Comet has passed【異常だが日常】[パスコメ]

縹船シジマニア

『あの日』

零話:彗星が落ちた日

 あの時のニュースはうるさかった。


 みんな、中羽なかばに彗星が落ちたことしか報じなかったんだ。

 流石さすがにソファに座っていた、ホームステイ先の逆音さかねの父さんも呆れていた。


「外山さん、現場はどうなっていますか?」

「はい、絶望のあまり、細くするどい木の棒で心臓を刺し、自殺したと思われる女子高生の死骸しがいが一つ……」


 あの頃は小学生だった。けれど、他局でも同じような内容ばかりで飽きたことは覚えている。

 第一、彗星が映っていなかったから実感が湧かなかった。


 気分転換に窓を開けても、いつもと同じように青い屋根が整然と並べられていた。

 結局は私も、変わらない日常の中にいたんだ。


 そのことにも、彗星を通して気付かされた。だから他人と盛り上がることも少なくなった。


 それほど内容が単調だったので、ベオでDVDを借りた。こんな騒ぎも、数日経てば収まるだろうと思っていた。



 だが違った。



 人々はこの事件の後、『何故か』異能力を手に入れた。異能力を手に入れた人間は、妖怪達を恐れなくなった。


 だから人間達は妖怪の里へと侵略しんりゃくを始めた。そして、手に入れた土地を開発した。

 今のホームステイ先の橋武はしたけだってそうだ。おかげで『ニュータウン』が爆発的に増えた。


 住む場所を奪われた、ほとんどの弱い妖怪は、街で細々と生きる。

 一応強い妖怪(九尾キュウビ)である私は、伝統に基づいてホームステイをする。


 その時は逆音の家に着いてから、まだ半年くらいしか経っていなかった。

 だけど、その時からホームステイ先のみんなは優しかった。


 多分橋武は、地元の『狐の里』より発展している。家が建って、鉄道がびゅんびゅん走るなんて、『狐の里』ではあり得なかった。


『私の狐耳には、どんな音が聴こえるのだろうか? また私の束ねた髪は、どんな風を受け取るのか?』

 この問いの答えを探すために、『薬師堂やくしどうあやという九尾』、すなわち私は、この街でぼんやりと、はっきりと暮らしていく。


 彗星と共に訪れ、彗星事件の解決と共に『普通』になったいく『異常だけど日常』な私たちの世界が、ここから動き出す。

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