第31話 もふもふしたがりの自称清純派天使
リナリアが猫化して、なんだかんだで一緒に寝ることになり、悶々としながらもどうにか眠りについた俺だったが。
頭を小突かれるような感触を受けて、その眠りは妨げられた。
今度はなんだと心の中だけで愚痴りながら、ゆっくり目を開けると。
そこには、こちらをジト目で見下ろしてしゃがみこむ、ミルがいた。
日中はいつも白のワンピースを着用しているミルだが、今は同じ色のパジャマ姿だ。
どちらも、モンスターがいつ襲い掛かってくるか分からないダンジョンで着るには不向きな服装だが、本人なりにこだわりがあるらしい。
前者は「清純派の天使っぽいから」という中身は清純なんてワードとはかけ離れた存在なのに外見だけ取り繕いたいがためのものであり。
後者は単純にパジャマじゃないと気持ちよく眠れないから、とのことだ。
「やれやれ。リナリアちゃんを無理やり寝袋に連れ込んで……いよいよ本格的に性犯罪者の仲間入りですか」
寝起きの頭でなんとなくミルを眺めていたら、いつものごとく性犯罪者扱いされた。
「待て、お前は何か勘違いをしている」
「なるほど、被疑者は取り調べに対し容疑を否認、と」
「否認とかそれ以前に、そもそもどんな容疑か聞いてないんだが」
ツッコむ俺に対しミルは聞く耳を持つことなく、げしげしと人差し指で俺の頭を小突いてきた。
「この期に及んでしらばっくれるとは……見苦しいですよユッキー。取り調べで非協力的な姿勢を取れば当然、心証は悪くなります。そんなんじゃカツ丼も出てきませんから覚悟してください」
「だから、人がまだ寝袋に収まってる内から尋問を始めるなっての」
よく分からないノリで絡んでくるミルの取り調べごっこを、俺はそう言って遮る。
ミルはつまらなそうにため息をついてから、胡散臭そうにこちらを見て。
「とりあえず、これ以上リナリアちゃんが汚れる前に寝袋から出てください」
「俺は道端のゴミか何かか?」
「おや、自覚があったんですか。正直ちょっと意外です」
素でちょっと驚いた顔をされた。
「ったく……」
対する俺は、軽く愚痴を言いたい気分になりながらも、大人しく従うことにした。
別に俺だって、望んでこうしているわけじゃない。あくまで成り行き上仕方なく、だ。
……じゃあ嫌なのかと言えば、また別の話なんだが。
ともあれ俺は、リナリアを起こさないよう注意を払いながら、寝袋から這い出た。
「まったく、このもふもふを独り占めしてたとかうらやま……けしからんですよ」
「俺はミルと違って変態じゃないから、しつこく抱き着いたりはしないけどな」
穏やかな寝息を立てて眠るリナリアの猫耳をじっと眺めながら本音を漏らしかけるミルに、俺はそう言い返す。
リナリアが危惧していた通り、こいつに同衾を頼まなくて正解だったかもしれない……と俺が呆れていると。
「ふん、今更真面目ぶったところで手遅れですよ。ユッキーには、私に何度も襲い掛かろうとした前科があるじゃないですか。こういうのは一度やったら何度も繰り返してしまう、なんて話も聞きますからね……」
などと、俺のことを鼻で笑うミルは。
さりげなく、俺と入れ替わるような形でリナリアと同じ寝袋に入ろうとしていた。
「おい」
俺はすかさず、ミルの腕を掴んで止める。
「邪魔しないでください! ユッキーはそこで大人しく、己の罪を反省していればいいんです」
「この状況だとむしろお前の方が犯罪者っぽいぞ。第一、リナリアはこうなることを警戒して、お前と一緒に寝るのは乗り気じゃなかったんだ。ここは本人の意志を尊重するべきだろ」
「そんなはずありません。私とリナリアちゃんは相思相愛です。私がもふもふしたいといったら、快く応じてくれるに決まってます!」
「その決めつけてかかる思考は完全にアウトだぞ……!」
レベル9999のパワーに物を言わせ、俺を引き剥がしにかかるミル。
レベル300の俺は、どうにか食い下がり、引き止めようとするが、流石に本気を出されるときつい。
いよいよ限界か、と思われたその時。
「うにゃ……」
俺たちの声がうるさかったのだろうか。
眠っていたリナリアが、煩わしそうに顔をしかめながら、うめくような寝言を呟いた。
それに反応して、ミルの動きがぴたりと止まる。
直後。
「おお! 今『うにゃ』って言いましたよユッキー! この子完全に猫です!」
目を輝かせて興奮したミルが、ずいっとこっちに身を寄せてきた。
俺の両肩に手を置いて、激しく揺さぶってくる。
「事情は説明してやるから、もう少し静かにしろ!」
この騒ぎでリナリアが目覚めてしまい、まだ猫化したままだったりしたら、その時はいよいよ収拾がつかなくなる。
俺はミルをなだめて、先程のリナリアとの出来事について説明することにした。
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