10話:味噌ラーメンに思いを込めて

「へーいらっしゃーい!」

「味噌ラーメン六個!」

「彩那ちゃん、さっきまで黙ってたのに元気がいいなー!」

「佳奈ちゃん、さっきまでシリアスな展開だったから話しつらかった。でも、今は違うね、話しやすい!」


「つらかったなー、責任しか感じないよー」

「し、信濃ちゃん、引きずらないでよ〜」

「ご、ごめんな佳奈ちゃん、私は君を傷つけるつもりはなかったんだ……」


 佳奈との会話で出た彩那の本音が、信濃路の良心を呼んだ。あいつも反省できるようになったんだ。

 店主は麺を茹で、水を切る。人生のアドバイスを貰いたい。けれど店主はラーメンを提供する、それ以外に人生に干渉しないつもりなのだろう。


「味噌ラーメン六人分、召し上がってください」

「ありがとうございます!」

「お嬢ちゃんたち、『ありがとうございます』だなんて言えるのは偉いよ、最近は子供も大人もみんな黙って貰うんだ。さらに、たまに『まずい』としか言わない客がいる」

「それって人間としてダメじゃないんですか!」


 彩那の反論に対し、店主は頷きながら

「うん、その意見は正しい。けどな、そうは問屋は卸さないんだ。

 たまに、舌の肥えた人がいる。そいつに『まずい』と言われたらしゃーない、庶民もそれにすがるんだ。

 違いのわからない人たちは、わかるふりをして『まずい』としかいない。そこが問題なのだ」

 と答えた。


 その後、私たちはラーメンをすすった。スープを飲み干した。そこに言葉は無かった。


「ごちそうさまでした〜!」

「美味しく食べてくれてありがとな! またらっしゃい!」


 『ごちそうさま』のタイミングを合わせたわけじゃないのに、タイミングが合った。ラーメンが以心伝心させたのだろう。


「美味しかったな、次行こう」

「信濃路さん、コンサート会場だからね」

「綾ちゃん、言わずともわかるって」

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