5話:暇つぶしの怪談

 気分だけが盛り上がっている、他グループの人たちをよそに、私たちは退屈していた。

 『ブラインドコースター』と書かれた看板の下までたどり着いたが、まだ屋内に入れない。


「ねえみんな、怪談しない?」

「信濃ちゃん……、お前の知ってるのはガチなやつだからなー」

「早苗ちゃん、そういや吉風よしかぜ川の怪談って知ってる?」

「知ってるけど聞きたい」


「んじゃあまず、橋武の北側に吉風川ってあるじゃん。それは知ってるよね?」

「知ってるよ。でもさー、お前も大変だなぁ、作者の無駄に広い世界観の紹介役だなんて、失敗したら大恥だよ〜」

「うるせえ早苗、いられているんだ! で、閑話かんわは休題にして、あそこの中洲なかすで人をいじめたりすると、いじめられた人が川底に引き込まれるらしいんだー。ゾクゾクしない〜?」

「なにその話? 作り話?」

「早苗ちゃん、読者から見たら作り話だけど、本当なんだって! ほら、この写真を見てみぃ」


 信濃路はスマホに保存していたモノクロの写真を、私たちに見せてきた。

 そこにあったのは、謎の手のせいで中洲から川に引き込まれる、学ランを着た少年と、そこから逃げるリーゼントの集団だった。


 でも、他の人は『手』に気付いてないらしく、首を傾げている。


「信濃ちゃん、ただの川で行われてるリンチの画像やんけ」

「逆音ちゃん、よく見てみぃ、足のところに手があるでしょ!」

「うん、ん……、やばあぁぁぁッ!」


「ちなみに、この画像はなぜかフリー素材でーす。こんな恐ろしい画像がタダで拾えるなんて、世の中恐ろしいことばっかだな」

「うん……、いつものごとく、ネットから拾ってきたのかと思った」

「佳奈、私がぬすみ屋みたいな言い方やめい!」

「信濃ッ……、存在感返せ!」

「空気にてっしたあなたの責任では?」

「そんな覚えないわ!」


 佳奈と信濃路の喧嘩けんか(?)はすぐに冷めそうだ。また『いつもの』だもん。あと二分したら冷める。


 まだ屋内には入れていない。

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