子生徒達を日々見ていると、本当に幸せなのかどうか聞きたくなる。


それに…私は真面目一筋で生きてきた。


ヤツの周囲にいるような、キレイに美しく着飾った女性達とは、全く正反対のタイプの女だから…。


…だからコイツに意見できるんだろうな。


「とにかく! 女性問題、暴力問題は極力控えてくれ! いい加減にしないと、学校にいられなくなるぞ!」


「ふぅん…。まっ、それでも良いか」


ヤツは興味のなさそうに、軽く息を吐く。


…こんなヤツ、早くいなくなればいい。


そうすれば、安全で平和な学校生活を送れるんだ。


さみしくなんて…ない。絶対に思わない。


唇を噛んで睨みつけると、ヤツはニヤッと笑った。


「でも、その時はアンタも一緒な」


「はぁ!?」


…またいつもの口だけのか。


しかしヤツは立ち上がり、いきなり私を抱き上げた。


「なっ! ちょっえっ、放せ!」


「オレはアンタが良いんだ。アンタに決めた」


ヤツの顔が間近に迫ってくるのを、私は…止められなかった。


「んっ…」


ヤツの熱い唇に触れて、背筋に電気が走った。

「イヤだっつっても、連れてくぜ? アンタはずっと、オレの側にいるんだ」


「…勝手だな。キサマは」


「ああ、勝手さ。でもアンタは自由にさせない」


真面目な顔になって、私の額・瞼・頬に口付けていく。


「オレのモンだ。一生、放しはしないからな」


首筋に熱い熱を感じた。


「んっ…! きっキサマ、今っ…」


「コレが印だ。消えても、また付けるからな」


そう言って笑いながら、キスマークを舐めた。


勝手で、自由で、ワガママで…なのに、この腕から逃げられない。


私は言葉で答えるかわりに、ヤツの体に強く抱きついた。


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