10 Day 1
突然の休みで暇になった藤崎は、一日中、ゲームや映画で暇を潰しながら部屋で過ごしていた。時折、携帯を見ては例の事件の伸展を確認していたが、それでも不安は徐々に襲ってきた。まさか、と思いつつもニュースサイトやSNSで流れる情報を真実とすれば、それはまぎれもなくゾンビの発生だ。
もしゾンビが増えてきたら……
もしゾンビが襲ってきたら……
もしゾンビが……
色々な「もしも」に考えをめぐらせるうちに、藤崎は不安になってキッチンの食料棚を開けていた。独身1人暮らしの彼の住まい――1LDKの安アパート――相応の食品しか備蓄されていなかった。せいぜい、1週間分程度の食料だ。
東北生まれ、あの3.11を経験した藤崎にとってはうかつと言っても過言ではなかった。本来なら、非常事態用の持ち出し袋など用意していてもよかったものだが、最近引越しして以来それを怠っていた。災害はいつも思いもよらない場所からやってくる物で、ましてや今は「ゾンビ災禍」というフィクションのような出来事が現実になりつつあるという危機的状況なのだ。
藤崎はふと家の鍵と財布、携帯を掴んで外出する事にした。
すでに時刻は夜の11時だったが、帰宅難民を逃れたサラリーマンや労働者で夜の人通りは多かった。藤崎は目的地――近所の深夜営業スーパーまでやってくると、籠を掴んで遅めの買い物を始めた。
スーパーはいつになく、この時間帯としては人が多いように感じられた。仕事帰りのサラリーマンに混じり、ジャージやスウェット姿の若者や、主婦などの姿も見えていた。客たちは、籠にパンや水、缶詰やレトルト食品、カップ麺などを詰め込んでいた。この時間帯で人が少ないのか、レジには長めの列が出来ている。
藤崎は急いで、商品が少なくなった棚からカップ麺や缶詰を手にとって籠に入れていく。すれ違う客の顔はどれも不安の色が浮かんでおり、無心に商品を選んでは籠に入れていた。
まるで、あの時みたいだ。そんな思いで、レジの列に並んだ藤崎は、携帯が鳴っている事に気がついた。勤務先からのメールだったが、送り主は店長ではなかった。年上のバイトリーダー、滝澤からのものだった。
[シフト変更お願いします。昼の3時~夜の11時までお願いします]
メールの文面に、思わず藤崎は無視を決め込みたくなった。社会的な信用か、これから起こりそうな災禍に対して備えるか。難しい事態になってきた。
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