第33話 天使と珍獣
「そろそろあの子に名前をつけてあげたいけど……ミルっちは何かアイデアある?」
「名前ですか? そんな贅沢なもの、あの畜生には必要ない気がしますけど」
翌日。
俺たちは引き続き、ダンジョン十五階層を探索していた。
懐いたかと思ったら気ままに先頭を歩く小さい悪魔……カメレオンを見守るリナリアに、ミルは乗り気ではなさそうな感じで応じる。
「強いて言うなら、『ゴミ』とかはどうでしょうか。あとは『クズ』『カス』などもお似合いかもしれません」
「う、うーん……やっぱり私が自分で考えようかな」
天使の性か、悪魔を毛嫌いするミルが、名前にするにはあんまりなワードを連発するのに対し、リナリアは苦笑いする。
俺はその傍らで、昨晩の出来事はなんだったのかと思い返していた。
昨晩。
焚火の前でミルが寝落ちした後。
肩を枕代わりにされて動けずにいた俺もまた、結局はその場で寝てしまった……のだが。
朝目覚めた時には、ミルは隣から消えていた。
そして、俺の肩にはご丁寧に毛布が掛けられていたのが、その件についてミルに聞いても、何の話だとはぐらかされてしまった。
それどころか、ミルは朝からずっと、そもそも何事もなかったかのように、平然と振る舞っている。
酔い潰れたせいで昨晩の記憶がない、とかなんだろうか。その割には、二日酔いしている気配は全くないけど。
まさかあれは、俺の夢だったとでも言うんだろうか。
……なんか、微妙にもやもやする。
「それにしても……やはりまだ、胡散臭い悪魔の気配が消えていない気がします」
「……お前、本当に中二病こじらせたのか? どうせそこの珍獣の気配だろ」
こっちの気を知ってか知らずか、昨日から同じことを言っているミルを、俺はつい適当にあしらう。
「そんなはずありません。あんな小物ではなく、もっと鬱陶しい感じが……」
すると、ミルは食い下がってきたが。
言い終わる前に、モンスターが前方から現れた。
コモドドラゴンを二回りほど大きくしたような、巨大なトカゲ型モンスターだ。
「うわっ、大きい……」
「流石は未踏領域、って感じだな」
感嘆しながらもしっかり剣の柄に手をかけるリナリアに同意しながら、俺は身構える。
そんな中、先頭を行っていたカメレオンは亀の図体にしては機敏な動きで後ろに下がってきて、器用にもミルの肩に飛び乗った。
「ななっ……この悪魔、私の肩に土足で!」
それに対し、ミルは憤慨するが。
「おお、ミルっち懐かれてるねえ。戦ってる間、その子のことよろしく!」
「む、む……しょうがないですね」
リナリアから無邪気な笑顔で頼まれてしまい、渋々といった様子ながらも了承した。
程なくして、俺とリナリアは連携して大トカゲを倒したが。
その直後にも他のモンスターが続々と現れ、結局長時間の連戦となった。
「なんだか、さっきからモンスターがやけに多くないかな?」
「普通に考えたら、より強力なモンスターが生息している階層までダンジョンを上がってきたからなんだろうが……」
モンスターの波が収まって一息つくリナリアに応じながら、俺は考える。
ギルドから伝えられていたモンスター異常発生の件を鑑みると、先程からの苛烈な攻勢は少し引っかかる。
結局まだ、原因は判明していないし。
……これは、あいつが言っていることも、あながち的外れではないのかもしれない。
と思いながら、ミルの方を振り返ると。
「ええい、悪魔の分際で私に鼻を擦りつけてくるとか、不敬にも程があります……! あ、こら! 私の髪にまとわりつかないでください!」
肩に乗ったカメレオンに鼻で頬を小突かれたり、髪に絡み付かれたりしながら、逆に指で突きまわしたりしていた。
……なんか普通にじゃれ合っているっぽいというか、案外仲が良さそうに見える。
「み、見てないでこの珍獣をなんとかしてください!」
生温かい目で見守っていた俺に、文句を言ってくるミルではあるが。
その気になれば力づくで対処できるはずなのにそうしない辺り、本気で嫌というわけではないのかもしれない。
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