夏祭りのキス

「信じらんないっ!」


「オレだって驚いてる!」


二人でぎゃあぎゃあ言いながら、人ごみの中を歩く。


「もうみんなして、どこに行っちゃったのよぉ」


「アイツら…。ケータイも通じないし、どこにいるんだよ」


二人してキョロキョロと周囲を見回す。


けれど目当ての人達の姿は全然見えない。


「ううっ…。はぐれた時に行く場所、決めておけば良かった」


「だな。でもいきなりはぐれるなんて、思わなかった」


今日は近所の神社で行われる夏祭り。


クラスで仲の良い友達と、遊びに来ていた。


なのに…アタシとコイツを残して、みんなしてどっかに行っちゃった!


ケータイは通じないし、出店の所を見て回ってもどこにもいない。


「もうっ…花火、はじまっちゃう」


「もしかしたら、そこにいるかもな。行ってみるか?」


「そうね。先に行ってるかも」


方向を変えようとして、アタシは…。


「きゃっ!」


つまづいた。


「おっおい!」


けれど倒れる前に、アイツに支えられてセーフ。


「あっありがと」


「浴衣じゃ歩きにくいよな」


「うん…。せっかく今日の為に着て来たのに」


今日の日の為に、女の子だけで浴衣を買った。


オレンジ色の生地に、黄色の花模様。


普段は黒とか茶色しか着ないアタシは、最初は恥ずかしかった。


けれどみんなして「可愛い♪」って言ってくれて、嬉しかったのに…。


「うっ…」


ここにはいない友達の顔が頭に浮かんで、思わず涙が出そうになった。


「おっおいおい。何も泣くことないだろ?」


「だってぇ」


クラスでも仲が良い友達。


男とか女とか関わらず、楽しくやってきた。


いつも大人数で遊んでいたのに、今じゃ二人きり…。


「ああもう!」


いきなりアタシの手を掴んで、アイツは歩き出した。


「えっ、ちょっと!」


「花火見る所に行けば、誰かしらいるだろうから! 今はオレでガマンしろっ!」


がっガマンって…。


でも手は離さないまま、花火を見る所まで来た。


土手の上で、穴場だった。


けれど…。


「いない、わね」


「んっとにどこにいるんだか」


そう言って空いている手で、ケータイを操作する。


けれど繋がらないみたい。


「…もうここで待ってましょ」


「そうだな」


…でも手はつながれたままだ。


アタシもコイツも、離そうとしなかったから…。


手の熱さと汗を感じるけれど、不思議とイヤじゃない。


「あ~あ。髪の毛ボサボサ」


長い髪が結い上げたお団子から崩れていた。


「そんなことないよ」


「あるわよ。もうボサボサ。お団子、外そうかな」


髪を気にしていると、ふと手が伸びてきた。


そのまま一筋の髪に触れる。


「えっ…?」


「キレイ、だよな。お前の髪」


「あっありがと」


長い髪が好きだって…言ってたっけ。


そのままお互いに顔が近くなる。


髪をクイクイ引っ張られた。


「なっ何よ?」


顔を上げると、


「んっ」


…キス、された。


「んんっ!?」


そのまま抱き締められる。


けれど…抵抗しなかった。


アイツの一生懸命さが伝わってきて…動けなくなってしまった。


しばらくして離れると、お互い顔が真っ赤になっていた。


暗闇の中でも分かるぐらい、熱を持っている。


「…何で、キスしたの?」


「可愛かったから…」


そう言って、再び抱き締めてくる。


アタシはアイツの胸に顔を埋めた。


ドーンッ!


「えっ?」


驚いて顔を上げると、花火が始まった。


ドーンッ ドドーン!


次々と色とりどりの花火が打ち上がる。


「わあ!」


二人で花火を見上げる。


「キレイ…」


うっとり見上げながら、アイツに寄り掛かった。


そのまま肩を抱かれて、しばらく二人で花火を見上げていた。


ところが…。


「あーっ! こんな所にいた!」


瞬時に二人、1メートル離れた。


「ホントだ!」


「ヤダもー! ずっと探してたのよ!」


仲間が後ろから駆け付けて来た。


「こっちも探してたのよぉ!」


アタシは女の子達に抱き付いた。


「ふえ~ん。寂しかったぁ」


「ごめんごめん」


「ちょっと人ごみに呑まれちゃってさ」


その後は、仲間達と一緒に花火を見た。


花火が終わる頃には人気も少なくなっていた。


「二人見失ったときにはもう焦ったぁ」


「ケータイも通じねぇし、マジ焦った」


「オレもだよ。けどどこにいたんだよ、お前ら」


アタシ達は何事も無かったように振る舞った。


けれど…みんなより後ろを歩いて、二人で手を繋いでいた。


強くきつく…。


決して離れないように、握り締めた。


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