第15話:調子に乗るのもほどほどに
「嘘だ!」
健太は膝をつきながら首を振る。結果が信じられないのだろう。それも散々馬鹿にしてきた死霊族デッキに負けたのだから余計だ。
黙ってバトルを見ていたマリアと百合子が駆け寄ってくる。
「健太、ほらあんたより強いトーカーがいるでしょ?」
「ふざけんな! こんなの無しだ無し! オレが負けるわけねぇもん!」
百合子の言葉など耳にかさず、駄々をこねる子供のように無しだと言い続ける。
「これは現実よ、いい加減に受け入れなさい!」
マリアは叱るように言い果つ。それは強く、覇気のある声で健太はぴたりと黙った。
全くと呆れたように腕を腰に当てながら彼女は言う。これは現実であり、アナタは負けたのだと。
「負けるのも当然よ。何処が強いと言い切れるのかしら?」
「なんだと!」
「わたくしから指摘するよりも、プロから指摘されたほうがいいでしょう。そうですわよね、神威様」
そう言って振り返るマリアの視線の先には呆れたような様子の神威がいた。はぁと溜息を零しながら彼は四人の元へと近寄る。
あのプロトーカー、九条神威だと気づいた健太は動揺したように百合子を見た。
「お前か、調子に乗って暴れていたやつは。しっかりとバトル見てたぞ」
「あ、本物……」
「偽物がいるか。で、お前の敗因は相手のデッキの特性に気づかなかったことだ」
一ターン目の動き方で相手の扱っているデッキの種族や回し方というのが分かる。特に健太は相手が動く前に手札をセメタリ―へ送り、カードを確認している。モンスターカードならば、種族が分かるため何のデッキなのか把握するカギになる。
さらにエフェクト(効果)モンスターならば、その効果で相手がどういう動きをできるかなどの判断材料になる。けれど、健太はその確認を怠った。
咲夜がモンスター効果でデッキを圧縮しつつ、手札を回していたことを何とも思わずにいたことも敗因の一つだ。手札が潤滑であるためにディフェンスマジックを持っている可能性というのがある。そして、セメタリ―を肥やしていたことにも気づくのが遅すぎた。
「ゾンビ・パレードを発動する前、コピットを召喚した時点でセメタリ―へ故意にカードを送っていると判断できる。こいつのデッキが墓地利用デッキであることは予測の一つに入る」
召喚条件を満たすための作戦、墓地を利用するための行為と絞っていくことができる。自身の盤面だけを見ていては意味はない。
「ドラゴン軸デッキは確かに高火力を出せる。速攻型や高火力攻めなどデッキの種類は豊富だ。大会でも人気のテーマでもある。それがゆえに対策はされる」
人気テーマ、種族ほど大会では対策される。観客を楽しませるためのゲストカードファイトとは違い、大会というのは競い合う場だ。勝つために対策というのをするのは当然のこと。
「お前は大会でも余裕と言っているみたいだが、はっきり言って無理だ。相手の動きを見極めることもできず、自分勝手なプレイングしかできないトーカーは負ける」
そもそも、種族の良し悪しを火力が高いかどうかで決めている時点で駄目だ。きっぱりと言い切る神威の言葉に健太は何も言い返すことができない。
指摘されることで自身のプレイに問題があったと気づいたのだろう。へこんだようにただただ神威を眺めることしかできない様子だ。
「各属性、各種族、各テーマには良い点と悪い点がある。それをどれだけ組み合わせて上手く纏めるかが大事だ。あと、圧倒的に守りが薄すぎるんだよ、お前のデッキ」
「ですよね……ディフェンスマジック飛んでこなくてびっくりしました……」
強いと聞いていた咲夜はディフェンスマジックなども多用してくるようなタイプなのだろうかと想像していた。けれど、対戦してみると攻撃特化のようなプレイングで困惑した。
「お前は守りに行き過ぎて、攻めが弱いんだよ」
「うぅ……でも、今回は頑張ったと思うんですよー。アドバイス通りにやってみましたしー」
「アドバイス?」
百合子は首を傾げる。咲夜は実はですねと神威からアドバイスをもらっていたことを話した。
神威から相手が何のデッキでくるか分からない以上、対策というのは立てづらいと言った。それでも、メジャーな対策方法であるディフェンスマジックを入れることはできる。
『コンボを何種類か詰め込むんだ。今のお前のデッキはコピットのコンボしか入ってねぇだろ。まだ枠に余裕がある。コピット以外のモンスターや魔法カードを使用するコンボをもう一つか二つ組み込むんだ』
何種類かコンボや派生があれば、相手の盤面や動きで切り返すことができる。今のままではコピットのコンボを封じられたら何もできない。そんな時のために別の動きもできるようにするために別のものを組み込んでおくと動きを止めなくて済む。
そうアドバイスをもらった咲夜は今回、ゾンビ軸のコンボを組み込んだのだ。
「まだ不安が残るがな」
「やっぱり、不安定ですかねぇ……」
「アドバイスなんて卑怯だ!」
健太は指さしながら叫ぶ。プロトーカーのアドバイスがあったなら、負けても仕方ないじゃないかと。そんな言葉に神威ははぁっと声を上げた。
「お前は今まで誰かのアドバイスを聞いてきたのか? 委員長の話だと一切、人の話は聞かないらしいな? あと、プロトーカーの番組でアドバイスなんかやっているのを見ても小馬鹿にしてるとも聞いたぞ?」
「そ、それは……」
「アドバイス以前にさっき指摘したことができてねぇ時点でお前は負けてたんだよ。速攻型のように見せたただの火力ごり押しで守りの浅いデッキなんざ負けるぞ」
防御重視デッキでも攻めに持ち込めるコンボやカードが存在する。それは攻撃重視のデッキでもそうだ。守りることもできるように調整されている。
そのバランスを上手く保てていない健太のデッキでは仮に咲夜に勝ったとしても、大会参加の猛者たちによってボロボロにされるのはプロトーカーである神威には見えていた。
「お前は人にアドバイスできるほど上手くも強くもない。それにメジャーな種族やテーマだからと言って最強というわけでもない。必ず対策はされるし、他の種族やテーマにも良し悪しはある」
そこを理解できないのならこの先、何度も負けることになる。神威の厳しい言葉に健太は反論することができない。
何か言い返したかったけれど、言われた一つ一つの言葉が胸に突き刺さる。
「お前が強いんじゃなくて、ドラゴンが強いんだよ」
その言葉に健太は崩れた。自身の腕が良かったのではない、ドラゴンがカードが強かったのだと理解した。
「け、結構ざっくざっく刺していくんですね……」
「調子に乗っている奴は容赦なく言わないと理解しねぇからな」
「わたくしもそう思いますわよ」
あの態度なのだ、オブラートに包んでも分かろうとしないだろう。ならば、はっきりとばっさりと言ってやるしかない。
その結果、相手がへこんだとしてもそれは今までたちゃんと理解しようとしなかった自身のせいだとしか言いようがないのだ。
「健太」
「……なに、姉貴……」
「九条君のアドバイス、あんたが他の子に言うのと全然違うでしょ?」
あんたは小馬鹿にするように当たってもいないアドバイスをするけれど、神威はちゃんと相手の動き方を見て悪い点をはっきりと言ってくれる。どうすればいいのかもちゃんと伝えてくれている。
「九条君はあんたを馬鹿にしながら言ってない。叱ってくれながらアドバイスをしてくれているんだよ?」
誰も叱ってくれないアンタを叱り、アドバイスをしてくれている。その言葉に健太は目を見開く。
神威は確かに馬鹿にはしていない。口調は悪いけれど、ちゃんと悪い所を指摘してアドバイスをしていた。叱っていると言えば、確かにその通りかもしれない。
「アンタ、わたしの言葉一切聞かないからさ。いつかトラブル起こしたらどうしようかって、心配だったんだよ?」
年下や近所の子に対する態度、カードファイトでのプレイング。それらは迷惑行為として見られてしまう。そうなれば、誰も近寄ってくることはなく一人になってしまう。
「アンタがひとりぼっちになるのは嫌だよ。カードファイト楽しいんでしょ? 大会出たいんでしょ? なら、態度を改めな。そして、九条君のアドバイスをしっかり耳にしなさい」
真剣な眼で百合子は言う。そんな姉の姿を見たのは初めてだった健太は目を瞬かせていた。
姉が心配してくれている。自身の今までの行いを振り返り、健太は指摘されたことを理解した。
「姉貴、ごめん……」
「分かればいいの。他の子にもちゃんと謝ろうね?」
一緒に行くから。百合子の言葉に健太は黙って頷いた。
***
「三人とも、本当にありがとうございます」
「気にしないでください。でもはらはらするお願いは止めてくださいね?」
「ごめんね、咲夜さん」
百合子は頭を下げて三人に礼を言う。傍に居る健太も反省した様子だ。伸びていた鼻をへし折られたように大人しくなっていた。
そのまま二人と別れた咲夜はやっと緊張から解放されたと背伸びをする。そんな彼女に神威はお前なと呆れたふうに見つめていた。
「もう少し対戦に慣れろ」
「えぇ、これでも頑張ったんですよ。それにこれは良い経験では!」
「まぁ、経験にはなったな」
「デッキの回し方がだいぶ上手くなっていましたわね」
それでもまだまだといったふうの神威に咲夜はうぇぇと声を零す。自分なりにやったほうだけどなぁと思うのだが、彼に言わせればまだ指摘する点が多いらしい。
これはいろいろ言われるなぁと肩を落とす咲夜にマリアがぽんっと叩く。
「神威様とグラン様のカードファイトが見れますから勉強になりますわよ」
「あ、そうだった!」
そうだ、ゲストカードファイトが見れるんだったと咲夜は表情を明るくさせる。そんな二人に神威は嫌そうに眉を寄せていた。
「応援してますわね、神威様!」
「期待が重い」
「だ、大丈夫ですって!」
「お前はわくわくしすぎなんだよ」
だって楽しみなんですもんと咲夜は笑みをみせながら、マリアに声をかけている。二人がどんな感じだろうかと話し始めてしまい、神威はこれは入っていけないなと小さく溜息をついた。
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