05 Day 1
朝食の片付けも終わり、ひと段落ついた主婦の依子はリビングのソファーに腰掛け、お茶を楽しみ、DVDを見ながらゆっくりと過ごしていた。
彼女の今日の予定は、そう多くは無かった。この休日に楽しんだ韓国ドラマのDVDをレンタルビデオ屋に返却、続きが戻ってきてたら借りる、それから昼食を友達と楽しんで、夕飯の買出しに出かけて家へ戻る。何てことの無い、ごく普通のありふれた予定であった。
かつては夫と共働きで家計を支えていた忙しい時代もあったが、夫の仕事も落ち着き、息子と娘が社会人になって家を出てからはこうしたゆっくりとした生活を送っている。世間一般から見れば、彼女は恵まれた平穏な人生を送っているようだったし、彼女自身もそう思っていた。
ふと、家の固定電話が鳴り響いた。誰からだろう、と番号と名前を確認した彼女は、それが息子――警察官になった――の達彦からの電話だと知り、すぐに受話器を取った。
『もしもし、母さんか?』
「どうしたの?こんな珍しい時間に」
息子からの電話はたまにあるが、大抵の場合、勤務が終わった時間帯や休日の場合が多く、今日のような平日の午前中から掛かってくる事は珍しかった。ましてや勤務中に掛けて来る事など皆無に等しいため、彼女は不思議がった。追い討ちをかけるように、電話の向こうから聞こえる息子の声はどこか険しかった。
『母さん、父さんはもう仕事に出かけた?まだ家にいる?』
「もう出かけたわよ、どうして?」
『分かった。後から父さんにも電話をかけるよ。特に変わった事は無い?不審な人を見たとか、周りで事件は?救急車とかパトカーの音がいつもより響いてない?テレビのニュースは見た?』
切羽詰まった息子の声に、思わず彼女は不安になるが、落ち着いて息子の問いに答える事にした。
「特に問題ないわよ、いつもの通り静かだし……何か事件でもあったの?」
『今は詳しく言えないんだけど……』
「……何があったの?」
彼女問いに、息子は答えた。
『今、都心部で暴力事件が多発してる。原因が判らないけれど、どうやら状況が全部似通っていて、こう、昔映画で見たような……いや、とにかく何か“大きな事件”が起きてるみたいで、こっちも対応が忙しい状態になってる。今日はとにかく外出を控えて、何が起こるか判らないから』
「判ったわ。達彦も気をつけてね」
それから、彼女と2、3言葉を交わしてから電話は切れた。受話器を置いてから、彼女は今朝から一度も付けてなかったテレビのチャンネルを回してみた。
本来であれば、昼の情報バラエティ番組を放送しているであろうそのチャンネルは緊急ニュースを伝えていた。アナウンサーの読み上げる原稿やテロップからは「山の手線で殺人事件」「全線運休停止」「警察による発砲」「同様の事件が都内の病院で発生」と言った旨の情報が流れ続けていた。
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