第27話:冷静さを欠くマリア
スポットライトが当たるステージ、そこに立つキャット・ガールたち。アイドルのようにパフォーマンスする姿はさながらアイドルライブのようであった。
「アイドルステージ・アフェクションの効果! 発動時にカードを一枚ドローする。さらに防壁効果として、種族を一つ決め、その種族のモンスターの攻撃力を+500する。ボクが指定するのは植物族!」
場にいるホワイティ・ローズとホロスコープ・ローズの身体が淡く光る。二体のモンスターの攻撃力が上昇した。
「さらにさらに~! 場にアイドルドリームと名の付くモンスターがいる場合、+200されま~っす!」
キャット・レディがきらっとポーズを決める。すると、二体のモンスターの攻撃力はさらに上昇した。
「1700と800……」
「どちらも大したことないのですわっ!」
ブロックやガードを行えば攻撃力は半分になる。大打撃とはいかないものの、油断はできない。
この後に大型のモンスターが召喚されれば、堪えることができずに押し負ける可能性もありえる。そうなると大したことが無いとは言い難い。
(マリアちゃん、苛立ちでちゃんと見えてないんじゃ……)
咲夜はマリアの様子に不安を抱いていた。いつものように落ち着いたカードファイトをしていないからだ。
咲夜と初めて戦った時以上に感情が荒ぶっている。祭への怒りが彼女の冷静さを欠かせているのだろう。この状態ではいつ、判断を誤るか分からない。
「攻撃開始すっるよー!」
「ブロックですわ!」
ホワイティ・ローズの短剣を受け流すアイス・ナイン。さらに追撃とばかりに星の輝きを放つホロスコープ・ローズとマイクで殴りにくるキャット・ガール。
マリアはホロスコープ・ローズの攻撃だけ通し、他はブロックした。
【氷の騎士―アイス・ナイン 一体目の残りHP650 二体目の残りHP350
マリア・咲夜ペア ランパート(6000)から(5200)へ】
「はーい、ボクのターンしゅうりょーう」
「その喋り方どうにかなさいっ! 失礼でなくてっ!」
「え~、これボクのパフォーマンスだしぃ」
むーっとマリアは目を吊り上げる。さらに冷静さを失ったであろう彼女に、咲夜は落ち着いてくれることを祈りながらカードをドローした。
*
「あいつは相変わらず煽り耐性がねぇな」
渡り廊下の窓辺から顔を覗かせながら神威はぼやく。
もともと煽り耐性がないと思っていたが祭となるとさらにそれが出るなと神威は思った。
『マリア嬢はあのような態度が嫌いだろうからな』
オルターの中から渋い男性のものだと思われる声音が響く。落ち着いた、けれどはっきりとした口調で「我もあの態度はいただけんな」と苦言した。
その言葉に神威はだろうなと同意するように頷く。
「あれじゃぁあいつが足引っ張るんじゃなくて、マリアがやりかねない」
『止めに入らぬのか?』
「勝負に水差すかよ」
『そういうものか。我は弱きものを助ける故に分からぬな』
「お前のAIは設定に忠実だな、サルヴェイション・ミーティア・ドラゴン」
ぬっとデフォルメされた小型のドラゴンが表示される。機械的な東洋竜、サルヴェイション・ミーティア・ドラゴンのパートナーとして表示された姿だ。
ふと、サルヴェイション・ミーティア・ドラゴンが何かに気づいたのか、渡り廊下の奥へと目線を向けた。
「おや、君のパートナーが姿を見せるなんて珍しい」
肩に小型化されたダーク・ナイトメア・トラゴンを乗せ、グランが珍しげにサルヴェイション・ミーティア・ドラゴンを見ている。彼の姿に神威は眉間に皺を寄せた。
「なんでお前がいるんだ」
「君は相変わらずだね。ただ、教室に戻る途中だっただけだよ」
たまたまさとグランはそう言うと窓から外を覗いた。そこから見えるカードファイトにあっと声を上げた。
「タッグファイトじゃないか! しかもサクヤがいるっ!」
「静かにしろっ!」
グランが興奮したように身を乗り出したのを抑えるように神威は彼の首根っこを引く。窓から引き剥がすとしゃがみこませた。
「なんだい、神威!」
「あいつらに気づかれたら、場が乱れるかもしれねぇだろうが!」
マリアは冷静さを取り戻すかも知れないが、咲夜は間違いなく緊張するだろう。菖蒲は気にも留めないだろうが祭は調子に乗る。それはプロ仲間ということもあり分かる。
それで場を乱させるわけにはいかない。神威の説明になるほどと手を打ち、グランはそっと窓から顔を覗かせる。
「君、やっぱり優しいよね」
「うるせぇ」
『神威は元から優しいだろう』
『優しい人間にしては厳しい課題を出したとワシは思うぞ』
ダーク・ナイトメア・ドラゴンの言葉にそれは何か考えがあってのことだとサルヴェイション・ミーティア・ドラゴンはフォローする。とうの本人はその言葉には答えなかった。
***
咲夜はフィールドを見渡す。相手の場には三体、モンスターが召喚されている。
【アイドルドリーム―メアリー・キャットガール 攻撃2300 HP2800】
(そこそこ上級、相手の魔法効果を受け付けない魔法モンスターカード……)
パートナーに選ばれるだけあって性能は悪くない。魔法が効かないとなるとそれ以外の方法で対処するしかない。
「私は常夜の国―盗賊・ギャリーを召喚、さらに常夜の国―妖精コピット04を召喚」
バンダナをつけ口元を布で隠した盗賊姿の青年と緑の帽子を被った小人がぽんっと姿を見せた。
咲夜はさらに魔法カードを発動させ、カードをデッキから五枚セメタリーに送り、コピット04の効果を発動させる。
「コピット04の効果発動! デッキからカードがセメタリーに送られる時、セメタリーまたはデッキからモンスターカードを一枚手札に入れる! 私が手札に入れるのは常夜の国―ダスク・モナーク……」
「そこでディフェンスマジック!」
祭はカードを投げるように発動させる。手札に加えたダスク・モナークはセメタリーへと送られてしまった。
「ディフェンスマジック【アイドル持ち物検査】。これにより手札に加えられたカードはセメタリーへ送られちゃいまーすっ」
ボクでもキーカードだって分かるぞとウィンクをされる。
咲夜は切り札をセメタリーに送られてしまったことでうっと声を零す。相手のディフェンスマジックのことを考えていなかったと表情を渋くした。
「……じゃあ、アイス・ナインでランパートに攻撃します」
「もっちろんブロック~」
祭はホワイティ・ローズでブロックする。ホワイティ・ローズは短剣でアイス・ナインの剣を止めるも切り裂かれてしまった。
さらにもう一体のアイス・ナインで攻撃するも、キャットレディに防がれギャリーの攻撃もホロスコープ・ローズに弾かれてしまう。
【氷の騎士―アイス・ナイン 攻撃1500
ブロック宣言 アイドルドリーム―メアリー・キャットレディ HP2800からHP2050へ
【常夜の国―盗賊・ギャリー 攻撃1200
ブロック宣言 薔薇乙女の占星術師―ホロスコープ・ローズ HP2000からHP1400】
モンスターを一体撃破したとはいえ、打撃を与えられたとはいえず。けれど、攻撃できるモンスターは残されていない。咲夜はターンを終了させるしかなかった。
咲夜のターン終了を受け、菖蒲は引いたカードに目を細めた。
「私は薔薇乙女の騎士―セイント・ローズを召喚する! さぁ、高貴なる薔薇に身を捧げし騎士よ、現われろ!」
一陣の風に舞う赤い薔薇の花弁。剣を携え赤いドレスに鎧を纏う女性が姿を見せる。彼女が動くたびに赤薔薇が舞う。凛とした立ち姿にホロスコープ・ローズは膝を付いて頭を垂れていた。
「さらに薔薇乙女の騎士―セイント・ローズの効果! 自分フィールド上の薔薇乙女と名の付くモンスター一体につき攻撃力+300される。そして、自分フィールド上に薔薇乙女と名の付くモンスターカードが存在するかぎりこのカードは攻撃対象に選ばれない!」
【薔薇乙女の騎士―セイント・ローズ 攻撃1500 HP2200
効果により攻撃力1800 さらにモンスター効果により攻撃力2300
アイドルステージ・アフェクションの効果により攻撃力3000】
「えっ!」
オルターに表示されたセイント・ローズの攻撃力に咲夜は思わず言葉を漏らす。菖蒲は破壊されセメタリーに送られていたホワイティ・ローズの効果を発動させていた。
「ホワイティ・ローズの効果! このカードがセメタリーにある時、場の薔薇乙女の騎士と名の付くモンスターの攻撃力を+500させる! そしてランパートに攻撃だっ!」
「ぶ、ブロックしますっ!」
キャットレディとセイント・ローズの攻撃を二体のアイス・ナインで防ぐ。アイス・ナインは氷が砕けるように破壊された。ホロスコープ・ローズの攻撃はコピット04によって軽く弾かれてしまう。
【氷の騎士―アイス・ナイン破壊
薔薇乙女の占星術師―ホロスコープ・ローズ 攻撃800
常夜の国―妖精コピット04 HP2000からHP1600へ】
「ワタクシのターン!」
マリアは引いたカードとフィールドにいるモンスターを見比べる。
(これならっ……)
いける、そう思ったマリアは魔法カードを発動させた。
「ワタクシは魔法カードを発動! 場にいるモンスターを一体セメタリーに送ることでデッキからカードを一枚手札に入れる。ワタクシはコピット04をセメタリーに送り、氷の女帝―スノー・ブルームを手札に!」
「ふぁっ!」
コピット04はセメタリーに送られ、スノー・ブルームはマリアの手札に加わる。その行動に耳を疑うもそんな咲夜にマリアは気づいてはくれなかった。
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