第24話 中二病の痛い新婚夫婦(中二病じゃないし夫婦でもない)
着々とダンジョン内でのレベリングを重ねていた俺たちは、並行してダンジョンの探索にも取り組んでいた。
その結果。
ダンジョンに足を踏み入れてから五日目の今日。
俺たちは十五階層に到達した。
ここから先は、地図にも載っていない。
つまり俺たちは、これまでに誰一人として訪れたことのない、いわゆる未踏領域に足を踏み入れたのだ。
「未踏領域……って、なんだかわくわくするね! いかにも冒険者って感じだし」
リナリアが興奮気味にはしゃぎながら、きょろきょろと周囲を見る。
幼馴染の勇者のためにレベルを上げたいと言っていたが、そういう事情を抜きにしても冒険するのが好きだったりするのかもしれない。
小さい頃からモンスターを倒して回っていた勇者と行動を共にしていたらしいし、その可能性は高いだろう。
「けどリナリアの力が無かったら、ここまであっさりダンジョンを攻略できなかっただろうな。レベルだって、順調に上がってるし」
「そう言ってくれると嬉しいけど……レベルが上がったのはユッキーのおかげでしょ? パーティー経験値アップだっけ、すごいスキルだよね。私なんかがたったの五日でレベル17から44って、なんだか現実感ないなぁ……」
「この世界だと国に所属する兵士がレベル20くらいなんだよな。って考えたら……レベル44って、軽く常人の域超えてるって感じか。なかなかやるなリナリア」
俺が何気なくそう言って褒めると、リナリアは曖昧な笑みを浮かべた。
「あはは……だからこそ、ユッキーのスキルがすごいって話になるんだけどね?」
「そう言えばこの世界って、レベル1つ上げるにも1年かかるとか言ってたな……」
そんな世界で、五日間で17から44までレベルが上がる。
改めて言われてみると、俺のスキルってけっこうチートなのかもしれない。
なんてことを考えていると、リナリアが不思議そうに首を傾げていた。
「どうしたリナリア?」
「えっと、『この世界』って……なんだか、ユッキーが別の世界から来たみたいな言い方だなって思って」
まさかそんなわけないよね、とばかりにはにかみながら言うリナリアに対し。
「ああ、その通りだ。実は俺、こことは違う世界から転生してきたんだ」
特に隠すわけでもなく、俺は事実を告げる。
「ちなみに私はユッキーの転生をサポートする天使だったりします。リナリアちゃん、もっと私を崇めていいんですよ?」
そこに便乗してきたミルが、ふふんと胸を張る。
が、リナリアはきょとんとした表情を浮かべた後。
はっと何かに気づいたような顔をして。
「もしかして……二人とも、私をからかってる?」
リナリアはちょっと得意げな笑みを浮かべて。
「確かに私は騙されやすいタイプかもしれないけど、たまには嘘を見抜いたりもできるんだからね!」
どうやらリナリアは、俺たちの言っていることを冗談か何かだと受け取ったらしい。
……いやまあ、いきなり「俺は別の世界から転生してきた」とか「私は天使です」なんて胡散臭い話をされて、素直に信じちゃう方がかえって不安になるけど。
今回ばかりは、本当の話なのだ。
「いやいや本当だぞ? 俺はレベルカンストの上にチートスキル持ちの状態で異世界転生を果たしたんだ」
「うーん……ユッキーは強いしすごいスキルも持ってるけど、流石にその設定は無理があるんじゃないかな」
ありのままの事実を伝える俺の言葉を、リナリアは笑って流す。
「設定ってお前、それじゃあまるで俺が中二病の痛い奴みたいじゃ……」
「あはは……」
心なしか申し訳なさそうに笑うリナリア。やっぱり痛い奴だと思われていたらしい。
「で、でも私はけっこう面白いと思うよ? 小説にしてみたら意外と人気出るかも」
などと、リナリアがなけなしのフォローを入れてくるが。
「いえ、それは難しいですね」
ここぞとばかりに、ミルが横槍を入れてきた。
「ユッキーは過去に、毎週あるネトゲの定期メンテ時間を利用して、異世界転生もののweb小説を書いていたことがあるんですが……それはもう酷い出来でした」
よよよ、と憐れむような仕草を取りながら、ミルは続ける。
「特に作者が自己投影してる感丸出しの主人公の痛々しさといったらもう……」
俺は慌ててミルの口を手で塞ぎにかかった。
「どうしてお前は俺が墓場まで持っていくと決めた黒歴史を知ってるんだ!?」
「さあ? ひょっとしたらここが墓場の向こう側だからかもしれませんね」
レベル9999の怪力で俺の手を引き剥がしながら、ミルは言う。
そう言えば俺って一度死んで転生してきたんだから、ここは死後の世界みたいなものだった。
「……とまあこんな感じで、ユッキー自身しか知らなかったはずの恥ずかしい秘密をあっさりと暴露できちゃうことこそ、私が天使である証拠というわけです」
なるほど天使ってのは厄介な奴だと俺が再認識する一方。
リナリアは腑に落ちない様子で首を傾げた。
「でもユッキーとミルっちってすごく仲良しだから、実は長年の付き合いがあって色々知ってるだけ、なんてこともあり得そうだよね」
いやいや。俺とミルのどこをどう見たら、仲が良かったり長年の付き合いがあったりするように見えるんだ。
「あ。ひょっとして二人は幼馴染で、最近結婚した新婚さん?」
なんか、更に妙な勘違いを深めているし。
「もしかして私……二人の幸せな新婚生活を邪魔してた!?」
「いやいや、私たちは夫婦じゃないですからねリナリアちゃん! 第一、何が悲しくて万年レベル上げと性欲で頭がいっぱいなユッキーなんかと……」
相変わらず俺について根も葉もないことを言いながら必死に否定するミルを前に、リナリアはきょとんとした顔をする。
「あれ、違うんだ。もったいない」
「もったいないってなんですか……」
リナリアがしれっとよく分からないことを口にするのに対し、呆れるミル。
「そもそも私は天使なので、下界の人間なんかと結ばれるとか無理ですからね」
「うーん、ミルっち。年下の私が言うのもなんだけど、天使とか下界とかはそろそろ卒業した方がいいと思うよ」
「ななっ……本物の天使であるこの私が、いい年して中二病拗らせたまま天使を自称し続ける痛い子扱いされるとは……」
ひとえに善意から発せられたであろうリナリアの助言に、ミルは軽くショックを受けている。
「ミルっちは変に気取ったりせず、自分の気持ちに素直になるべきだよ。じゃなきゃ……ユッキーが他の子に取られちゃうかもよ?」
「いや、ユッキーを恋愛対象として見てしまうような目の悪い女性は世の中にそうそういないので、競争率は低い……ではなくてですね。そもそも私がユッキーに対し好意を抱いているという前提を疑ってください」
心外だとばかりに、ミルが否定するが。
「またまたー」
リナリアはミルの言葉を真に受ける様子もなく、にやにやと楽しげな笑みを浮かべた。
俺としてもミルと夫婦扱いは心外だが……ミルが翻弄されているのは気分が良いから放っておこう。
ミルはその後も何だかんだと否定を続けていたが、結局リナリアの誤解は解けなかった。
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