甘々なキス・6

アタシはつねづね思うことがある。


もしかして彼氏にこの人を選んだのは、間違いだったのかもしれない―と。


その理由は…。


「ねぇねぇ、もうすぐクリスマスよね? イルミネーション綺麗な場所に行かない?」


とアタシが言うと、彼氏はニッコリ笑顔でこう言う。


「行かない」


「ええっ!?」


驚きと悲しみのあまり涙ぐむと、彼氏はいきなりプッとふき出す。


「ウソウソ。行くって」


「ほっホント…?」


「ウソ」


「どっちなのっ!」


「アハハ」


…どうやら彼氏はドの付くSだった。


……いや、それは何となく気付いてはいた。


高校入学時から何となく彼とは気が合って、一緒にいることが多かった。


二年生になって、アタシの方から告白した。


それはまあ、やっぱり恋人になりたから。


そして少しでも、彼に優しくしてほしかったのに。


今でも彼は変わらず、イジワルだった。


彼は結構イジワルなところがあった。


アタシの言うことをイチイチ否定して、でも次の瞬間には言う通りにしてくれる。


後はちょっとでも隙を見せると、髪の毛を引っ張ったり、頬をつねったりしてくる。


友達や周りの人達は、それはスキンシップなのだと言う。


そして彼がドSだからと、どこか遠い目をして言った。


「…ねぇ、そのイジワル、いつになったら止めてくれる?」


とアタシが真面目に聞いても、


「お前が面白いから、止めない」


…と言う満面の笑顔の返答は、恋人としておかしいと、アタシは思う。


「むぅ~」


「そんな拗ねた顔してもダメ。それにお前、イジワルな俺が好きなんだろう?」


「うっ…」


それを言われるとアレだけど…。


彼にかまってもらえるのは嬉しいし、彼の喜ぶ顔は見ていて心がときめいてしまうんだけど……。


「あっあんまりヒドイこと、しないでよぉ」


「そんなにヒドイことはしてないだろう? 傷付けたことはないし」


「アタシの心は傷ついているの!」


「へぇ。そうなんだ」


…綺麗な顔でニコニコ笑っているところを見ると、完全にアタシの意見はスルーされているな。


「なあ、こっち来いよ」


「イヤよ!」


怒っているアタシがそっぽを向くと、近くに来る気配が…。


「…俺の言うことに逆らうなんて、良い度胸だな」


そして背筋がゾッとするほどの低い声が間近で聞こえた。


背後から彼の手が伸びてきて…。


「ふぎゃっ!?」


アタシの左右の頬を、むぎゅ~っとつねってきた。


「アハハっ! 面白い顔と声!」


引き伸ばされた顔を見て、彼は大笑い。


これ以上ないぐらいの輝かしい笑顔を浮かべながら、更にむぎゅむぎゅと頬をつねってくる。


「…もうっ! 止めてってば!」


アタシは耐え切れなくなって、彼の手から離れた。


「こういう痛いイジワルはイヤなの! 止めてくれないなら…」


「止めないなら、何?」


「うっ…」


いきなり真面目な顔で、真っ直ぐに見つめないでほしい。


おっ怒らせたかな?


「もしかして…別れるとか言い出さないよな?」


「そっそれは……」


真剣な彼に戸惑っていると、今度は静かに頬を両手で包まれる。


そしてそのまま引き寄せられて…。


「んっ…」


キス、される。


ただ触れるだけのキスなのに、甘くて身も心もとろけてしまう。


さっきまでイジワルされることに怒っていた気持ちも、どこか遠くに行ってしまった。


…いつもこう。


アタシが怒ると、こうやって真剣なキスをしてくる。


そうするとアタシが大人しくなるから…。


触れていた唇が離れると、またいつものように、額と額が触れる。


「俺と別れられる?」


「うううっ…」


自信たっぷりに問われると、口ごもって何も言えなくなってしまう。


―コレもいつものパターンだった。


彼にはすっかり主導権を握られてしまっている。


「まっ、そもそもお前の方から告白してきたんだし、そんなことは有り得ないよな?」


「こっ告白してきたのはアタシの方だけど…。キミって本当にアタシのこと、好きなの?」


「好きだよ。お前の困っている顔が、一番好きだけど」


だからイジワルされるのかっ!


「ああ、泣き顔も可愛い。だから困らせたくなるんだよな」


そんな楽しそうに語らなくても…。


「ふっ普通、恋人なら笑顔とか、喜ぶ顔が見たいとか思わない?」


「確かにそういう表情も好きだな。お前も俺のそういう顔、好きだろう?」


「うっうん…」


「なら、さ」


ニッコリ悪魔の微笑みを浮かべ、彼は再びアタシの頬をつねり出す。


「うみゅっ!」


「俺の物でいなよ」


「あっあらひはおもひゃひゃなひっ!」

(アタシはおもちゃじゃないっ!」


「おもちゃ、だよ。俺だけの、ね?」


パッと手を離すと、今度は抱き締めてくる。


そしてまたキスをしてくるんだから…アメとムチを使い分けるのが上手い人。


…でもこういう扱いも、アタシにだけしてくれるのなら…と思う時点で、彼から離れられない。


アタシは彼の体に抱き着いた。


決して離れないように―と。

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