第28話 いつもの仕返しをしたいけどやっぱり勝てない
焚火に照らされ姿を現したのは、たてがみが映える獅子の頭に、亀の身体と甲羅という奇妙な外見をした、巨大で恐ろしいモンスター……とかではなくて。
いや、外見的特徴については、大体今言った通りなんだけど。
サイズが子猫程度しかないため、まったく恐ろしくはなかった。
「……なんだこの踏んだら潰れそうなやつは」
「た、確かに思ってたのとはちょっと違ったけど……これはこれでかわいいからいいかも?」
俺が拍子抜けする一方、リナリアはそんなことを言って、恐る恐るながらも謎のモンスターに近づいていく。
その傍ら、俺はミルに疑問をぶつけた。
「なあ、こいつは一体何なんだ?」
「カメレオンですね」
「……カメレオン?」
ミルから返ってきた答えに、俺は思わず二度聞きする。
「カメレオンって言えば、様々な色に擬態できるトカゲっぽい爬虫類のはずなんだが。まさか俺がニートとして引きこもっている間に、外の世界では常識が塗り替えられてたりしたのか?」
「ユッキーがニートで非常識だというのは当たり前の常識ですが、そのカメレオンとこの世界のカメレオンはちょっと違います」
言うまでもないと言いつつはっきり口にして俺を罵りつつ、そう説明するミル。
相変わらず口の減らない奴だが、そこは一旦置いておくとして。
「まさか、亀の身体にライオンの頭だからカメレオンとかいう安直なネーミングか?」
「ええ、その通りです。亀の頭だったらもっと面白い生き物になったんですけどね」
などと、しょうもないことを清々しい笑顔で口走るミル。
「……」
これが人を性獣呼ばわりする天使だというのだから、世も末である。
どっちが性獣なんだって話だ。
痛い目に遭いたくないから、そこは口に出さないけど。
「それより……あのちっこいモンスターが結界を破った犯人なんだよな? だとしたら、お前の結界どんだけ頼りないんだって話になるんだが」
俺はそう言って、ミルにジト目を向ける。
ここ最近のダンジョン生活において、あんな一蹴りで倒せそうな珍獣ごときに破られる結界に命を預けて寝ていたとか、軽くホラーだ。
「し、失礼な……! そもそも、カメレオンはただのちっこいモンスターではありません。あんなのでも悪魔なんです、しかも結界破りと擬態化の特殊能力まで持ってるんですから」
「そうは言っても、どうせ下級の悪魔とかなんだろ?」
「うっ、それはですね……」
この反応、図星のようだ。
いつも散々言いたい放題されている分、こうして狼狽えている姿を見るのはなんだか気分が良い。
そう思ったら、もう少しいじめてやりたくなってきた。
「あ、でもミルも自分のことを下級の天使とか言ってたし、下級の悪魔に結界破られるのも妥当なのかもな」
「ななっ……! あんなミニ珍獣と同レベル扱いしないでください! 確かに私は天使としては下級ですが、悪魔はもっとその下。私の遥か足元にも及ばないんですから」
俺が胡散臭いものを見る目を向ける中、ムキになって反論するミルだが。
「と言うか、悪魔の気配がどうとか話してたのってこれのことなんだよな。これが禍々しいって……お前ビビり過ぎじゃね?」
「そんなはずは……さっき感じたのは、もっと粘っこい気配でした。お風呂上がりに薄着で歩いている私をじろじろ見てくるユッキーの視線のような厭らしさ、と言ってもいいかもしれません」
「……そ、そんな事実はないから、お前が感じたのも気のせいってことだな!」
一瞬の隙を突いて攻勢に転じるミルに対し、俺はたまらず目を逸らしてこの話をなかったことにしようとする。
と、自分が優勢になったことを悟ったのか、ミルがにやりと笑った。
俺に対し更なる追い打ちの言葉を浴びせようと、口を開きかけたその時。
「ねえねえ、二人もこっちに来てこの子と遊ぼうよー!」
リナリアが、楽しそうな声で呼びかけてきた。
見れば、カメレオンの前にしゃがみこみ、棒で突いたり餌をあげたりして戯れている。
一応悪魔であるらしいカメレオンの方も、特に攻撃的な姿勢を見せたりすることはなく、むしろ満更でもなさそうだ。
あれじゃあ完全に、ただの小動物にしか見えない。
「リナリアちゃん、それも一応悪魔ですからね? そんな棒切れではなく、ひと思いに腰の剣を突き刺しちゃってください」
「かわいがってる珍獣を殺せとか、お前の方がよっぽど悪魔じみてる気がするんだが」
「ユッキーの言うことは無視してください。ちゃんと駆除したらご褒美にもふもふを撫で回してあげますから、さあ」
げしっと俺の脛に軽く蹴りを入れながら容赦のないことを言いつつ、欲望を露わにしていくミル。
対するリナリアは、苦笑いをしながら。
「うーん、そのご褒美は遠慮したいかな……それ以前に、この子がかわいそうだし」
リナリアはそう言うと、優しげな表情を浮かべてカメレオンを見下ろした。
ライオン……ではなく最早猫に近い顔つきに、立派なたてがみを生やしたその珍獣の頭を、リナリアは撫でる。
と、次の瞬間。
リナリアの姿が、まるで幽霊かのようにその場から消えた。
「……は?」
俺は状況が理解できずに、間抜けな声を漏らした。
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