第4話 俺はレベル上げをするぞ!

「レベルが上がった……ってどういうことだ!?」


 ――あれ、私のレベル……上がってる?

 とのアニスの発言に対し。

 その手のワードに敏感になっていた俺は大声を発し、彼女の下に駆け寄ろうとする。

 と、突然過ぎて驚かせてしまったらしく、アニスが怯えるような目でこちらを見てきたので、俺は途中で自制して足を止めた。


「うわっ、これは事案ですよ事案。突然奇声をあげ、エルフの少女に駆け寄る不審な男として通報されちゃいますよユッキー」 


「お前はどこの世界の話をしてるんだ!」


「もちろん、ユッキーが元いた世界の話です。元ネタが分からないとボケとして面白くないでしょ? あ、でもユッキーのいた世界にはエルフなんていませんでしたね」


「お前なあ……」


 背後からおちょくるような声をかけてくるミル。

 俺はうんざりしながら文句を言いかけて、やめた。

 こいつはもうこういう奴だ。諦めて、本題に入ろう。


「……いや、まあいい。それよりも、だ。アニス、さっきレベルが上がったって言ってたよな?」


「はい。何となくステータスを眺めていたら、どういうわけかレベルが5も上がっていて……」


 俺が問いかけると、アニスは戸惑いながら答えた。きっと、自分自身に起きた事態が把握出来ていないんだろう。

 しかし、俺の常識……より正確に言えば、ゲーム脳の持ち主である俺の常識で語るならば、どうしてレベルが上がったのか仮説が浮かんでくる。

 ではその説が正しいのか、答え合わせをしようと視線を向けると、ミルはこくりと頷いてから話し始めた。


「恐らくはユッキーが想像している通りなんですけど……レベルが上がったのは、モーグランとの戦闘のおかげですね」


「えっ……レベルアップに必要な経験値を得るためには、モンスターと戦うだけじゃなくて倒さないとだめなんですよね?」


 概ね予想通りだったミルの言葉に、アニスが疑問を呈する。

 と、ミルは不思議そうに首を傾げた。


「はい。だから倒したじゃないですか」


「でもそれは、そちらの……ユッキーさん? がやったことじゃないですか」


「まあそうなんですけど……あ、もしかして」


 何か閃いたとばかりに、ミルはぽんと手を打ち鳴らしてから、


「さてはアニスさん、今まで単独でしかモンスターと戦った経験がないのでは?」


「……? 確かに私には、一緒に戦ってくれるような人なんていませんけど……」


「やっぱりですか。実はですね……パーティを組んで戦えば、経験値は倒した本人だけじゃなくて、戦闘に参加したメンバー全員に行き渡るようになってるんですよ。総量は変わらなくて、人数で割って均等に分配されちゃうんですけどね。ただ、それでも集団でモンスターを倒した方が効率がいい場合が殆どなので、冒険者なんかはやたらとパーティを組みたがるわけです」


 ゲームでは最早お馴染みの設定というか仕様に関して今更言及するミルに対し、アニスは驚いた様子を見せた。


「そうだったんですか……私てっきり、皆で一緒に行動した方が安全だからだと思ってました」


「ま、そういう側面もあるというのは否定しませんけどね」


 俺と話す時とは違い、優しい態度でアニスに応対するミル。

 その違いに納得いかないものを感じつつも。

 俺はひと段落付いたと見て、二人の会話を聞いている最中に浮かんできた考えを口にすることにした。


「おいミル、俺は決めたぞ」


「なんですか改まって。プロポーズならお断りですよ?」


「なわけねえだろ! つーかその言い草だと、まるで俺がお前に好意を抱いてるみたいじゃないか」


「あれ? いきなり襲い掛かってくるくらいには私の虜だと思ってたんですが」


 否定する俺に対し、ミルは心底意外そうに首を傾げる。

 もう少し性格がよければ可能性があったかもな、とは気を悪くするどころか調子に乗り始めそうなので言わないでおく。

 代わりに俺は、確たる意志を持って、告げた。


「俺はレベリングをするぞ!」


 どん、と決め顔を作る俺。しかしミルは胡散臭いものを見る目を向けてきた。


「何を言い出すかと思えば……色々と溜め込み過ぎてとうとう頭がおかしくなっちゃったんですか、ユッキー」


「俺のレベルがカンストしててもう上がらないって話なら、重々承知だ」


「だったら……」


「だから代わりに、俺はアニスのレベルを上げる!」


「……はい?」


 俺の宣言に、ミルは眉を顰めた。相変わらずの、不審者扱いだった。

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