4話:闇を払う

 私たちはなんとか入場券を購入こうにゅうし、園の敷地に入っていく。家族連れを見て、彩那は怯えている。


「彩那ちゃん、安心して、怖くない、怖くない」

「はぁ……、はぁ……」


 彩那のいきあらくなってる。過呼吸なのかな?


「佳奈ちゃん、多分、宥なだめてもダメだと思う。フラッシュバックしちゃってる。元の親に虐待ぎゃくたいされた時の記憶なんて、簡単には消えないよ」


 今の親、すなわち里親は彩那の凄惨せいさんな過去の記憶を思い出さないように、努力をしてきたのだろう。


「とりあえず歩こうよ。そして休める場所で休もうよ」

「綾ちゃん、うんうん、その方がいい」

「佳奈ちゃん、綾ちゃん、みんな……、私のせいで、ごめんね……。で……でも!」

「彩那ちゃん、落ち着いて、みんなが楽しくなきゃ意味ないもん」

「佳奈、私もそう思う。他のみんなも、佳奈のように思うよね?」


 私の質問に、みんなはうなずいた。みんながみんな、黒き過去を持っているんだもん。

 たまたま黄色いベンチを見つけたので、みんなで座ることにした。佳奈は彩那の背中を、優しくさする。


「落ち着いて、落ち着いて。大丈夫、私たちがなんとかするから」

「佳奈ちゃん、情緒不安定でごめんね」

「大丈夫、それよりも、客観的に見れてるということは、落ち着いた? じゃあ再開しますか!」


 私たちは再び立ち上がり、アトラクションへと向かう。最初に乗るのは『ブラインドコースター』という、目隠しをしながら乗る、新感覚のジェットコースターだ。


「こんなん乗って、何が楽しいの?」

「逆音ちゃん、絶叫マシンには乗ろうよ」

「し、信濃ちゃん、あれはマジでやばいって!」

「でもー、たまには、ね?」

「しゃーないなー、他のみんなはどうなの?」


 全員乗り気で「大丈夫!」と言った。あの程度ならば私もいけそうだ。


「『ブラインドコースター、六十分待ちとなっておりまーす!」


 別に私たちは暇なので、何時間でも待てるが、陽キャはそうはいかないようだ。パーティがどうのこうの騒ぐ、ただただ派手な服装の人達がうるさい。


「迷子のお知らせをします。千葉県、津田沼つだぬま市からお越しの『かぐらさかさとし』くんのお母さん、至急、総合センターへお越しください」


 狐耳がなかったら聞こえなかったであろう、迷子のお知らせ。せっかく千葉県から来たのに、迷子とは可哀想だ。


「綾ちゃん、今放送はなんて言ってた?」

「早苗ちゃん、迷子だってよ、千葉県から来たらしい」

「わざわざ遠いとこから、ここまで来るなんて、帰省しているのかな?」

「多分ね」

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