15話:あやかしがいた裏路地

 信濃路の家に行くために、必ず通らなければいけない難所がある。いつも暗い裏路地である。

 いつも人の気配がなく怖いが、近道だから避けられない。今日も気配がない。


 ……、いきなりセーラー服を着ている、小3くらいの少女が目の前に現れた。

 傘はさしてなく、舵のようなネックレスをしている。手にはカゴに詰めたドライフルーツがある。


「あ、そこの狐耳のお姉ちゃん、ドライフルーツはどうでしょうか〜?」

「えーっと、何円で、どんぐらいなの? ごめんね、今五千三百円しか持ってないんだ」

「うーん、じゃあこのカゴごと、二千三百円でどうでしょうか?」

「買った! それぐらいの価値がありそうだし!」

「ありがと〜! たっぷりの、か、金だ! これならしばらくは飢えなくて済む! 本当にありがとねー」

「ついでに名前も聞いていいかなぁ、私の名前は薬師堂綾、九尾キュウビ狐だよ!」

江越えごし舵名かじな、私も妖怪だよ。と言っても種族不明でさー、しかも元々の居場所を人に追い出されて、今困ってるんだー」


 私は自転車のカゴに、舵名からもらったドライフルーツを、カゴごと入れた。試しに一口つまみ食いをすると、酸味が爆発しやがる。

 量も多いので、信濃路の家でみんなで分けよう。


 こんな路地裏にも、赤い唐傘からかさが落ちていた。落とし主を探すために、拾っておこう。

 一応、あの女の子に聞いておこうかな? 傘も持っていなかったから怪しい。


「ねえ、この傘違う?」

「違うけど……、この傘の持ち主なら知ってるよ。呼んだほうがいいかな?」

「ありがとね、舵名ちゃん。んで、ヤボなことを聞くけど、その人とはどんな関係なの?」

「今の居場所を提供してくれてる、優しいし親しみやすい唐傘の付喪神つくもがみだよ」


 これが、彗星がもたらした格差なのだろう。人の異能力さえなければ、舵名は居場所を失わなかっただろう。


「ねえ、居場所を失って、悲しいと思わないの?」

「綾ちゃん、思うけどさー、家族のいない居場所なんて、いる価値もないよ。家族は私以外、陰陽師おんみょうしによって討伐とうばつされてしまったんだ」

「舵名ちゃん、ありがとね、暗い過去話をしてくれて。で、その唐傘の付喪神はきてるの?」

「うん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る