第五章……ランキングを駆け上がるしかない!

第20話:別れの危機



 レコード・トーカーにはランキングが存在する。


 オルターの機能に搭載されているもので、通常ルール・スペシャルルールでカードファイトを行った場合に自動で勝敗を登録し、その成績でランクがつけられる。


 月に一度、集計されたその時のランクによってポイントが貯まり、様々な景品と交換することができるのだ。


 月一でランキングはリセットされるが総合ランクという年間ランキングが年の終わりに発表され、その上位入賞者は公式大会へ招待される。


 ランクには三段階存在し、さらに三つのクラスに分けられている。


 ①ランクの種類―ルーキー(初心者~)ビギナー(~中級者)マスター(上級者~プロ)


 ②クラスの種類―ジャック1~10・クイーン1~5・キング1~5。


 ランクは上位ランク・クラスのトーカーと対戦することでさらに上昇する。対戦相手のランクによって獲得するポイントが違う。プロトーカーとの勝負は高ポイントが貰え、負けてもランクは下がらずポイントが入る。



「お前のランクはいくつだ」

「ルーキーのジャック3です……」



 神威の問いに咲夜は申し訳なさそうにしながら答えた。



 咲夜のランクは下位であった。マリアやその友人の女子、たまにカードショップなどで対戦を挑まれた時にしか戦えていないため、ランクの伸びは悪かった。


 別にランクが低いことが悪いわけではない。問題なのは咲夜の自身から進んで対戦を挑まないところであった。


 ゲームの開発運営を行っているAC社の支援を受けているこの学園では、授業さえきちんと出ていれば休み時間や放課後にレコード・トーカーをしても良い。咲夜は学園の生徒からの対戦を度々、断っていた。


 上手くできる自信がなかった。それが足を引っ張ってか、なかなか対戦をできずにいたのだ。



「……よし」



 そんな咲夜に神威は何か決めたように立ち上がる。



「今月集計分までにビギナーまで上げろ」



 神威の言葉に咲夜は目を見開いた。今月集計分までもう二週間切っていたからだ。


 そんな短い期間でビギナーまで上げるのは無理だと咲夜は言った。それでも神威はやってみろと返す。



「もし、ビギナーまで上げ切れたらダスク・モナークの正式なマスターにしてやる」



 仮登録ではなく、本登録でと神威はさらに続ける。



「もし、ビギナーに上がれなかったら返してもらう」



 お前にはカードファイトは向いていないと。




          ***




「どうしよう、マリアちゃん」



 咲夜は頭を抱えていた。再来週までにビギナーに上がっていなければ、ダスク・モナークを返さなくてはならない。


 もともと、借り物であるためいつかは返さなくてはならないのだが今はまだ彼と共にカードファイトをしたかった。


 正式な対戦では所持していないカードの使用はできない。今はカードを所持しているため対戦を行うことはできるが、カードを返し仮登録を解除してしまえば使用はできなくなってしまう。



「せめて、もう少し上手くなるまでは一緒にいたい……」

『それは頑張るしかないだろうな』

『そうですわねぇ』



 咲夜の言葉にダスク・モナークとスノー・ブルームは返す。そう、二体の言う通り頑張るしかないのだ。


 所有者である神威がダスク・モナークのことを決める権利がある。それでも何故、ランキングなんだと思わなくもなかった。



「今から何十万ポイントを貯めるとなると……」



 マリアは紅茶を飲むと人差し指を上げる。



「外で探すより、この学園で対戦相手を探すほうが効率的でしょうね」



 この学園には男女を問わず、トーカーがいる。対戦好きな生徒も多いので頼めばすぐにでも受けてくれるだろうと。



「それに貴女。珍しいカード持っていますし、一度見たいって生徒は多くてよ」



 ダスク・モナークやコピットといったカードは今や珍しいカードの部類だ。この前のレギュレーションで久々にコピットの名前を見たことで、生徒がどんなモンスターなのかと気になっているとマリアは話す。



「コピットの贈り物、制限かかったんですよねぇ……」

「まぁ、仕方ないと思いますわ」



 コピットの贈り物は禁止にはならなかったものの制限カードになっていた。制限カードは一枚しか入れることができない。


 コピットを使っている咲夜にとってコピットの贈り物が制限になるのは痛かった。



「多く積んで引きやすくすることができなくなった……」

「それはもう魔法カードなりモンスターなりでどうにかしなさい」



 セメタリーにカードを送る効果のモンスターやカードは多いが、死霊族モンスターの効果には特定のカードを引く系統は少ない。



「ゾンビ・ボーイくんに頼るかぁ」

「どうしてもコピットを活躍させたいのですわね」

「ダスク・モナーク様の次にコピットちゃんたちが好きですから」



 死霊族の妖精というのが珍しかった。妖精モンスターというと天使族に多く可愛らしいテーマによく登場するイメージがあった。


 そのイメージを変えたのがコピットである。こんなモンスターいたんだと調べるうちに面白い特性をもった子だと感じた。


 小さな可愛らしい妖精。能力も悪くなく、けれど効果にバラつきはあって。でも、そんな彼らが咲夜には可愛く見えて。



「コピットに囲まれるダスク・モナーク様が見たい」

「欲望だだ漏れじゃないですの」

『やめろ』



 絶対に可愛いと何処から湧いてくるのか解らない自信にマリアは呆れて、ダスク・モナークは首を左右に振っていた。


 可愛いコピットに囲まれるダスク・モナークというのは想像するとなんとも言えない気がする。マリアはそう思うのだが、咲夜は絶対に可愛いと引かない。



「ダスク・モナーク様を返す日が来たらコピットデッキ作る……」


「もうすぐきそうですわよ」

「いやだぁ」



 嫌だよぉと嘆く咲夜にマリアは溜息をつくと肩を叩く。手伝ってあげますからそんな顔をしないのと。


 そんな愚痴ばかりではダスク・モナークにも失礼である。その言葉に咲夜は姿勢を正した。確かに今の自分は弱音ばかりを吐いてだらしない。


 こうなったら頑張るしかない。諦めるにはまだ早すぎるのだから。咲夜はそうですよね! と自身を奮い立たせる。



「が、頑張ります!」

「じゃあ、手始めにクラスの子から探しましょうか」



 マリアはくるりと振り返ると隅に固まっている男子生徒に声をかけた。


 誰か咲夜とカードファイトしてみないか。その声に「あ、オレやってみてーわ」と一人の男子が手を上げた。


 それに続きようにオレもと手を上げた生徒の隣に立っていた男子が言う。



「おれも気になる!」



 西園寺との戦い見てて気になってたんだよと男子生徒は嬉しそうに立ち上がった。


 カードファイトの気配を感じ取ったのか、なんだなんだと生徒が集まってくる。そんな様子にほらとマリアは咲夜を立たせた。



「さっそく見つけましたわよ」

「は、早いですよーー」



 まだ心の準備がと言う咲夜にさっさとしなさいとマリアは喝を入れ、背中を押した。


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