第23話 とりあえずユッキーはすごい
ダンジョン内での昼食後。
俺たちはレベリングを再開し、通路を更に奥へと進んでいった。
今回ダンジョンに来た主目的はリナリアの特訓だが、敵も雑魚ではない。
俺も本格的に、モンスターとの戦闘に参加することになった。
ところで俺は、戦闘の中で返り血を浴びることを毛嫌いするにもかかわらず、未だに素手で戦っている。
Sランクの冒険者としてそれなりの富を築き上げたおかげで、武器を買う金ならいくらでも持っているのに、だ。
何故かと言えば、理由は単純。
武器の方が、高レベル高ステータスな俺の戦いぶりについて来てくれないから。
並の剣では、何度か振るったら折れてしまうのだ。
市井で売っているナマクラでは、使い物にならない。
よって俺が武器を扱うためには、それこそ伝説の名工が鍛えた逸品とか、曰くつきで霊験あらたかな聖剣なんかが必要となる。
しかしそんな代物、田舎の地方都市で入手出来る筈もなく。
俺はやむを得ず、拳を振るっているというわけだ。
その拳がまた一体、獲物を屠った。
飛来する蝙蝠の化け物を、俺は拳で穿つ。
肩を並べて戦うリナリアが、地を這う大ムカデを斬り裂く。
そんなリナリアの死角を縫うようにして、執拗に狙おうとする蝙蝠どもを、俺は手刀で叩き落とす。
跳ね回るような激しい立ち回りで敵を斬り、時に紫炎の魔法を放つリナリアの邪魔になりそうなモンスターを、俺は優先的に狩っていく。
ひたすらその、繰り返し。
ざっと数十体くらいだろうか。
モンスターの群れを掃討し終わったところで、今まで後方で見ていただけのミルがぽつりと呟いた。
「なんだかお二人、息ぴったりですね……特にリナリアちゃん、とっても伸び伸び戦ってる感じがします」
「そんなことは……ある、かも? 確かに言われてみれば、さっきからすっごく気持ちよく、やりやすく戦えてる気がするもん」
ミルに言われて、小首を傾げるリナリア。
そのまま少し考えるような素振りを見せたかと思ったら、ぴこんと尻尾を逆立たせて俺に上目遣いを向けてきた。
「……もしかしてユッキー、ずっと私に合わせて戦ってくれてた?」
「ああ……まあな。リナリアが戦いやすいように立ち位置に気を配りながら、邪魔になりそうなモンスターがいたらちょちょっと排除したりとかしてた」
「そっか、ありがと。でもそんなの、会ったばかりでいきなり出来ちゃうものなの? 私、結構好き勝手に動き回ってたのに」
「まあ……やってみたら出来たって感じだ」
俺は軽い調子で答えるが、リナリアはまだ納得いかない様子だ。
「うーん……ユッキーはさらりと言ってるけど、普通は長年組んでたりしないと出来ないんじゃないかな、そういうの」
「それもこれも、戦闘技能スキルのおかげだろうな。熟練度マックスになると、何と言うか……視野が広く奥深くなるんだよ」
「ひろくおくぶかく……?」
「あー……とりあえずすごいってことだ、多分」
「そっか、ユッキーはすごいんだね!」
笑顔とともに真っ向から賛辞を送ってくるリナリアに、俺はついたじろぐ。
生前ひたすら虐げられ、捻くれて育ったせいで、俺はぶっちゃけ褒められ慣れていない。
おまけにここまで直球となると、どう対応していいか困ってしまう。
とりあえず俺は、リナリアを褒め返しておいた。
「……それを言うならリナリアこそ、大した戦いぶりだったけどな。呑み込みの早さには目を見張るものがあるし」
「あ、そうかな? ユッキーにそう言ってもらえると、嬉しいかも」
思わせぶりとも取れる発言をするリナリアは、純真な笑みをこちらに向けてきた。
そのあどけない笑顔に内包された魅力に圧倒されて、俺は更に狼狽える。
……なんだか以前にも似たよう出来事があった気がするが、やはり思わせぶりなだけで、本当に何らかの意図があるわけではないのだ。
だってリナリアには、勇者という想い人がいるのだから。
確か、名前はセスナとか言ったか。
きっと、リナリアと同じくらいの美少女なんだろう。
いつか会ったら、レベリングの手伝いとかしてあげたいなどと思いを馳せていると。
「しかし二人とも、すっかり意気投合してますねえ。戦いの中で、心が通じあっちゃった感じですか?」
蚊帳の外になりつつあったミルが、詰まらなそうに冷やかしてくる。
俺が否定しようと口を開きかけたその時、リナリアに機先を制された。
「んー……そうかも?」
どういうわけか頬を上気させながら、ちゃっかりそんなことを言い出すリナリア。
すると途端に、ミルの両目が輝いた。
「おおっ、これは意外とチャンスかもですよユッキー!」
ミルが俺を囃し立てる中、リナリアはその言葉を特に否定することなく「あはは」とまんざらでもなさそうに笑っている。
……いや、でもこれは。
なんとなくだがこの無邪気さは、ミルの発言の意味をちゃんと理解していない。
そんな気がするというか、そういうことにしておこう。
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