エピローグ2 大事なもの
起床後、俺とミルは服を着て寝室から居間へと移動した。
テーブルに向かい合って座り、遅すぎる朝食……というよりは昼食を済ませ、現在は一息ついている。
「そう言えば、さっきポストを確認したらリナリアちゃんから手紙が届いてましたよ」
「リナリアか……しばらく会ってないが、そろそろ試験の結果も出た頃かな」
ミルから差し出された手紙を、俺はコーヒーを飲みながら受け取って封を開けた。
二人でその手紙を読んでいくと、挨拶から始まり、リナリアがロンドラルを立つ前日に開かれた俺たちの結婚式について触れていた。
俺がミルにプロポーズをした、二週間前。
図らずも街のど真ん中で白昼堂々と告白した結果、要らぬ注目を集めてしまった。
おかげで変に盛り上がったご近所さんが集まってきて、元ニートには似つかわしくないほど賑やかな結婚式を、そこそこの規模で開くことになったのだ。
根っからの日陰者である俺としてはあまり目立ちたくなかったのだが、ミルは満更でもなさそうだったので、まあやった甲斐があったかもしれない。
リナリアはそんな結婚式で俺たち以上に喜び、祝ってくれた。
翌日にはロンドラルを立ち、王都へ向かったのだが……あれからどうなったんだろうか。
「おお。リナリアちゃん、見事に試験を勝ち抜いたみたいですね」
「幼馴染の女勇者と仲間になって、もうすぐ魔王を倒す旅に出る……か」
どうやら、万事上手くいっているようだ。
吉報ばかり書いてあるし、文面からリナリアが楽しく充実した日々を送っているのが伝わってくる。
これもレベリングをしたおかげだとしたら、俺としても喜ばしい限りだ。
「いいですねえ、私もリナリアちゃんをもふもふしながら一緒に旅をしてみたいです」
「だったらその前に、レベルをしっかり上げる必要があるな」
「……やっぱり旅はやめときます」
手紙を読んでほっこりしていたミルだったが、俺の指摘を受けると気まずそうに目を逸らした。
「ミル……もしかしてお前、レベリングしたくないのか……?」
「別に嫌というわけではないです……だ、だからそんなに悲しそうな顔しないでください! ええい、面倒くさいですね!」
俺が落ち込みながら肩を揺さぶると、ミルは罪悪感と煩わしさの入り混じったような反応を返してきた。
何にせよ、嫌ではないと言うのなら。
「よし、今日こそはレベリングに行こう!」
「ちょ、ちょっとユッキー……近いですよ」
俺がテーブルに身を乗り出して顔を近づけると、ミルは照れくさそうに視線を右往左往させるが、構わず続ける。
「そろそろレベル100には到達してる予定だったのに……まだ23って、大幅に遅れてるからな」
「まあ、基本的に家でだらだらしてましたからねえ……」
ほんのり頬を赤く染めたまま、ミルは会話に応じる。
「いつまでも堕落した生活を送ってるわけにはいかないし、一刻も早く美味しい狩場に案内してくれ!」
俺が元ニートらしからぬことを言いながらテーブルを叩いて催促すると、ミルは渋々といった様子で頷いて。
「しょうがないですねえ……では、この街の北にある山の麓に行きましょうか。生きのいいキノコ型モンスターが大量に湧く穴場があるんです」
「おお! じゃあすぐに支度をして……」
ミルの話を聞き、意気揚々と立ち上がろうとした俺だったが。
「……待てよ?」
ふと、あることに気がついた。
「その場所、新聞で見た覚えがあるぞ」
「うっ……」
「なんでも最近温泉が湧き出てきたとかで、新たな観光名所になりつつあるって……」
「へ、へえ……偶然ですねえ」
誤魔化そうとしているミルだが、動揺が全く隠せていない。
「お前、また狩場に案内するフリして遊びに行こうとしてないか?」
俺がそう言って、まっすぐとミルの瞳を見据えると。
「ええそうですよ! なんか文句ありますか!」
ミルは開き直った。
「第一……ユッキーはこんなにかわいらしい新妻がいるというのに、一緒にお出かけしたいとは思わないんですか!」
「で、でも、レベルが低いと何かと不便じゃないか?」
威勢のいい主張に対し、俺はやや気圧されながらも反論するが、ミルは頑として首を横に振った。
「今のレベルでも家事は卒なくこなせるので、主婦としては問題ありません」
「魔王倒したり……とかはいいのか? 前はあんなに魔王倒せ、悪魔殺せって騒いでたじゃないか」
「もう興味ないです。今の私は楽しく新婚生活を過ごせればそれでいいんですから」
ミルは急に、ツンツンとした気配を醸し出しながら言い返してきたと思ったら。
「とにかく、私はもっとユッキーとデートしたいんです!」
顔を赤くしながら立ち上がって、そんないじらしい宣言をした。
……ここまで言われたら、流石に断れないか。
「よし……今日は温泉に行くか」
「ふふっ、ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが……明日こそは、ユッキーのレベリングに好きなだけ付き合ってあげますからね。さあ、感謝してくれてもいいんですよ?」
最初は感謝していたはずなのに、ミルはなぜか途中からドヤ顔で胸を張って逆にお礼を求めてきた。
自己主張の激しいめちゃくちゃな口ぶりは相変わらずだが……ちゃんと俺のやりたいことにも付き合ってくれると言っている辺り、随分丸くなった、という見方もできるかもしれない。
これも、結婚した影響だろうか。
そう思うと、このドヤ顔もかわいらしく見えてきた……なんて思考が頭をよぎったところで、俺は気づいた。
……どうやら俺にも、二度の人生を捧げてきたレベリングと同等かそれ以上に、大事なものができたらしい。
「はいはい、ありがとな」
俺は得意げにしているミルの頭を撫でながら、小さく笑うのだった。
レベリング廃人なのにカンスト状態で転生したから、代わりに美少女育成します りんどー @rindo2go
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