11話:妖奏(ようそう)の橋中吹部

 私たちはコンサート会場へ行った。ステージとは言えどこにでもある、簡素な台だった。まだ三十分前だというのに、すでに五十人ほど来ていた。


「そういえば、彩那の義姉おねえちゃんって元橋武中学校吹奏楽部長、小田原希さんなんだよね?」

「逆音ちゃん、そうだよ。本当の親と違って、優しいから過ごしやすいんだー」


 彩那が幸せそうに答えた。やっぱ今が一番なんだろう。過去を忘れることは出来ていなかったが。


「彩那ちゃん、ならば私の姉にもお世話になってるよね?」

「佳奈ちゃん、えーっと……、あー、佳織さん。よく私にお菓子をくれる、とても優しい人ね」

「確かに優しいけど……、あの人、君のお姉ちゃんと違って高校は弓道部なんだよ」

「そーなんだー」



 彩那と佳奈の会話で、引退した先輩方について少し掴めたような気がする。


「あと二十分ほどで、橋武中学校吹奏楽部のコンサートが始まります。コンサートが始まりましたら、静粛にお願いします」


 二十分もの間、私たちは寝た。特に話すことなんてないし、集中して曲を聴きたいからだ。


「まもなく開演します。静粛にお願いします」


 気付けば目の前に橋武中学校の先輩方が並んでいた。一睡の間に、音も立てずにここまで揃っているなんて思いもしなかった。

 先輩の一人が指揮台に上がり、指揮棒を上げる。その瞬間。コンサート会場周辺に、厳格なオーラが漂い始める。


 そして指揮棒を振り始めると、演奏が始まった。いきなり別の場所に連れていかれた気分だ。そこには田畑、住居が広がり、妖怪が暮らしている。

 しかし、私たちの知っている曲ではなかった。知っているフレーズもなかった。吹奏楽の曲でもないと思う。


 そして、先輩が指揮棒を下ろした時、拍手が起こった。


「以上、橋武中学校吹奏楽部、曲名は『妖怪郷を訪ねて』というオリジナル曲でした」


「妖怪郷……? どっかで聞いたことがあったような気がする……」

「信濃ちゃん、また都市伝説かい?」

「佳奈ちゃん、返事ありがとう、思い出した、都市伝説だった! どこかに存在する、妖怪の楽園なんだけど、それ以上のことはわかってないんだー、けれど、なんでだろう、想像できた」

「それは多分、この素晴らしい演奏のおかげじゃないかな?」

「佳奈ちゃん、たぶん、そうだよね、さんくす」

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