第13話:死霊族VSドラゴン族

「何、姉貴の学友? オレに勝負挑むっていうの?」



 御伽学園の最寄り駅から程近くにある総合公園に咲夜たちはいた。芝生を駆ける子供たちがいる中、学ラン姿の男子中学生が偉そうにベンチに腰を下ろしている。


 百合子がわたしの弟の健太と彼を紹介した。スポーツ刈りにされた頭を掻きながらやる気がなさげの様子だ。



「どーせ、弱いだろー。オレ、強いし」

「あんた、自分より年上の人と対戦したことないでしょ。良い練習になるじゃない」


「練習なんていらないし~。このまま大会に出れば余裕余裕」



 姉を小馬鹿にするように笑う健太は何も悪びれる様子もなく咲夜に弱そうと言った。


 弱いか弱くないかと言われれば弱いほうなのではあるのだが、こうも馬鹿にされたように言われるのは癇に障る。


 ぐっと堪えながら表情にださないように彼の様子を見る。傍に居たマリアは露骨に不機嫌であったが、口には出さないでいるあたり空気は読んでいるようだ。


(神威君は陰で観察してるって言ってたけど……)


 神威は自身がいれば何か言われかねないということで陰で観察すると言っていた。プロトーカーの前で何をしでかすか分からないと百合子も言っていたので、この対応は正しかったのかもしれないと健太の様子を見て納得する。


(神威君、アドバイスしてはくれたけど大丈夫かなぁ……)


 勝つことが条件となっているこの頼み事に神威はアドバイスをしていた。それを元にデッキを調整してきたがうまくいくものだろうかと不安が拭えない。


 やる気をみせない態度に百合子は困ったように眉を下げる。これでは彼女の頼みも聞くことはできない。



「あら、もしかして負けるのが怖いのかしらぁ?」



 空気を裂くように発したのはマリアだった。口元に手を添え、小馬鹿にするように笑みを見せながら彼女は言う。



「お強いのでしょう? なら、それを見せてくださる? それとも負けるのが怖いのかしらぁ?」


「なんだと!」

「だって、たった一回勝負するだけでしょう? しかもお強いって言うじゃない。それなのに断ろうとするだなんて、そう思われても仕方ないことじゃないかしらぁ?」



 マリアはけらけらと笑う。それに腹を立てたのか、目くじらをたて健太が立ち上がった。やってやろうじゃねぇかとオルターを操作し始める。



「年上だからってバカにすんじゃねぇぞ。オレは強いから負けて泣かないように言ってやってんだ」


「あら~、負けて泣くだなんて女を舐めてもらっちゃ困るわよ。咲夜さんはそんな弱い人じゃないわぁ」



 余計な優しさなんて不要よとマリアは返す。急な彼女の様子に咲夜は驚いていた。


 ふと、マリアがウィンクをする。どうやら、彼女の作戦のようだ。健太がオルターを弄っている間に耳打ちをされた。


 調子に乗っている人ほど煽りに弱いらしい。わざと煽るようなことを言い、相手のプライドを動かしたとか。煽り耐性があったらどうするつもりだったのだろうかと突っ込みたかったが彼の準備が整ったようだ。



「おら、さっさと始めるぞ!」

「は、はい!」

「負かしてやるからな! 後悔しても遅いぜ!」



 健太の言葉とともにカードファイトが始まった。



【咲夜:初期設置防壁カードー「防御指令―三回モンスター効果を無効にされない」

(※効果モンスター召喚四体目以降は対象外)


 健太:初期設置防壁カード「特殊指令―初期手札にランダムで魔法カード一枚」】



 先攻は健太だ。彼は手札を見てにやりと口角を上げる。最高の手札だと余裕の表情をみせた。


 そんな様子に咲夜が自身の手札を視認した時だ、カードを確認するよりも早くに健太は行動にでた。



「おれはフォッグ・ドラゴンを召喚! 効果発動! 相手の手札をランダムに一枚セメタリーに送る!」


「うぇえ!」


 フィールドに現れた霧を纏う白き西洋竜が咆哮する。それだっと健太は咲夜の手札を一枚選択し、セメタリーへと送られれた。選択されたのはゾンビ・スクードというモンスターカードだった。


 それを見た彼はぷっと吹き出す。



「死霊族モンスターとか使ってんのー。だっさ」

「なっ! そんなことありません!」


「よっわいじゃん、死霊族~。ドラゴンには敵わねぇよ! さらにウィンド・ドラゴンを召喚!」



 流れる風のたてがみに緑の鱗の東洋竜が現れた。二頭のドラゴンは肩を並べ、咲夜を見下ろしている。


 相手はドラゴン族を使うトーカーだ。正直に言えば、死霊族と相性はあまりよくはない。


 死霊族はメジャーな種族ではないのは分かっている。けれど、何を使おうともトーカー次第であり、馬鹿にしていいわけではない。


 健太はくすくす笑いながらターンを終了した。



「死霊族で抗ってみろよー、くすくす」

「やりますよ!」



 咲夜はむっとしながら自身の手札を確認した。冷静に冷静にと自身に言い聞かせながらどう攻めるか思案する。


(えーと、手札に……おっ、これは……)


 自身の手札の状況に小さく声を零す。


 手札は綺麗に纏まっていた。悪くはなく、ミスさえしなければ攻め入ることができる。


(神威君のアドバイスが生かせそうだ)


 そう思いながら、咲夜はモンスターを一体、通常召喚する。



「私はゾンビ・ガールを召喚して効果を発動! 通常召喚時、デッキからゾンビ・ボーイまたはゾンビ・レディを手札に加える。私はゾンビ・ボーイを手札へ。そして、ゾンビ・ボーイを通常召喚し、効果を発動! 通常召喚時、デッキから魔法カードを一枚手札に加えます!」



 露出した浅黒い肌に胸を包帯で巻いた短いスカート姿の少女と、浅黒い肌に学ランを着崩した両手に包帯を巻く少年がフィールドに召喚される。


 バールのようなものを手にするゾンビ・ガールに釘バットを振るゾンビ・ボーイは二頭のドラゴンを睨む。



「ゾンビ・ガールでフォッグ・ドラゴンに攻撃します!」

「もちろん、ガード宣言!」



 ゾンビ・ガールがたっと駆け飛びバールを振り上げる、それを身体に纏っている霧でフォッグ・ドラゴンが受け止めた。


【ゾンビ・ガールー攻撃1600

 ガード宣言 フォッグ・ドラゴンーHP1000からHP200へ】


 身体を捻らせ、自身のフィールドへと着地したゾンビ・ガールは小さく口笛を吹く。


 一ターンに二体通常召喚を行った場合、そのターンはどちらか片方しか攻撃ができない。咲夜はそのままターンを終了させた。


 健太のターン、彼はモンスターを一体召喚した。蔦が覆う薄緑東洋竜がふわりと召喚される。



「シケット・ドラゴンを召喚! このまま三体でバトルするぜ! まずはウィンド・ドラゴンでランパートに攻撃だ!」


「ゾンビ・ボーイでブロックです!」

「ウィンド・ドラゴンの効果! ダメージ計算後、ランパートに追撃300ダメージ!」


「追撃!」



 ゾンビ・ボーイは釘バットでウィンド・ドラゴンの風起こしをブロックするも、かまいたちのような一陣の風がランパートへと向かっていった。


【ウィンド・ドラゴン―攻撃1000

 ブロック宣言 ゾンビ・ボーイーHP1000からHP500へ】


【ウィンド・ドラゴンの効果ダメージ―300

 咲夜―ランパート:(5000)から(4700)へ】


 追撃の効果により、ランパートにダメージを受けてしまう。まだ掠り傷程度であるが蓄積していけば辛くなるだろう。


 健太はさらにシケット・ドラゴンで攻撃をしてきた。咲夜は慌ててゾンビ・ガールでブロックする。


【シケット・ドラゴン―攻撃1600

 ブロック宣言 ゾンビ・ガール―HP1000からHP200へ】


 鋭い刃をバールのようなもので受け止めたゾンビ・ガールは息を切らしている様子だ。



「フォッグ・ドラゴンで攻撃!」

「うっ……」



 フォッグ・ドラゴンの霧がランパートを狙い撃つ。ぴきりと城壁にひびが入った。


【ランパートへのダメージ フォッグ・ドラゴン—攻撃1500

 咲夜―ランパート:(4700)から(3200)へ】


 健太はどうだと胸を張っていた。ドラゴンのパワーは強いだろうと得意げである。そんな彼にむっとしかけるも咲夜は冷静にと心を鎮め、自身のターンを開始する。



「常夜の国―妖精コピット02を召喚! 効果を発動! デッキからコピットと名のつくカードを手札に。私は常夜の国―妖精コピット01を選択します!」



 ぽんっと橙色の三角帽子を被った小さな妖精が現れる。それはぴょこぴょことフィールドを跳ねていた。


 そして、手札に加えた妖精コピット01を召喚する。赤い三角帽子を被った小さな妖精はコピット02の隣に現れると手を繋ぎくるくると回った。



「常夜の国―妖精コピット01の効果! デッキから死霊族モンスター一体をセメタリーへ! 私は常夜の国―妖精コピット04を送ります。そして、妖精コピット04の効果発動! セメタリーへ送られた時、デッキから死霊族モンスター一体を手札に加える。常夜の国―妖精コピット03を手札に加えます」



 フィールドには四体のモンスターが召喚されている。数では健太の上を取っているが安心はできない。警戒しつつ、咲夜はバトルへと入った。


 ゾンビ・ガールは駆ける、健太はガードを宣言し、シケット・ドラゴンにその攻撃を受け止めさせた。


【ゾンビ・ガールー攻撃1600

 ガード宣言 シケット・ドラゴン―HP1200からHP400へ】



「ゾンビ・ボーイでウィンド・ドラゴンに攻撃します!」

「その時にシケット・ドラゴンの効果を発動! 自身を破壊することで攻撃してきたモンスターを道連れにする!」



 ウィンド・ドラゴンを狙いに行ったゾンビ・ボーイの前でシケット・ドラゴンは爆発する。その衝撃に耐えきれず、破壊されてしまった。


 効果知らなかったのかとくすりと笑う健太に咲夜は確認していましたと強く返す。


(ゾンビ・ガールにやってくると思ったけど……)


 咲夜の考えでは攻撃力の高いゾンビ・ガールに効果を使用すると思い、ランパートへ攻撃をしかけたのだが予想が外れてしまった。


(まぁ、ゾンビ・ボーイくんがセメタリーに行ったからいいか)


 咲夜は気を取り直してコピット02でウィンド・ドラゴンを狙う。ガードを宣言され、コピット02のステッキははじき返されてしまった。


【常夜の国―妖精コピット02―攻撃500


 ガード宣言 ウィンド・ドラゴンーHP850からHP600へ】



「攻撃はそれで終わりか? そうだよなぁ。残り一体は今同時召喚したばかりで攻撃できねぇもんな!」



 オレの番だとカードを引くと、こっからだぜ! と叫び魔法カードを発動させた。



「魔法カード、進化の輝きを発動! フィールドのモンスターを一体、セメタリーに送ることで手札から進化条件を無視し、進化モンスターを通常召喚できる! おれはフォッグ・ドラゴンをセメタリーに送り、進化モンスターを召喚! いでよ、爆破竜―イクスプロ―ジョン・ドラゴン!」



 ばふんばふんと煙が噴き出す。ごつごつした鱗にはいくつもの亀裂が入り、どろりと液体が流れ出る。亀のようなドラゴンはその巨体を振った。



「イクスプロ―ジョン・ドラゴンの効果! 一ターンに一度、フィールドのモンスター一体を破壊する! オレはコピット02を選択! 邪魔な壁はバイバイしないとな」



 振られた身体から溢れ出た液体がコピット02を襲う。べちゃりとかかった瞬間、ばんっと爆発した。


 守りとして優秀なコピットを狙ってくるのは当然だ。咲夜は健太の次の行動を待つ。


 健太はそのままバトルへと入った。ウィンド・ドラゴンでコピット01へと攻撃を仕掛ける。コピットはその攻撃をステッキで受け流しガードした。


【ウィンド・ドラゴン―攻撃1000

 ガード宣言 常夜の国―妖精コピット01―HP2000からHP1500へ】


【ウィンド・ドラゴンの効果ダメージー300

 咲夜―ランパート(3200)から(2900)へ】


 けれど、追撃は守り切れない。ランパートへとダメージが入ってしまう。



「イクスプロ―ジョン・ドラゴンの効果! このモンスターは二回攻撃が行える! これでゾンビ・ガールを粉砕!」



 健太の叫びと共にイクスプロ―ジョン・ドラゴンは大口を開け、火球を吐き出した。激しく燃え盛るそれは一直線へとゾンビ・ガールへ向かう、破壊される―その瞬間だった。


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