33話:琴音の来襲

 私たちは虹色に並べられた屋根の住宅街を過ぎ、白い橋上駅の橋武駅に着いた。

 そして来た電車に乗り、終点の東丘まで向かうことにした。

 車内には小さな子もいて、初めは電車の走行音、案内しか聞こえなかった。


「はいはいはい、皆さん少し失礼してもいいでしょうか?」


 突拍子もなく、知らない同年代ぐらいの女子が話しかけてきた。


「ごめん、誰?」

「早苗ちゃん、話は知ってるよ! 取材させてもらおうか!」

「自己紹介ぐらいしてくれんか?」

「そうですね早苗ちゃん。私の名前は外山琴音、元マスコミ関係者さ!」

「やれやれ、会社をクビになって、幼児化されたんですか……。可哀想」


 かつてどこかで会った感じはする。だからこそこんな反応をした。

 私ですら同情する。他の人も熱心に私たちの会話を聞いている。

 しかし性格の合わないやつだ。好きか嫌いかと言われれば嫌いだ。


 突然現れた彼女は電車内で溢(あふ)れる怒りをなんとか手で制御しながら、不満を吐き出した。


「なんだよ! あの取材方法はおかしいと思ったからアサテレビに言ってやったら、『組織に従え、さもなくば子供にするぞ』と言いやがって! 血のマグマに埋れて足掻き、一酸化炭素を吸って中毒になって死ね!と何度思ったことか……」


「外山さん、その発言からは、殺意に、殺意に、殺意しか感じないんですけれど……。これほど端的に言って死ねということだよね?」

「そうだよ。でも苦しんで死んでほしいんだ。あの腐った人間どもはそうじゃなきゃ反省しない」


 佳奈が聞いた内容に、琴音はリプライする。

 やれやれ、ここまであの業界は腐っていたのか。あいつの怒りを抑えながらの声が、少し心に残る。


 だけど、なんかあんまり琴音のことが好きになれない。そんなことを考えつつ、私は吊り革を掴んだ。

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