第26話:タッグファイト開始



「それでは始めるぞ」



 菖蒲の合図でカードファイトは開始された。どうやら初期防壁カードはマリアが勝手に決めてしまったらしい。


【マリア・咲夜 初期設置防壁カード「初期手札にランダムで魔法カード一枚」


 菖蒲・祭 初期設置防壁カード「初期手札にランダムで魔法カード一枚」】


(相手も魔法カード一枚……)


 マリアは魔法モンスターであるスノー・ブルームを主体とするデッキなため、この防壁カードを希望するのは予想ができていた。


 相手もマリアと同じように魔法モンスターが主力なのか、それとも竜真のように魔法カードで主力を呼び出す戦法なのか。咲夜は自身の手札を確認しながら戦略を練る。


(……このタイミングでこの魔法カード)


 今回の咲夜のデッキは新しく購入したカードを組み込んだばかりだ。そのため、まだ一度も回しておらず使い慣れてはいなかった。


(マリアちゃんに対戦を一度お願いしてから使う予定だったんだけどなぁ)


 その買ったばかりのカードが加わっている手札を見止めながら咲夜はどう動くか思案する。相手はもう決まっているようで先攻一番の菖蒲が動く。



「私のターン。私は薔薇乙女の使者―ホワイティ・ローズと薔薇乙女の占星術師―ホロスコープ・ローズを召喚する」



 白薔薇を纏った白いドレスに身を包む女性は短剣を携え、黄色と白の薔薇を散りばめたドレスの少女は、夜空を閉じ込めたような水晶を手にフィールドに姿を現した。



「私はターンを終了する」

「ワタクシの番ですわっ」



 菖蒲のターンから後攻一番のマリアのターンへと映る。マリアはカードをドローすると手札から氷の騎士―アイス・ナインを二体召喚した。



「HP1000と2000ぐらい、どうってことないですのよっ!」



 マリアは攻撃を指示する。一体のアイス・ナインがランパートに攻撃を仕掛けた。その攻撃を短剣で抑えるホワイティ・ローズ。


【氷の騎士―アイス・ナイン 攻撃1500

 薔薇乙女の使者―ホワイティ・ローズ HP1000からHP250へ】



「ふんっ、ターンエンドですわ」

「はいは~い! つっぎはボクの番だよぉ~!」



 祭はファンに向けてウィンクしながらカードをドローする。カードを確認するとにやりと不敵な笑みを浮かべた。



「いや~ん、これボクらの勝利確定かもぉ~」



 魔法カードを発動させながら祭はきゃはっとポーズを取る。それが腹立たしいのかマリアは祭を睨みつけながら「いいからさっさとなさい!」と怒鳴っていた。



「あっせらないのぉ~。魔法カード【アイドルドリーム・ステーション】を発動! 手札から召喚条件分のカードをセメタリーに送ることでデッキから進化または魔法モンスターを通常召喚する。ボクが召喚するのは、もちろんこのコっ!」



 祭は手札から魔法カードを二枚セメタリーに送る。するとフィールドに光が舞った。その光の中心には少女の影が一つ。きらきらと光が巡るたびに少女の影が彩られていく。


 フリルをたっぷりとあしらったピンクの衣装、くるんと丸まる毛足の長い金色の尻尾。金髪のツインテールに猫耳をつけた少女はマイクを片手に決めポーズを取って登場する。



「可愛い可愛い愛しの悪戯娘、アイドルドリーム―メアリー・キャットガール登場!」



 キャットガールはくるりと回りにゃはっと笑む。とても可愛らしく、湧いて出た祭のファンの生徒の歓声が上がっていた。



「おーーっと、雲林院祭のパートナー、メアリー・キャットガールの登場やぁ!」

「霧島先輩っ!」



 ファンに紛れ実況を始めたのは竜真であった。何処から現われたと咲夜が驚き声を上げれば、頭を掻きながら校舎を指差した。



「美術室から丸見えやったから来てしもうた」



 芸術学科専用の美術室から中庭は見渡せる位置にあった。竜真は課題を終わらせるために美術室に篭っていたのだと話す。



「せっかくやし、実況でもつけてみぃかねっと」



 解説者志望やしと竜真はにっと口元を上げた。そんな竜真に「ボクの可愛いキャットガールちゃんをもっと褒めるのですっ」と祭はふふんと得意げに指示する。



「お前さんは相変わらずやのう」


「なんですか、なんですかー。竜真先輩、ボクのキャットガールちゃんの可愛さをもっと伝えてくださいよ~」



 ボクと同じくらい可愛いのですからね! と祭は胸を張る。竜真は慣れていることなのか、はいはいと軽く返事をしていた。


 その返事の仕方が気に食わなかったのか、祭はむーっと頬を膨らます。



「ちょっとー、その態度! どーいうこと!」

「お前さんが可愛いのは昔っからやろーが。知っとる、知っとる」

「な、そ、そーですよ!」



 ならもっと褒めるのです! 祭のそんな態度にすぐに調子に乗るやっちゃなぁと竜真は頭を掻いた。


 そんな二人の様子などよりも咲夜には気になることがあった。



「あの……じゅ、授業は……」

「今日は一現目はみぃんな自習やろ? だいじょーぶや」



 ぐっと親指を立てる竜真にそれならセーフなのか? と疑問に思いつつも、初めて授業をサボることに咲夜は罪悪感を持つ。大丈夫と彼は言うものの、気分は晴れない。


 話を中断されたことに祭はまだボクがと言いたげな表情をみせていた。それでもすぐにアイドルとしての表情に戻り、キャットガールの効果を発動させる。



「まだボクのターンは終わってないからね! キャットガールの効果発動! このカードが召喚された時、自身の手札・デッキ・セメタリーから「アイドル」と名の付く魔法カードをランパートの防壁カードとして一枚セットする。ボクは【アイドルステージ・アフェクション】を使用!」



 周囲はアイドルステージへと姿を変えていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る