第30話:氷の玉座が導く勝利
「セイント・ローズのHPが400……守ったほうか」
咲夜がターン終了を宣言し、菖蒲はセイント・ローズを見詰めながら呟いた。
相手のフィールドには切り札、一度は倒したスノー・ブルームが戻ってきている。そして、壁としても攻撃としても優秀なダスク・モナーク。
自身の場が不利であることに菖蒲は苦しげに表情を歪めるも諦めはしない。
「やるだけのことはやる、諦めはしない!」
菖蒲はモンスターを二体召喚する。白と赤の薔薇を散りばめたドレスを着飾る女性が二体、フィールドに召喚される。
「薔薇乙女の従者―ティー・ローズを二体召喚。セイント・ローズの効果発動、攻撃力が+600される」
セイント・ローズの攻撃力は3100となった。
(……とは言ったものの、あのダスク・モナークが厄介だ)
ダスク・モナークのHPは効果により6500となっている。自身の場には三体のモンスター。
攻撃はダスク・モナークにしか向けることができない。ガードされることは間違いなく、ダメージは半減される。
死霊族が付与されているスノー・ブルームがいる限り、ダスク・モナークには魔法・モンスター効果が通用しない。
「壁モンスターはやはり厄介だな」
菖蒲は腕を前に出し、ティー・ローズに指示を出す。一体のティー・ローズは茨のついた薔薇を突風のように吹かせた。その攻撃はダスク・モナークへと吸い寄せられる。
「モンスター効果により、攻撃は全てダスク・モナークに!」
ダスク・モナークは大鎌を振り、薔薇の突風を掻き消す。薔薇が消えたかと思うとセイント・ローズが剣を振りかざしていた。
『っ!』
その剣を大鎌で防ぎ、弾くとダスク・モナークはセイント・ローズを跳ね返した。セイント・ローズはくるりと宙で一回転すると綺麗に着地する。
【常夜の国―ダスク・モナーク 残りHP3450】
(がっつり減らされたっ……)
まだHPは残っているものの、維持できるのは次のターンまでだろう。黄泉桜が機能しているとはいえ、祭のターンで奇策をされればそれも崩壊する。
(絶対、魔法カードがあるっ)
死霊族が場にいるかぎり、ダスク・モナークに相手の魔法・モンスター効果は通用しないとはいえ、スノー・ブルームに対してならば使える。
そう考え咲夜はマリアの方を見る。ターンの回ってきたマリアは引いたカードに瞼を閉じ、そしてかっと見開いた。
「咲夜さんっ!」
マリアはモンスターを一体召喚すると叫ぶ。
「この勝負、貰いましたわっ!」
雪の妖精、白いふわふわした可愛らしい容姿の幼女がぴょんっとジャンプする。それは周囲を見渡すとスノー・ブルームの背後に隠れてしまった。
「氷の雪妖精―スノーベルを召喚! スノーベルの効果! 召喚時、モンスター一体の行動を無効化にする! 選択するのはセイント・ローズ! さらに防壁カードの効果により、セメタリーからモンスターを召喚、私が召喚するのはアイス・ナイン!」
スノーベルが手にしたベルを鳴らすとセイント・ローズの足元が凍る。そして、深い闇からアイス・ナインが甦った。
アイス・ナインの攻撃力は二枚の防壁カードの効果により3500となっていた。マリアはさらに魔法カードを発動させる。
「魔法カードを発動! 場にスノー・ブルームが存在する時に発動が可能となり、このカードは防壁カードとしてセットする!」
夜空に桜の花弁とともに雪が舞う。スノー・ブルームの背後に氷の玉座が出現すると女帝は優雅に腰を下ろした。
「氷の玉座の効果、自フィールドに存在するモンスターに氷の名を与える。この効果で名を与えられたカードは氷のと名の付く~と記載されているカード効果の範囲内となる!」
スノー・ブルームがロットを振ると、氷の名を与えられたカオス・ヘルカイザーはスノー・ワールドの効果により攻撃力が上昇した。
「私は氷の玉座のさらなる効果でスノー・ブルームを選択し、さらに魔法カードを発動! このターン、相手の魔法カードの効果を受け付けない!」
「何っ⁉」
菖蒲は自身の手札に見る。マリアはモンスターを召喚するだけで菖蒲が終わらせるわけがない、そう読んでいた。
「さぁ、攻撃の時間ですわっ」
マリアはアイス・ナインで攻撃を仕掛ける。それをティー・ローズが庇う。
破壊されたティー・ローズの受けたダメージのオーバー分を菖蒲たちのランパートを襲う。そこへダスク・モナークの攻撃も飛んできた。
【菖蒲・祭ペア ランパートー残り(2550)】
「場にはセイント・ローズ以外いませんわ、スノー・ブルームで攻撃!」
「プロテクトを使用!」
スノー・ブルームの息吹は緑のベール弾かれる。
「これで……」
「まだですのよ!」
マリアは指差す、氷の玉座が輝きを放っていた。光り輝く玉座、それはスノー・ブルームを称えるように効果を発揮する。
「氷の玉座のさらなる効果! 氷のと名のつくモンスターを選択する、そのモンスターは場にいるモンスターをセメタリーに送るたびに攻撃を可能とする! 私は先ほど、スノー・ブルームを選択していましたわっ!」
「はぁあっ⁈」
アイス・ナインをセメタリーに送りスノー・ブルームは再び息吹く。菖蒲はプロテクトを使用し、それを阻止するが効果は終わらない。
スノーベルがセメタリーに送られ、ランパートの耐久は0となってしまった。
「そして、さらに」
ちらりとマリアは咲夜に視線を送る。それ気がついた咲夜はうんと頷き返した。
「ダスク・モナークをセメタリーに送り、スノー・ブルームの攻撃!」
ダスク・モナークはスノー・ブルームに後を託すように目を細め頷き、セメタリーへと送られる。
スノー・ブルームはその意志を受け継ぐかのように再び、氷の息吹を放った。守る手段のなくなったランパートは崩壊する。
「勝者、マリア・咲夜ペア!」
竜真の宣言に場が沸く。祭のファンは泣きながら「まつりんよくがんばったぁー」と声をかけていた。
勝てた、プロに。信じられないといったふうに二人は顔を見合わせた。
「いやー、完敗だ。二人とも良いファイトをありがとう」
「此方こそ、有難うございます」
菖蒲は二人の前まで歩み寄ると手を差し出した。咲夜はその手を取り握手を交わす。菖蒲は弟が本当に申し訳なかったとマリアに謝罪する。
祭は一度言い出したらきかない。今回のカードファイトも祭が言い出したことであった。
二人でやればいいものを、タッグファイトを勝手に口に出し決まってしまった。菖蒲は苦笑すると頬を掻いた。
「私は弟に甘いらしい。それに久々に一般の方とも対戦をしてみたいという欲が出て……」
「プロトーカーは大変やからのぉう。気軽に楽しむプレイもたまにはしたいっつう気持ちは分からんでもない。でも、弟に甘いのもどうかと思うぞ」
竜真は三人の元へと近寄りながら苦言する。菖蒲はやはりと自身の弟への甘い行動を自覚する。
咲夜は竜真の存在を今、思い出したのか、いたんですねと口に出していた。それを聞いた竜真はおったよぉと悲しげに眉を下げる。
「ずっとおったよぉ。解説もしとったのに祭のファンしか聞いておらんのやもん。わし悲しいわぁ」
「す、すみませんっ」
気にしてへんよと竜真はいつものように頭を掻いて笑う。実況に気がつかなかったなぁと咲夜は思いつつ、ふと祭のほうに視線を向けた。
「うわ~ん、負けたぁ。ボクのターンまでくればまだどうにかなったかもなのにぃ」
「まつりんはよく頑張りましたぞ!」
泣き真似をする祭にファンの生徒が励ましの言葉をかけていた。それに気づいてか、マリアが高らかに笑う。
「雲林院祭さん、これに懲りたらワタクシの西園寺グループの悪口はお止めになることねっ」
「何よ、何よ! まぐれで勝ったくせにぃ~!」
「実力ですわよっ!」
「まぁ、運も実力のうちと言うしな……」
「菖蒲お姉様っ!」
むうっと膨れる祭に菖蒲はよしよしと頭を撫でる。それがいかんのやと竜真に指摘されるもやめようとはしなかった。
これは違うぞ、甘いとかではと、言い訳をしている。よほど弟のことを想っているのだろう。姉弟想いだなぁと咲夜は兄弟がいないので少し羨ましくなった。
「終わったみたいだね」
「っ⁈ グラン先輩と神威くん!」
二人の登場に咲夜だけでなく、マリアも驚き声を上げる。
どうして二人が此処にと言いたげな二人にグランは渡り廊下から丸見えだよと指を差した。見上げてみれば確かに渡り廊下の窓からカードファイトの様子はよく見えそうである。
「僕は通りがかっただけだけどね」
グランは笑むと神威にちらりと視線を送る。そんなグランに神威はあーっと声を漏らす。なんて言うかなといったふうに頭を掻く。
「……まーた暴走してたと思ってな」
前回のマリアと咲夜のカードファイトは自身にも多少非があったこともあり、神威は様子を見るために二人を追いかけてきたのだった。
「別に声をかけずに戻ってもいいって言ったのにこいつが……」
「当然だろう? カードファイトを観たんだ、対戦相手に感想を送るのは」
咲夜とマリアの意外そうな表情を見て神威は「だからいやだったんだ」とそっぽを向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます