オタクとのキス
わたしの彼は、普通の人とはちょっと違う趣味を持っている。
「…でね、そのマンガなんだけどさぁ」
「うんうん」
「あのアニメも…」
「へぇ、そうなんだ」
「そして例のゲームなんだけどさ!」
「スゴイねぇ!」
…てなカンジが日常茶飯事。
つまり彼はオタク。
彼の生活はパソコンを中心として、マンガ・アニメ・ゲームが回っている。
そしてその輪の中に、最近、わたしが入った。
恋人、というカタチで。
彼は気が優しくて、いろんな話題を持つ人だ。
一緒にいても、相手を飽きさせることなく、いろいろな話をしてくれる。
自分の話をするだけじゃなく、ちゃんと相手の話も聞いてくれる。
一般的に言うと、草食系のオタク男子だけど、わたしは彼のことがとっても好き。
だから告白した。
なのに彼は…。
「えっ、ええっ!? なっ何か罰ゲームさせられてるの?」
…ときた。
一生懸命説明することの1時間後、やっと信じてくれた。
そして受け入れてくれた。
「こんな僕だけど…よろしく」
そう言って、真っ赤な顔をして、握手をした。
付き合いはじめると、彼は自分の好きなものについて、熱く語ってくれるようになった。
彼からマンガやアニメのDVD、それにゲームをよく借りるようになった。
分からないところや知りたいことがあれば彼に聞けば、快く答えてくれる。
わたしのことを大事にしてくれるし、優しくもしてくれる。
不満も不安も、わたしは彼に何1つ持っていなかったの…。
「ねっねぇ」
「なあに?」
休日、わたしと彼は街にデートに来ていた。
彼が見たいというマンガ原作の映画を見た後、昼食を食べた。
そして本屋やゲームのお店を回った後、一休みすることにした。
屋台でクレープを買って、自販機でジュースを買って、公園で一休みしていた。
その時、彼が少し暗い表情で言い出したのは…。
「僕の何が良かったの?」
「…? 何がって、何のこと?」
「その、僕と付き合うことを決めたキッカケとかさ」
「わたしはただ、あなたの優しいところが好きなだけ。あと趣味に夢中なところも」
「オタク…なのに?」
「うん。あなたが趣味に夢中になっている姿って、好きよ。明るくて、すっごくイキイキしてるし。何て言っても、可愛いしね」
「かっ可愛いって…。男に使う言葉じゃないと思うけど…」
「そうかしら? でも本当に可愛いと思うんだから、仕方ないでしょ?」
そう言うと、彼の顔が真っ赤に染まった。
やっぱり可愛い♪
「かっ可愛いのはさ」
「うん?」
「キミの方だよ」
「あら、嬉しい。アリガト」
笑顔で答えて、ふと気付いた。
「アレ? 口元、クリーム付いてるわよ?」
「えっ! クレープってあんまり食べないからなぁ。どこに付いてる?」
ティッシュを取り出して、口元を拭こうとする彼の手を止めて、わたしは身を乗り出した。
そして彼の甘そうな唇に、キスをした。
…やっぱり甘いキス。
彼の口の端に付いているクリームを舌で舐め取り、離れた。
「はい、取れた」
その後はクレープを食べ続ける。
「あっ、あのねぇ!」
「ん? どおしたの? 真っ赤な顔して」
分かっているのに、あえて知らんプリをする。
「キミって人は…! 可愛いのに、とんでもないことばっかりするんだから」
「ふてくされたあなたの顔の方が、よっぽど可愛いわよ?」
「だーかーらー!」
わたしはニコニコしながら、彼の話を聞く。
彼は気付いていないんだろうか?
あなたが「可愛い」と言ってくれるわたしは、あなたと一緒にいるから可愛くなれることに。
趣味のことで、まるで子供のように夢中なあなたを見ていると、わたしまで夢中になってしまう。
そう、あなたに―。
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