12 Day 2

 緊迫した息子からの電話から1夜明け、主婦の依子は不安ながらも無事に朝を迎えていた。息子からの教え通り、その日は一歩も外へ出ずに一日を過ごしたが、夕方から救急車やパトカーのサイレンが増えてきた事以外、何も起こる事はなかった。電車の運休や遅延により、会社から帰宅できなかった夫の隆弘も無事に帰ってきた。

 意外だったのは、その日の夜に依子の娘である恵も家へ戻ってきた事だった。兄である達彦から、同じように電話を受け取った恵は、会社を休んで千葉から実家のある東京まで車を走らせて来たのだった。

 こうして、久々に家族4人のうち3人が揃うという、珍しい朝を迎えるに至った。


 朝食を食べながらも、食卓の空気は僅かに不穏になっていた。

「あなた、今日ぐらいは会社を休んでもいいでしょう?」

 依子の問いに、隆弘はうーむ、難しい表情を浮かべた。夫が勤める会社は都心部にある、首都圏の電車は運行を再開した区画もあり、出社は出来ない事も無かった。しばらくの沈黙の後、意を決したように呟いた。

「……今日は休む事にするよ、せっかく心配して恵も来てくれた事だからな。後で会社に連絡を入れておく」

「そうして頂戴」

 ほっ、と夫の決断に胸を名で下ろす依子だったが、次なる説得相手は様子を見て飛んできた娘だった。

「恵も、たまには帰ってきたのだからゆっくりしていきなさい。外は危ないって達彦も言っている事なんだし……」

「大丈夫だよお母さん、元々今日から有給取るつもりだったんだから、ちょうどいいタイミングだったし」

 娘からの気を使うような言葉に、依子は安心した。

「そうだ、そろそろ今日の朝ドラを……」

 いつもの調子に戻った夫が、机の上のリモコンを手に取った。今朝からテレビを付けていなかったので、電源を入れていつものチャンネルに設定した。

 だが、通常であれば放送されているはずのドラマは写らず、L字型のテロップが付いたニューススタジオの画面が流れ、アナウンサーが原稿を読み上げる様子が表示されているだけだった。何事か、とチャンネルを切り替えるが、どの局も同じような画面を映し出していた。


『……症状として、発熱、頭痛などの症状後、昏睡状態の後に発症すると見られています。もし近くに人からの咬傷が認められた人がいた場合は、絶対に近づかないよう、隔離を徹底してください。繰り返します、現在……』

『……不要な外出を避けてください。警視庁からの発表によりますと、これまでに死者は189名、負傷者はおよそ1000人以上に上ると見られ、負傷者全てに感染の疑いがあるとした上で……』

『……線は運行を停止しており、各公共交通機関も相次いで運行を停止しています。また、首都圏では各教育機関の休校が相次ぎ……』


 気が気でないニュースの数々に、依子は警視庁に勤務している息子の事を思わず案じていた。どうか、無事でいますように。

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