17 Day 2

 高速道路のサービスエリアで休憩中のトラックドライバー、大野は今後の予定について頭を悩ませていた。と言うのも、彼が運転する長距離トラックの目的地である東京が、首都圏で発生した例の感染騒ぎで到着できなくなったのである。

 高速道路や主要な道は警察や自衛隊の手によって封鎖され検問が敷かれている状態で、テレビの言う「感染者」を封じ込めるためで移動は不可能となっている。何とか会社と連絡を付け、荷物を積んだまま引き返せと指示が出たため、ひとまず安心したが、結局は荷物を満載したまままた高速に乗って九州まで逆戻りしなければならず、これから更に移動を続けなければいけないのが苦痛で仕方なかった。


 サービスエリアには同じように立ち往生している車が目立っていた。同じような境遇の長距離トラックや、首都圏へ車で移動するつもりだった連中もだ。皆が交通情報に耳を傾け、携帯やカーラジオを注意深くチェックし、カーナビや地図とにらめっこをしながら今後のルート策定――あるいは予定の変更に頭を悩ませている所だった。

 それだけ、昨日のニュースで伝えていた騒ぎが深刻化しているのだろう。大野は不安になりながら、どうにかして無事に家へ帰りつく事だけに専念するようにした。

 とりあえず、仮眠から目覚めて空いた腹を満たすため、大野はトラックを降りてサービスエリアの食堂へ向かった。券売機でラーメンの食券を買うと、混雑している店内からどうにか空いてる席を見つけて、座った。

 店内のテレビに目を向けると、平日昼でお馴染みのニュース番組が流れていた。関西のテレビ局が作っているそれには、いつものタレントの司会者がべらべらとスタジオにいる専門家と話を続けていた。いつもなら聞き流している番組であったが、大野は少しでも騒ぎの情報を集めようと、画面を注視していた。


『感染が広がった経緯としては、おそらく噛まれた事を隠した、あるいは無視して通常の生活に戻ろうとした人々が多かったのだと思われます。事態を深刻に見ず、そのまま日常生活へ戻ろうとした結果、職場や家、学校などで発症し、さらに感染を広げてしまった……と見るのが妥当です』

『そうなるとさらに感染が拡大する恐れがあると……』

『はい。首都圏のみならず、初期の感染者が主要な交通機関で日本各地に散らばっている、という可能性も排除できないのです。今は自衛隊や警察が検問を敷いて感染の拡大を阻止しようとしていますが、場合によっては関西、東北方面へ感染が広がる事も十分にありえると思われます』

『となると木村さん、この関西方面もやはり事態に備えなければならないという事ですか?』

『はい、昨日の時点では交通機関も動いていましたから、感染した人がすでに封鎖を突破してしまっている可能性があります。ただし、昨日と違って感染者に対する対応策や情報がそろっていますから、警察や自衛隊の対応次第では首都圏のようなパニックは避けられる可能性もあるわけです』

『なるほど。しかし、この場合は……』

 おっかねえな、と大野はテレビを見ながら心の中で呟いた。トラックで走ってきた限りでは、まだ関西方面は落ち着きを保っていた。しかし、テレビから流れる中継映像を見る限り、東京は大変な事になっているようだった。自衛隊も出動している。


 食堂で腹ごしらえを終え、愛車に戻る途中、大野はふと、駐車場にずらっと並んだ車を見回した。まさかな、と思いながら大野は自分の車まで歩いて戻ろうとした。

 だが、途中にあるワンボックスカーを見つけ、不意に足が止まった。パールホワイトのその車には、荷物が満載されていた。ボストンバッグ、旅行用鞄、紙袋。パッと見ると旅行者の車かと思われた。

 運転席と助手席には誰もいなかった。後部座席も無人だった。しかし、明らかな異常が、車内から見て取れた。ハンドルとシートには、べったりと血が張り付いており、ドアノブにも同じく血痕が張り付いていた。

 ふと、周囲を見回した。周りの人々は至って普通の様子で、明らかにマズい車がこの場所へ止まっている事に気がついていないようだった。もちろん、この車に乗っていたであろう人間は、どこにもいる気配がない。


 大野は急いでトラックへと乗り込み、エンジンを回した。アクセルを全開にしたくなる気持ちを抑えながら、急いでサービスエリアを後にする。仕事のことなど、頭から吹き飛んでいた。

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