第25話 たのしいダンジョン探索
引き続き、ダンジョンの十五階層にて。
しばらくレベリングを続け、夕飯時。
俺たちはちょうどいい広さの小部屋を発見したため、そこを今日の野営場所にすることにした。
「ダンジョンとその周辺で起きている異変の調査、ねえ……」
それはダンジョンに入る許可を得るためにギルドを訪ねた際に、任された依頼だ。
「未踏領域まで来たら何か手がかりが掴めるかと思ったけど、今のところさっぱりだよね」
焚火とその上に吊るされた鍋を囲む中で発した俺の呟きに、リナリアが反応する。
「ああ……まあそうだな」
「あれ? なんだかユッキー、やる気ない?」
やる気のない返事をする俺に対し、首を傾げるリナリア。
「正直、レベリングに夢中になってたせいで、依頼を受けたこと自体ついさっき思い出したからな」
「えー、もっと頑張ろうよー。大事なお仕事でしょ?」
俺の言いように、リナリアは不満そうな声を漏らすが。
「……レベリングばっかしてたニートに仕事の大事さを説かれてもなあ」
「にーと……って?」
「いや、こっちの話だ。とにかく、俺の目的はあくまでリナリアのレベリングだからな」
「それは、私だってそうだけど……」
リナリアがこうしてダンジョンに潜っているのは、ひたすらレベルを上げて、幼馴染である勇者の仲間としてパーティーに加わるという目的があるからだ。
その辺り、本人も理解はしているが、ダンジョン探索を楽しみたい気持ちもあるのだろう。
「あ、そうだ」
ふと、リナリアが何か思いついたような声をあげると、傍らに置いてあった地図を手に取った。
戦闘に参加できず暇を持て余していたミルに、この階層のマッピングをさせておいたものだ。
「この地図を見たら、何か分かるかも。私たち以外はまだ誰も来てない階層だし、よーく探せば隠し通路の手がかりとかが掴めるんじゃないかな!」
「いや、それミルが描いた地図だからな? 自分で頼んでおいてこう言うのもアレだが……実は手抜きしてたなんてこともあり得るし、どれだけ信用できるか分からないぞ」
「うーん。ミルっちは口では文句を言ったりするけど、きっちりやってくれてると思うよ? 他でもない、ユッキーから頼まれた仕事だし」
「俺が頼んだ仕事だからこそ、不安なんだろ」
「あはは。ユッキーってば、分かってないなあ」
俺の懸念を、リナリアはおかしそうに笑い飛ばす。
が、分かっていないのはリナリアの方じゃないかと言いたい。ミルをツンデレか何かと勘違いしているんじゃないだろうか。
そうこうしていると、モンスター避けの結界を張っていたミルが戻ってきた。
戦闘に直接参加するのは駄目でも、そういうのはアリらしい。
「お二人とも、鍋の方はちゃんと見ててくれましたか?」
焚火の前に腰を下ろしながら、ミルがそう言う。
「うん、ちょうど美味しそうなにおいがしてきたところだよ!」
「ふふん、当然です。他でもないこの私が味付けをしましたからね」
ピンと猫耳を立てながら笑顔で返事をするリナリアに、すまし顔で答えるミル。
「さあ、仕上げは任せてください。特製ダンジョンシチューをご馳走してあげますから」
意気揚々とお玉を手に取って、ミルはそう言った。
程なくして完成したミルの特製シチューを、俺たち三人は焚火を囲いながら食べている。
「んー……おいしい~! こうしてダンジョンで過ごすようになってから、ずっとミルっちの料理を食べてるけど……これを普段から毎日食べてるユッキーが羨ましいなあ」
「羨ましいって……なんだそれ」
リナリアの言葉に、俺は空返事をする。
しかし、生前の……引きこもってパソコンの前に張り付きながら死ぬまでレベリングをしていた頃を思えば、格段にまともな食生活をしているのは確かだ。
ミルは口うるさいが、飯が美味いのは事実だし、贅沢と言えば贅沢なのかもしれない。
褒めたら間違いなく調子に乗るから、絶対に口には出さないけど。
まあ、それを言うならリナリアに褒められた時点で調子に乗り始めそうなものだが……さっきからやけに大人しい。
自慢のシチューにも手を付けていないし。
「おい、どうかしたのか?」
「この階層に来た時からずっと感じていたのですが……何か、禍々しい気配がします」
俺の問いに対し、ミルはらしくもない神妙な表情を浮かべてみせた。
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