死者たちの列島
電源
01 Day 0
――ああくそ、どうしてこんな結果になったんだ。
空港のロビーで、1人の男が心中で悪態を吐いていた。40代ほどのこの男、新堂は大手テレビ局のバラエティ番組の制作に関わる、テレビマンだった。
今まで携わったテレビ番組は数知れず、特に最近制作に関わった番組は視聴率も伸びており、ディレクターとしての仕事は順風満帆だった。今回の海外ロケで得られた結果も視聴率UP間違いなしの出来だったと新堂は思っていた。
ところが、新堂は1人だけ貧乏クジを引いた。
東南アジアのジャングルの奥に潜む、珍しい動物とタレントが触れ合う……そんな企画の撮影だったが、ロケ中に新堂がジャングルの中で奇妙なサルに襲われたのだ。同伴のカメラマンやスタッフ、タレントは襲われなかったものの、彼だけにケチが付いた。サルに引っかかれた新堂は、左腕に怪我をしてしまったのだ。
幸い、簡単な応急処置で済む程度の軽い怪我だった。しかし、ロケに同行していた現地の案内人はひっきりなしに騒ぎ続け、ロケに影響が出た。通訳は「悪魔に噛まれた」「もう助からない」「災いが襲う」と、意味のわからない言葉を案内人が叫んでいたと伝えていた。くだらん、と新堂は内心思っていた。
しかし、現実は確実に悪い方向へ向かいつつあった。飛行機で日本へ戻る途中に発熱や軽い頭痛などに襲われ、空港のロビーでこうして一休みを必要とする程になっていた。傷口も僅かだがじんじんと熱を帯びているような気もする。
体調の悪化に参っている新堂の元に、自販機で飲み物を買ってきた同僚がやってきた。差し出されたスポーツドリンクを飲んだ新堂は、頭を抑えた。
「大丈夫か?気温の変化や時差にやられたんじゃないだろうな」
「いや、どうも例の引っかき傷が原因らしい……熱が出てきたみたいだ」
ため息を吐きながら、新堂は同僚の言葉に答えた。
「そりゃ大変だな、悪くならないうちに病院行ったほうがいいぞ」
「そうだな……って言っても」
新堂は腕時計に視線を落とした。デジタルウォッチの数字は夜の9時を回っている。いつも利用する掛かりつけの病院はとっくに受付時間を過ぎているだろう。とは言え、今は軽い風邪程度の体調の悪さで済んでいるし、先ほど頭痛薬を飲んでからは多少はましになった。
「明日が休みなのは幸運だな、とりあえず今日は安静にするよ」
そう答えた新堂は、同僚と空港で別れてから自宅へ直帰する事にした。
電車に乗って自宅まで帰る新堂だったが、その「傷」が、長く続く悪夢の始まりになるとは、本人含めまだ誰も思っていなかった。
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