第31話:ランキングの結果



 あぁ、別に何か思ったとかではないですよと咲夜は慌てて言う。



「神威くん優しいのは分かっていましたが、あの時のこと気にしてたんだなぁって。それが意外だっただけで……」



 勉強を教えてもらうかわりといっても、初心者にカードゲームを教えるのは根気がいる作業である。


 何せ一から手順を教えるだけでなく、デッキの組み方からモンスターや魔法カードの効果処理の方法等様々なことを分かりやすく伝えなくてはならない。


 それだけではなく、彼は自身の高価なカードを咲夜に貸してくれているのだ。そんな彼を優しく感じるも、過ぎたことを気にするような性格には思えなかったのだ。



「生意気だぞ、九条神威っ! フシャーっ!」

「うっせぇぞ、祭!」



 フシャーと猫のように祭は神威を威嚇する。過去にいろいろ言われたのを未だに根に持っているのだと、その様子に困惑している咲夜に菖蒲が訳を話した。



『仮初のマスターよ』



 ふいにダスク・モナークに声をかけられる。振り向けばオルターを指差してした。


 知らせがきていると指摘され、オルターを確認するとランプが点滅していた。なんだろうかとオルターを操作し、咲夜は目を見開く。



「……ふぁっ!」

「どうしましたの?」



 咲夜は驚愕したように口元を覆う。声を出したまま固まっている咲夜にマリアはオルターを覗き込んだ。


【ポイント集計 ランキング=ビギナー・ジャック1


 ビギナーに昇格しました。ポイント報酬を受け取ってください】


 オルターに記されたビギナー昇格の文字にマリアは咲夜を揺する。



「やったじゃないですのっ! ビギナー昇格おめどうございますわ!」



 震える手でオルターの画面を神威のほうに向けた。神威はそんなことで驚くのかといったふうに息をつく。



「やればできるだろうが、お前」

「う、うわぁぁぁぁぁ」



 この短い期間で信じられないと咲夜は嬉しさに悶える。そんな姿に何が起こっているんだと菖蒲は目を丸くし、祭は不思議な生き物をみるような眼差しである。



「あー、これにはわけがあってね」



 グランが二人に事情を説明する。それを聞き、菖蒲はもう少し他にあっただろうにと神威の課題に呆れ、祭はふふんと良いことをしたといったふうに胸を張る。



「ボクと菖蒲お姉様に感謝するのですよ~」

「こら、調子に乗るな、祭」

「てへっ」



 菖蒲にこつんと頭を優しく小突かれると悪びれる様子もなく可愛く祭は舌を出す。そんな祭に貴方って人はとマリアは呆れる。



「ほ、ほんとですか……本当なんですかぁぁ」



 マリアの説教など耳にも入らず、咲夜はオルターを眺めている。神威の課題。それをクリアした時、ダスク・モナークの正式なマスターに。



「嘘はつかねぇよ」



 咲夜の眼差しに神威は断言する。



「ダスク・モナークのマスターはお前だ、咲夜」



 うわぁぁと咲夜は叫ぶとマリアに抱きついた。突然、抱き着かれたマリアは祭への説教をやめどうしましたの! と驚いたふうに咲夜を見る。



「マリアちゃんのおかげだよぉぉぉぉお」


「何を言ってますの、今回のファイトは咲夜さんの黄泉桜のおかげですわ!」


「あれはきのう手に入れたカードでぇぇ、マリアちゃんの、スノー・ブルームのおかげぇぇ」



 嬉しさのあまり語彙力が低下している咲夜をマリアは慌ててあやす。よぼど嬉しかったのだろう。何を言っているのかさっぱり分からないほど語彙力が死んでいた。



「そんなにダスク・モナークが好きなのか?」

「なんでも子供の頃に一目惚れしたんだとよ」

「なるほど」



 神威の言葉に菖蒲は咲夜を見遣る。


 一目惚れしたカードが手に入る、それはずっとずっと待ち望んでいたならば嬉しさというのは胸がはち切れるものになるのだろう。


 それの気持ちは分からなくもない、分からなくもないがと菖蒲は苦笑した。



「それにしては異常ではないか?」

「それはみんな思ってることだ」



 もう慣れたといったふうの神威に「これが二次元に恋する乙女か……分かるぞ」と祭はうんうんと頷いていた。


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