第14話:勝利の鍵は掴んでいた
「ディフェンスマジック発動! 常夜の召喚陣!」
咲夜はそう叫ぶと手札からディフェンスマジックを発動させる。
ゾンビ・ガールの目の前に魔法陣が描かれるとそれは淡く光った。
「フィールドに死霊族モンスターが存在する時、フィールドの死霊族モンスター一体をセメタリーに送ることで効果発動! 手札・フィールドから召喚条件分のモンスターをセメタリーに送り、デッキから死霊族進化モンスターを召喚する! コピット01を送り、手札の常夜の国―妖精コピット03の効果を発動させる! このモンスターは死霊族進化モンスターの召喚条件分として扱う!」
黄色三角帽子を被った小さな妖精が三体に分身し、セメタリーへと送られていく。そして、ぶわりと魔法陣から光が零れた。
それは火球を跳ね飛ばし、一つの形へと成す。
「常夜の国を統べる皇帝よ、現れろ! ダスク・モナーク!」
月光が射す。闇のように暗い一つに結われた長い黒髪が靡き、大鎌がきらりと輝く。黒いマントを翻し、凛とした立ち姿は目が離せぬほどに覇気があった。
黒き鎧に守られし、常夜の国を統べる皇帝がそこに降り立つ。
「常夜の国―ダスク・モナークの効果発動! 召喚時、セメタリ―に死霊族モンスターが五体以上存在する場合、HP+1500!」
淡い光がダスク・モナークの身体を一瞬、包み込む。すると、HPが増えていた。
【常夜の国―ダスク・モナーク 効果発動
HP5000からHP6500へ】
健太は咲夜のセメタリ―を確認し、小さく舌打ちをする。モンスターを破壊しても反応が薄かったこと、セメタリーへモンスターを送っていたのはこれがあったからかと。
「さらにダスク・モナークの効果! このモンスターがフィールドに存在する時、攻撃対象はダスク・モナークしか選ぶことができない! 他のモンスターへの攻撃・ランパートやトーカーへの攻撃はできません!」
「はぁっ! ちょっと待て! じゃあ、ゾンビ・ガールへの攻撃はどうなる!」
「ゾンビ・ガールへの攻撃は自動的にダスク・モナークへと行きます! もちろんガードしますよ」
本来ならば、ディフェンスマジックを使用後、攻撃はそのまま選択されたゾンビ・ガールへと行く。ディフェンスマジックに攻撃を無効にすると明記されていないからだ。
けれど、召喚されたのはダスク・モナーク。召喚されたと同時に効果は発動し、攻撃対象はこのモンスターしか選べない。
ディフェンスマジックの処理→召喚を確認→召喚したと同時に発動する効果が発動→攻撃という順番になる。よって、ダスク・モナークの効果により攻撃対象はこのモンスターへと移るのだ。
「なんだよ、それ! 意味わかんねぇ!」
「まぁ、効果処理って難しいですもんねぇ……」
「攻撃無しには……」
「できませんよ」
練習や交流とは違い真剣勝負の場で一度、宣言したことを取り消すことはできない。もう処理されてますしと咲夜はオルターを指す。
【爆破竜―イクスプロ―ジョン・ドラゴン 攻撃2800
ガード宣言 常夜の国―ダスク・モナーク HP6500からHP5100へ】
処理の終わった状況を見て健太はくっそと小さく吐く。それでも、負けるとは思っていないのかこのままやってやるとイクスプロ―ジョン・ドラゴンの効果を発動させる。
「こいつは二回攻撃が行える! もう一度、攻撃だ!」
「では、攻撃はダスク・モナークへと強制的に向かいます」
イクスプロ―ジョン・ドラゴンの火球が再び襲う。それを大鎌で弾き飛ばし、涼しい顔をダスク・モナークは向けていた。
【爆破竜―イクスプロ―ジョン・ドラゴン 攻撃2800
ガード宣言 常夜の国―ダスク・モナーク HP5100からHP3700へ】
「守りを固めてきたってドラゴンの火力には敵わないんだよ! 次のターンでお前の切り札はセメタリ―行きだ!」
「そうかもしれません……では、私のターン」
健太の煽りに咲夜は眉を寄せるも乗らないようにする。言われて嫌な気分にはなるものの、そのせいで判断を間違えては相手の思うツボだ。冷静になれというのが神威のアドバイスだったので、それに気を付けながらカードを引く。
引いたカードを確認すると咲夜はよしと小さく呟き魔法カードを発動させた。
「手札の魔法カードを一枚捨て、魔法カードを発動! ゾンビ・パレード! これは墓地にゾンビと名のつくカードが一枚以上存在する時に発動可能となり、発動処理としてランパートに防壁カードとして設置する!」
フィールドが途端に墓場へと姿を変える。そして、地面からゾンビたちが顔を覗かせていた。満月の夜に騒がしい声が響く。
「そして、防壁効果発動! 一ターンに一度、ゾンビと名のつくモンスターをセメタリ―から一体召喚できる! ゾンビ・ボーイを選び、召喚します!」
ゾンビ・ガールの隣にゾンビ・ボーイが復活した。二体はダスク・モナークを挟むように並び立ち、武器を構える。
「さらにゾンビ・パレードの効果! フィールドににゾンビと名のつくモンスターが二体以上存在する時、自身フィールド上のモンスターの攻撃はHPオーバー分貫通する! ゾンビ・ガールとゾンビ・ボーイが場にいることで条件を満たしています! よって、ダスク・モナークの攻撃は貫通する!」
「は、はぁ? そ、そんなの怖くねぇし。かかってこいや!」
健太の言葉に言われなくともと返した咲夜はゾンビ・ボーイでウィンド・ドラゴンを攻撃する。ガード宣言をするも、ウィンド・ドラゴンは破壊されてしまった。そして、ランパートへとダメージが貫通する。
【防壁カード効果発動 貫通ダメージ―150
健太―ランパート(5000)から(4850)へ】
(えっと、ガード宣言したら、ブロックはできないから狙うならイクスプロ―ジョン・ドラゴンで……。ゾンビ・ガールで狙えば……。でも、ディフェンスマジックとかあるかも……)
咲夜は次の攻撃先をどうするか思案する。このままイクスプロ―ジョン・ドラゴンに攻撃し、ダスク・モナークでランパートを狙うのがダメージ的にいいのか。
イクスプロ―ジョン・ドラゴンを倒しにかかるのがいいのか。あまり考えすぎては相手を待たせかねない。咲夜はダスク・モナークにランパートへと攻撃を指示する。
「ブロックするに決まっているだろ!」
ダスク・モナークの攻撃はイクスプロ―ジョン・ドラゴンが盾となり守られてしまう。
【常夜の国―ダスク・モナーク 攻撃2800
ガード宣言 爆破竜―イクスプロ―ジョン・ドラゴン HP2000からHP600へ】
ダスク・モナークはフィールドに死霊族モンスターが存在する時、相手のモンスター・魔法の効果を受けない。このモンスターに対してのディフェンスマジックは通用しないため、咲夜は先に攻撃することにしたのだ。
そのままゾンビ・ガールがランパートへと駆け飛び、バールのようなものを振りかぶった。みしりと悲鳴を上げてランパートに傷が入る。
【ゾンビ・ガール 攻撃1600
健太―ランパート(4850)から(3250)へ】
咲夜の攻撃を防ぎ切った健太はこれぐらいハンデと笑いながらカードを引く。そして、モンスターを二体召喚した。
「フロスト・ドラゴンを二体召喚! こいつは通常モンスターなのに攻撃力が2000あるんだぜ!」
霜を纏った白い東洋竜が二体、現れる。咲夜はモンスターの効果を確認した。
(攻撃2000、HP100の通常モンスター。効果は無いと……)
攻撃力が高く簡単に出せる通常モンスターということで効果は無く、HPも低く設定されている。それでも、火力は申し分ない。
「さらにイクスプロ―ジョン・ドラゴンの効果! 一ターンに一度、モンスターを破壊することができる!」
「ダスク・モナークはフィールドに死霊族モンスターが存在する時、相手のモンスター・魔法の効果を受けません!」
「っち、面倒くせぇ……。ゾンビ・ガールを選択するぜ!」
イクスプロ―ジョン・ドラゴンの身体から溢れる液体を被り、ゾンビ・ガールは爆発した。咲夜の場には二体のモンスターしか存在しない。
でも、このターンでダスク・モナークは倒れるだろう。健太はにやりと笑む。
「もちろん、攻撃だ! イクスプロ―ジョン・ドラゴンで二回攻撃!」
「攻撃は全てダスク・モナークへ! もちろん、ガード宣言します!」
【一回目の攻撃 爆破竜―イクスプロ―ジョン・ドラゴン 攻撃2800
ガード宣言 常夜の国―ダスク・モナーク HP3700からHP2400へ】
二度目の攻撃を何とか受け流すも、ダスク・モナークのHPは残りわずかだ。
【二回目の攻撃 爆破竜―イクスプロ―ジョン・ドラゴン 攻撃2800
ガード宣言 常夜の国―ダスク・モナーク HP2400からHP1000へ】
これで終わりだと健太は一体目のフロスト・ドラゴンで攻撃を指示した時だ。咲夜が叫ぶ。
「ここでセメタリ―にいるゾンビ・スクードの効果発動!」
ふわりとダスク・モナークの前に白い衣を纏った大楯を持つゾンビの少女が現れる。それはフロスト・ドラゴンの攻撃を受け止めた。
「ゾンビ・スクードの効果! このモンスターがセメタリ―に存在し、死霊族進化モンスターが破壊される攻撃を受けた時、セメタリ―にいるこのカードをデッキに戻して攻撃を無効にし、このターン破壊を防ぐ!」
さらさらと消えていくゾンビ・スクードを見送りながら咲夜は言った。
(そんなカード、いつの間にセメタリ―に……あ、あの時!)
健太は思い出す。自身の最初のターンに相手の手札を一枚、セメタリ―に送っていたことを。その時に見たカードがゾンビ・スクードだった。
「くそ、通常召喚を二回行ったターンはどちらか一体しか攻撃できない……いや、できたとしてもダスク・モナークはこのターン破壊を防がれる……。ターンを終えるしかない……」
「私のターンですね。防壁カード、ゾンビ・パレードの効果でセメタリ―からゾンビと名のつくモンスターを召喚できるので、ゾンビ・ガールを復活させます」
ぴょんっと跳ねるように召喚されたゾンビ・ガールはイクスプロ―ジョン・ドラゴンを睨むように見つめていた。
そしてさらに手札からモンスターを一体、召喚する。巫女衣装のゾンビな幼女が現れたかと思うと鈴を鳴らした。
「ゾンビ・ヒーラーを召喚! 効果発動! 死霊族モンスターのHPを1000回復させます。選択するのはダスク・モナーク!」
【ゾンビ・ヒーラーの効果 HP+1000
常夜の国―ダスク・モナーク HP1000からHP2000へ】
咲夜はバトルを宣言する。ゾンビ・ヒーラーがフロスト・ドラゴンに鈴を思いっきり投げつけた。しゃんしゃんと鳴り響く鈴の音と共に破壊されてしまう。
【攻撃貫通 健太―ランパート(3250)から(2850)へ】
さらにゾンビ・ボーイが首バットでフロスト・ドラゴンを殴り飛ばした。ぶさらさらと霜が弾けるように破壊される。
【攻撃貫通 健太―ランパート(2850)から(2200)へ】
ゾンビ・ガールがイクスプロ―ジョン・ドラゴンへと走り、バールのようなもので思いっきり頭部を殴る。HPの少なかったイクスプロ―ジョン・ドラゴンは爆発するように消えていった。
【攻撃貫通 健太―ランパート(2200)から(2000)へ】
そして、ランパートへとダスク・モナークの攻撃が向かう。振り下ろされる大鎌に健太は慌ててプロテクトを発動させた。
薄緑のベールが攻撃を受け止め、弾き返す。ダスク・モナークは眉を寄せながら大鎌を構えなおした。
「は、嘘だろ」
健太は後が無くなったことに気づいたのか信じられない様子だ。手札とフィールドを見合いながら動揺している。
ランパートの耐久は2000。フィールドにはモンスターがおらず、プロテクトも使用してしまった。手札は僅か二枚。相手のモンスターは四体存在する。
「お、オレが負けるわけない!」
震える手を動かし、健太は魔法カード発動させる。
「進化の秘跡! セメタリ―から進化モンスターをデッキに戻すことで相手のモンスターを一体、破壊する!」
「ダスク・モナークは効果を受けませんからね?」
指さす健太にもう一度、伝える。場に死霊族モンスターが存在する時、相手のモンスター・魔法の効果は受けない。わなわなと迷わせる指先は頼りなかった。
「……ゾンビ・ガールを破壊する」
ゾンビ・ガールは破壊され、セメタリーへと消えていった。健太は震える手でモンスターを一体、召喚する。水色の東洋竜がぬっと地面から這い出てきた。
「ウォーター・ドラゴンでゾンビ・ヒーラーに攻撃……」
「ガード宣言、しても駄目ですね。モンスターの効果は?」
「今は意味がない……」
ウォーター・ドラゴンの攻撃により、ゾンビ・ヒーラーは倒されてしまう。このモンスターの効果は進化モンスターが存在しなければ意味がない。健太はターンを終了させた。
「私のターンですね。防壁カード、ゾンビ・パレードの効果が発動。ゾンビ・ガールを復活させます」
再び復活したゾンビ・ガールはバールのようなものを構える。咲夜はゾンビ・ボーイでウォーター・ドラゴンを攻撃した。
【ゾンビ・ボーイ 攻撃1500
ウォーター・ドラゴン HP1400からHP650へ】
続けてダスク・モナークがランパートへと攻撃する。振り下ろされた大鎌により、城壁は崩れ落ちた。
「ゾンビ・ガールで止めです」
ゾンビ・ガールのバールのようなものが健太を襲う―咲夜の勝利は決まった。
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