レベリング廃人なのにカンスト状態で転生したから、代わりに美少女育成します
りんどー
第1話 レベル300の絶望
「おめでとう! 貴方は異世界に転生しました!」
目の前に立つ金髪ロングの白人っぽい少女が、満面の笑みで景気よく、そんなことを告げてきた。
唐突過ぎて、意味が分からない。
……つーかここどこだよ。どうして俺は、森の中にいるんだ。
ここ数年、自宅から出た覚えなんてないのに。
新卒で入った会社を三日でバックレて以来、俺はずっとニートなのだ。おまけにネトゲ廃人でもあるので、自室からもたまにしか出ないし。
そんな根っからの引き籠もり体質である俺が、何故か野外の見覚えのない場所にいて、白づくめのワンピースを着た少女と対峙している。
正直かなりかわいい部類に入るし、服装も清楚と言えば聞こえはいいけど……。この状況だとちょっぴり不気味に感じる。変な宗教の一員っぽく見えるというか。
その手の団体の怪しい儀式に巻き込まれたと考えたら、まだ納得出来てしまうし。
……仮にそうだとしたら、俺は拉致されたんだろうか。生きて帰れなかったりするとかは、流石に勘弁だ。
「頼む、どうか命だけは……!」
「いや別に、危害を加えるつもりなんてないですよ? と言うかむしろ……一度目の人生を終えて、新たな一歩を踏み出そうとする貴方をサポートするのが、私の使命なんですから。えっと……
すかさず命乞いする俺に、柔らかい表情で接してくる白装束の少女。
どうやら名前までリサーチ済みらしい。にしても、三途の川に行く男って。相変わらず三秒で死にそうな名前してるな、俺。
……あれ、死にそうと言えばこの子。転生とか一度目の人生を終えてとか、物騒なワードを口にしていたような。
俺が嫌な予感を抱く中、少女は何かを察したように同情的な視線を向けてきた。
「残念ながら……貴方は一度、死にました」
「……は? いやいや、あり得ないだろ。俺はずっと、家でゲームしてただけなんだぞ? ある日突然事故とか事件に巻き込まれたり……なんてトンデモイベントとは、無縁な存在の筈だ」
「確かに、死因は事故や事件ではありません」
「じゃあなんだって言うんだ」
質の悪い冗談か新手の洗脳だろうと決めつけて反抗的な態度を取る俺に対し、少女はあくまで冷静に答えた。
「その……家でゲームしてただけだったことこそが死因と言いますか」
「はあ……?」
「有り体に言えば、衰弱死ですね。貴方、ネトゲに熱中し過ぎでろくに食事も睡眠も取ってなかったそうじゃないですか」
「あっ」
確かに、ニートと化しネトゲ……特にレベル制のMMORPGにのめり込むようになってからは、不規則な生活を送っていた。
期間限定のイベントなんかがあれば、何日も休まずパソコンの前に張り付きっぱなしなんてのもザラだった。
最近では、やり込んでいたタイトルで期間限定経験値2倍キャンペーンなるものが開催されていたので、一つのアカウントで八体まで作成出来るキャラクター全てのレベルをカンストさせようと躍起になっていたのだ。
何故、そこまでやるかと言えば。
俺が、ネトゲに数あるやり込み要素の中でも専らレベリングに関する廃人だからだ。
それこそ、今まで稼いだ経験値総量なら誰にも負けないと自負する程の。
一つのゲーム、一つのアカウントにおける限界までキャラクターを作成し、キャラ自身や職業ごとのレベルなどをすべて上げ尽したら別のゲームに乗り換える……なんて他人が聞いたらびっくりするかもしれないプレイスタイルすら、俺にとっては日常茶飯事だ。
そんなレベリングのプロとでも言って差し支えない俺ですら、期間内に目標を達成しようと思ったら相当頑張る必要があるため、四六時中効率のいい狩場に籠っていたのだが。
……最後に休憩を取ったのは、いつだったろうか。
死因について心当たりを思い浮かべる俺に対し、少女はやれやれと首を振って、
「一週間不眠不休でネトゲって、そりゃ死にますよ。そんなに楽しかったですか?」
「いやまあ……死ぬほど楽しかったけど?」
「ホントに死んでちゃ世話ないです。馬鹿ですか貴方」
もっともな指摘を受けて俺が肩を落としていると、少女はその肩に手を置いてきた。
「でもご安心を! 悪運の強い貴方は、こうしてやり直しのチャンスを手に入れたのです!」
「やり直しのチャンス……? そういや異世界に転生とか言ってたが……もしかしてあれは妄言じゃなかったのか」
「妄言とは失礼ですね! 神の使いとして天界から遥々派遣されてきたこの私が、第二の人生をお手伝いしてあげようっていうのに」
「神の使い……ってことは天使なのか?」
頭に輪っかとか、背中に翼なんて分かりやすいトレードマークはないけど……なんて思いながら俺が問いかけると、
「はい、ミルと言います! まだまだ下級で無名な天使ですが……貴方、行男さんの活躍次第では、出世だって可能なんです!」
「出世って、何の話だ」
「えっとですね……私たち天使には、行男さんのように一度死んで異世界に転生した人を、分担してサポートするお仕事があるんです。今まで生きてきた世界とは全く異なる環境に放り出して、後は頑張ってね……では色々と困っちゃいますからね、転生者の方も」
「なるほど、そりゃ確かにその通りだ」
「はい、アフターサービスも充実ってわけなんですが……仕事となれば業績が重視されるわけでして。私たち天使にとってその業績っていうのが、担当した転生者が異世界でどれだけ徳を積んだかによって左右されるわけです」
「徳を積む……って具体的には?」
「王道は世界を救ったりとかですかね、やっぱり。その他にも偉業を成したり、主人公っぽいことをしてもらえばもーまんたいです」
「雑すぎるだろ! そんな大事を成し遂げるなんてネトゲしてただけのニートには無理難題……悪いがミルには当分窓際部署の平社員でいてもらうことになるな」
「いえいえ、生前の行男さん……って言い方まどろっこしいんでユッキーでいいですか、ユッキー?」
「天使の癖に馴れ馴れしい上にもう勝手に呼んでんじゃねーか!」
つい大声で突っ込んでしまう俺だが、ミルの方は意に介していない様子だ。
「ともあれ……生前のユッキーの能力については、大した問題ではありません。転生者は基本的に、それなりに高スペックな存在として生まれ変わりますからね」
「それなりって、世界を救えちゃうくらいにってことか?」
「いや、そこまでの当たりを引けるかは運次第ですけど。私としては、ユッキーが外れ案件じゃないことを祈るばかりです」
「サポートどころか喧嘩売りに来たんじゃないか、お前」
物凄く自然な感じで本音を漏らされて、最早突っ込む気力すら失せる俺。
もしかして、俺の方こそはずれのサポート役を引かされてるんじゃ……と疑念を抱いていると、ミルはぶんぶんと首を横に振った。
「いやですねー、そんなわけないじゃないですか。あ、ちなみに見た目は割と高スペックに生まれ変わってますよ、ユッキー」
そんなことを宣いながら、ミルはどこからともなく手鏡を取り出すと、こちらに差し出してきた。俺はそれを受け取って、自分の顔を確認する。
と、そこには、ダンディで彫りが深いタイプの、顔面偏差値で言えば六十ちょっとはありそうな白人っぽい男の顔があった。かつての俺と比べたら、偏差値が二十は上がっている。
体格についても、冒険者風の身軽そうな服の上からでも分かる程度にはガッチリしている。ニートでだらしない腹を晒していた頃とは大違いだ。
これはすごい。
ぶっちゃけ今までは異世界転生したと言われてもぴんと来ていなかったが、ここまで様変わりした自分を目の当たりにしてはもう疑う余地はない。
年齢が赤ちゃんからやり直しではなく、初めから生前と同年代程度になっているのは、その方が何かと都合がいいからだろう。あらゆる人にとって。
などと、俺が生まれ変わったことを実感していると、
「でもどちらかと言えば、同性に受けそうな見た目ですね」
「人がちょっといい気分になってる時に余計なこと言わないでくれ!」
「おっと失礼。ただ肝心なのは、外見よりもステータスですよステータス!」
「ステー、タス……?」
ネトゲ廃人だった俺にとってはお馴染みであるその単語。しかしこの場で持ち出すには、いささか場違いな気が……いや待て。
「もしかして、あれか。ここは、その手のゲーム的な概念がちゃっかり存在してる系の異世界だったりするのか!」
レベリング廃人の俺としては、最高の展開だ。
期待の眼差しで見つめると、ミルはそれに応えるように頷いた。
「いかにも! ささ、早速確認してみましょ」
「確認って、どうやって」
「手で虚空に四角い窓を描くような仕草をしたら確認できる筈です。一応本人にしか見れない代物なんですが、私は天使なので他人のも見れちゃったりします」
俺ははやる気持ちを抑えながら、言われた通りの仕草を実行する。
すると俺の前に、ステータスウィンドウとでも呼称すべき画面のようなものが表示された。
転生者は割と高スペックに生まれ変わる……ってことは、恐らく基礎的な数値は優遇されているんだろう。
けど生まれ変わったばかりだし、レベルは低い筈。下手したら、1なんてこともあり得る。
が、俺にとってそれは悲観すべき事態ではなく、むしろその逆。喜ばしいことだ。レベルが低ければ低い分だけ、長くレベリングを楽しめるのだから。
そんな思いを胸に、わくわくしながら俺がステータスウィンドウを覗き込むと。
そこには、とんでもない数値が記載されていた。
名前:三途川行男
種族:人間(MAXLv300)
Lv:300
HP:15891
MP:3244
STR:9079
VIT:8512
AGI:9103
INT:8946
「な、なあミル……? ここに書いてある数値、妙に高いような気がするんだが……」
「これは……大当たりも大当たりじゃないですか、最初から最大レベルって! 普通の生き方してたら、そもそもレベル三桁どころか30にも届かないのに。いや、貴方すごすぎますよユッキー……これなら世界の二つや三つ、余裕で救えちゃいます! 私も一足飛びで大天使に昇進、やっふー!」
興奮してぴょんぴょん飛び跳ねるミル。
対照的に、俺は絶望し、その場に崩れ落ちていた。
「最初から最大レベル……つまりカンスト……もう上がらない……」
「何ぶつぶつ言ってるんですか。ほらユッキーも一緒に飛び跳ねて喜びましょう! 今日は記念すべき日なんですよ?」
「なーにが記念だ! これのどこが喜べる!? レベルカンストしちまってるんだぞ!?」
「……? いいじゃないですか、カンスト。強くてニューゲームってやつです。何一つ不自由することなく、いきなり人間最強としてこの世界に君臨出来るんですよ?」
不満を爆発させる俺に対し、訝しげな視線を投げかけてくるミル。
駄目だ、何も分かっちゃいない。
「レベリングが! 出来ないだろうが!」
「うん? 出来ないというより、必要ないと表現する方が正確な気がするんですけど」
「レベリングが……必要ない、だと?」
聞き捨てならない言葉に俺が語気を強めると、ミルはびくりと肩を震わせた。
「ひっ、なんなんですか急に……」
戸惑っているようだが構うものか。これは俺にとって、最重要事項だ。
「低レベルの時、一回の戦闘でさくさくレベルが上がる爽快感! レベルの数値的には折り返し地点まで上げたのに、経験値総量で見ればまだ三割にも満たないと知った時の絶望感! カンスト目前の高レベル帯になった時の、朝から晩までやって1レベル上がるか上がらないかのちまちま感! お前は俺から、それらの楽しみを奪うのか!」
「私に言われても知らないですよ……それ以前に、いくら楽しいからってやり過ぎで死んじゃダメでしょ。最初からカンスト状態ってことは、今度はその危険を回避出来るってことなんですから、もうちょっと前向きに捉えても――」
「本望だ!」
おずおずと諭そうとするミルの発言に対し、俺は食い気味に叫ぶ。
するとミルは弱々しく目に涙を浮かべて、
「もうなんなんですかこの人、病気ですよ病気……せっかくステータスは大当たりなのに、性格は外れを通り越して地雷じゃないですか……」
ぶつぶつと力なく呟いた。潤んだ目で、怯えるような視線を向けられる。
俺はそこでやっと、自分がやり過ぎたことに気付いた。反省して、謝罪を口にする。
「あー……すまなかった。あまりの衝撃に取り乱して、ついきつく当たってしまった」
「……つい、で女の子に当たる男とか最低ですよ」
「ぐっ……それについては、深く反省してる」
胸に突き刺さる言葉に、俺は苦い顔をする。
ミルは目に溜まった水滴を拭いながら、
「じゃあ……私が大天使になるために、世界救ったりとかして徳を積んでくれますか?」
「それとこれとは話が別だ」
「ちっ、泣き落としは通じませんか」
「嘘泣きだったのかよ!?」
「いえ、割とガチでしたよ? 先程のユッキーの豹変ぶりはちょっとびっくりするものがありました」
あっさり立ち直ったミルにしれっと言われ、俺は自分を見つめ直したい気分に陥る。
が、俺のレベリング至上主義は間違っていない筈だ。
悪いのはレベリング出来ない状態で俺を転生させたこの世界とか、神様とかの方に違いないと結論付けた上で、俺は諦めずに食い下がることにした。
「ところで、レベル下げたりリセットしたりする方法はないのか? 転生とか転職的なやり込み要素は?」
「あるわけないじゃないですか、そんなゲーム的要素」
「ステータスとかレベルとか、モロゲーム的じゃねーか! なんでそこだけ現実的なんだよ!」
「また威勢がよくなりましたね。ユッキーのいた世界にとっての常識が、この世界の常識とは限りません。自分の尺度からしか物事を語れない男は、女の子にモテませんよ?」
「余計なお世話だ! こっちだって女にモテたくてレベル上げてるわけじゃねーんだよ!」
「うわっ。なんかその発言、人として割と終わりかけてますね。まあ一回終わってるからここにいるんですけど」
ミルにドン引きされるが、それはこの場においては些末時に過ぎない。
問題はやはり、初めからカンストしてしまっている俺は、どう足掻いてもレベリングが出来ないことだ。
「はあ……俺はどうしたらいいんだ……」
「だからあの、手にした才能を生かして、何かビッグなことをしましょ? それで私を出世させてください」
「ミルもミルで、お助けキャラ気取りの癖に我欲丸出しだし……俺の異世界生活には、一筋の希望すらないのか?」
「失礼な物言いはひとまず見逃すとして……ユッキーにとってレベルが上がらないのって、そこまでのことなんですか」
「そこまでのことなんだよ……」
そう言えば、生前にレベリング中だったキャラは、俺が死んだ今どうなってるんだろうな……と最早懐かしくなってしまった日々を思い返しながら、俺はうな垂れるのであった。
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