25話:春が運んだ物

 パンを完食した後、皿を流しに置いた。


「じゃあ、行きますか! で、綾ちゃん。本当にみんな待ってるの?」

「逆音ちゃん、むしろ待つと思う。だってあの人たち、マイペースでしょ」

いなめないね。でも今日は早いん……「ピンポーン」インターホン鳴らなかった?」

「確かに鳴ったね。逆音ちゃんとの会話をさえぎるようにね」


 少し悲しそうに、逆音はこちらを向く。でも遮られたという事実は変わらないのだ。だから私は訂正しない。


「はーい、今行きまーす!」


 逆音は明るい口調に戻して、ドアを開けた。


「逆音ちゃん、はやくいこーよー!」


 そこにいたのは早苗だった。後ろには佳奈と信濃路もいる。またいつものメンバーで行くつもりなのだろう。


「はーい、今行くよー! 綾ちゃんもさー、中学校に向かおうよー!」

「そうだね。今出るよー」


 私は外に出た。桜の花びらが一つ落ちてきた。


「誰と一緒のクラスになれるかなぁ? 誰でもいいけどさー、ぼっちだと悲しいなぁ」

「早苗ちゃん、もっと社交的になりなよ。君は保守的だからそんなに……」

「佳奈ちゃん、人が怖いん……。オタクだと知られたら何人に嫌われることか! はぁ……、みんな優しくないからな……」


「早苗ちゃん、私たちは所詮しょせんぼっちグループだ。多分それは今後も変わらない。陽キャになることも出来ない。なりたいなら私たちと縁を切って……」

「佳奈、そんなん知ってる。けど……、私たちをぼっちグループだなんて言わないで! なんで佳奈ちゃんはそう言うの……。私たちは繋がってるやんけ!」


「ぼっちでもいいやんけ、下手にけなし合うより。私たちはぼっちだよ、けど繋がってるよ。それでいいんじゃない?」


 佳奈の言葉は、私の心にも届いた。下手な言葉かもしれないけど、名言だ。けど、本質からはずれている。それでも早苗が納得しているならいいや。


「ありがと佳奈。目が覚めたよ」

「早苗こそ……あは、呼び捨てにしちゃって……。より親密になった気がするね!」

「そうだ……へー、くっしゃん! 花粉強いや。目がかゆい……。信濃、花粉やばい」


 どうやら早苗は花粉症みたいだ。さっきの話で花粉を忘れていたらしいけど、反動もやばいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る