第四章……グランVS神威
第16話:対戦の幕開け
大会当日、咲夜はマリアと共に企業祭を見て回ることにした。同じ最前列で席も近いこともあり二人は一緒に企業祭に参加することにしたのだ。
「ほんとに、勿体無いですわ」
マリアは腕を組んでもうっとむくれている。咲夜はうーんと自身のスカートの裾を上げた。
気合を入れてきたのか、マリアの服装は派手であった。ゴシック調の白いシャツにギンガムチェックのフレアスカート、黒いフリルの日傘。とても可愛らしく、マリアによく似合っていた。
「神威様のカードファイトですもの!」
彼女はそう言ってスカートを翻していた。
咲夜はといえばストライプシャツに水色のプリーツスカートときっちり感のある服装だ。マリアには「もっと可愛らしいく!」と絶対に似合うのにと言われてしまった。
『何がいけないというのだ』
マリアの様子にダスク・モナークは意味が分からないと首を傾げている。そんな彼にスノー・ブルームが答える。
『マリアは貴方のマスターをもっと素敵にしてあげたいのでしょう』
『……わからん』
理解できないといったふうに腕を組むダスク・モナークにスノー・ブルームは「殿方には解らないかもしれませんね」とくすりと笑った。
「他の人もAI表示させてるんですね」
「こういう大会では常に表示させている方が殆どですのよ」
周囲を見渡せば多くの人が自身のモンスターAIを表示させていた。
レコード・トーカーは規模の大きいジャンルではあるものの、街中で多くの人がAIを表示している訳ではない。
普段からモンスターAIを表示させている人もいれば、学校や家でのみという人もいる。一部の公共施設ではモンスターAIの表示を規制しているところも存在した。
「モンスターAIの中には露出の高いモンスターや、グロテスクなモンスターもいますわ。そんなモンスターAIも大会なんかでは解禁されますの」
サポートに指定しているモンスターAIは言わば自身の推しなのだ。大会はそれを披露する場でもあった。
普段以上に様々なモンスターAIが表示されている中、咲夜はマリアの説明を聞きながら周囲に表示されているモンスターを観察する。
ドレスを着飾ったモンスターや、騎士の姿をしたモンスターがマスターの傍を浮遊している。レコードスコープをかけながらあのモンスターは何だろうかと咲夜は興味津々だった。
「にしても、やはり目立ちますわね。ダスク・モナーク」
「えっ?」
きょろきょろと見渡せば自身の後ろに浮いているダスク・モナークに視線がいくつか集まっていた。ひそひそと声も聞こえてくる。
「珍しいですものねぇ。プレミアついていますし」
「それにダスク・モナーク様、かっこいいですもんね!」
「貴女、そこ強調させますわね……」
マリアにも神威の時のようにダスク・モナークのことを語ったのだろう。マリアは呆れていた。
「いやね、もうね、カッコイイじゃないですか。もう、目を合わせるのも恐れ多い……っ」
あぁと後ろを見ては顔を覆っている。そんな咲夜の様子にすっかり慣れてしまったのか、ダスク・モナークは微動だにしない。
『褒められて悪い気はしない』
「AIもそういうものなのかしら?」
高性能よねぇとマリアはスノー・ブルームを見遣る。スノー・ブルームはにこにこと笑みを浮かべながらマリアに抱きついていた。
そんなふうに会話をしながら、様々な企業の展示物や出店を堪能しつつ、時間もそろそろといった頃にステージへと二人は向かった。
***
ステージには多くの観覧者が集まっていた。設置された大画面のモニターには白色のスーツに身を包むグランと、ラフではあるものの、赤と黒を貴重にした服装の神威の姿が映し出されている。
白いスーツはグランのカードファイトをする時の勝負服のようだ。それはグランに良く映えていた。神威は対戦によって服装というのは決めていないらしい。けれど、ポニーテールに結われた長い紅髪と相まってか、ラフな格好には見えず似合っていた。
「はーい! 今回のゲストカードファイトのジャッジを務めるファイター・ジョーだ! みんなよろしくな!」
つんつんと黒髪を立たせている男性がステージに降り立ち、マイク片手に司会進行を始めた。
「試合形式は通常ルール、対戦は一試合のみだっ!」
ルールの説明と対戦相手の紹介を済ませるとジョーは二人に合図を送る。それに合わせるように二人はオルターを起動させた。
「ランパートに防壁カードはセットしたね? それじゃあ始めようっ!」
カードファイト。ジョーの掛け声で試合は開始された。
【神威 初期設置防壁カード―特殊指令「自身の使用する魔法カードを三回防がれない」
(※魔法カード使用四回目以降は対象外)
グラン 初期設置防壁カード―攻撃指令「三回モンスター効果を無効にされない」
(※効果モンスター召喚四体目以降は対象外)】
(相変わらず、攻撃型だな)
神威はグランの設置した初期防壁カードを確認すると自身の手札に目を向ける。悪くは無い手札だった。それはグランも同じようで余裕の表情を向けている。
「先攻、僕のターン! 僕はダーク・ナイツ・ドラゴンを二体召喚して、ターンエンドだ」
黒い薄羽根の西洋竜が二体、空間を裂くように現れた。小さい翼をはばたかせ、飛び交っている。
(次のターンにくるか……)
ダーク・ナイツ・ドラゴンは闇属性のドラゴン進化モンスターを召喚する時、このモンスター一体で召喚条件分のモンスターとして扱う。この効果で次のターン、切り札を召喚してくる可能性がある。
(早いうちに手札に加えねぇと……)
自身のパートナーであり切り札であるモンスター。それを加えるための準備をしなくてはならない。神威はデッキからカードを引いた。
「俺のターン、ドロー。……俺はマシーン・パロットを召喚!」
『アー!』
白い機械的なオウム姿の鳥が地面からぬっと飛び出した。獣族と機械族の二種族を併せ持つモンスターだ。召喚と同時にマシーン・パロットの効果が発動する。
「さらに効果を発動! デッキから機械族モンスターを一体手札に――」
「ディフェンスマジック発動! その効果を無効にする!」
グランはすかさずディフェンスマジックを発動させる。空間が歪み、緑の風が襲う。突然の突風に吹き飛ばれたマシーン・パロットは目を回していた。
「そう簡単には君の切り札を手札には加えさせないよ」
手は読めているとグランは片笑む。神威は小さくくそっと呟くともう一体、モンスターを召喚した。シルバーの機械的な小さなドラゴンがバチバチと音を鳴らし姿を現す。それは機械族とドラゴン族を併せ持つモンスターだった。
「……機械竜―マシン・ドラコを召喚。マシーン・パロットでランパートに攻撃!」
「もちろん、ダーク・ナイツ・ドラゴンでブロックだ!」
突進するようにマシーン・パロットは回転しながら飛ぶ。ダーク・ナイツ・ドラゴンはその攻撃を防いだ。
【マシーン・パロット 攻撃1000
ダーク・ナイツ・ドラゴン HP1300 残り800】
痛くもないそんなふうにダーク・ナイツ・ドラゴンは頬を掻く。このターン、攻撃できるモンスターはいない。神威はそのままターンを終了した。
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