春の麓(ふもと)に

24話:解決しない問題、焦げた食パン

「おはよう……眠い」


 私は起きると、カーテンを開け、日光を浴びた。今日も元気に過ごせそうだ。


 起きたはいいけど、となりに逆音がいなかった。悲しかったけど、彼女はドキドキして眠れなかったんだろう。

 今日はクラス発表の日、初めて自分の手で制服の紺色のブレザーを着る。慣れないけど、思ったより大丈夫だった。


 一人じゃさみしい。ので、私は急いでリビングに行き、逆音に会いに行った。


「おはよう、逆音ちゃん」

「おはよう、今さー、ニュースで『クナイ』の特集が組まれてるんだー」


 たしかに放送されている。彗星が落ちた後に、橋武を騒然そうぜんさせた殺し屋。前に遊園地に行った時に信濃路が話した、はず。


「『クナイ』に殺された人の大半は、数日後に生き返ったらしいですね。なんででしょうか?」

「私達も知らない特殊能力持ちだと思われます」

「なぜ『奴』はあのような奇行をしたのでしょうか?」

おそらく、最近の若者によく見られる自己じこ顕示けんじ欲からだと思われます。これは他の若者にも共通して言えることなんですが、痴呆化が……」



 私は勝手な憶測をする専門家(笑)に呆れて、テレビの電源を切った。

「勝手なことを考えてるな。そもそも犯人の正体もわかってないというのにさ……」

「綾ちゃん、呆れすぎじゃない?」

「まあね。そんなことより制服にあってるね」


 気付いてなかったけど、逆音もブレザーだった。あいつは似合ってる。


「外に出よう、多分みんな待ってるから」

「その前に朝食食わないと!」


 たしかにお腹が鳴っていた。急いで逆音が食パンを持ってきて、私がいちごジャムを持ってくる。


「焼かなくても大丈夫だよー」

「でも焼いて食べた方が安心じゃん」


 そう言って私は狐火を手に創生し、火につけて焼いて食べた。当然焦げていたけど、むしろこの味が好きである。


「黒焦げじゃん、よくそんな物を食べられるね」

「逆音ちゃん、これくらいの焼き加減が好きなんだ。焦げ焦げで美味いじゃん!」

「私にはさっぱりわからない。到底人間が食べるべき物じゃないかと」

「私が人間じゃないから大丈夫。九尾キュウビってこういう時に役に立つんだよね〜」

「たしかに……」


 人間と妖怪、たしかに違う。こういうことが中学校生活に響かなければいいなぁ。楽しみだけど、こういうところが心配である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る